こっくりさんはやってくる 1
あれから、早、二週間が過ぎようとしている。
『さっすがぁ、ナナちゃぁん!』
超絶美女な社長さんから、嬉し恥ずかし、凄く柔らかくて、凄く良い匂いのする、至極の抱擁を受けて。
『ふむ、ナナ嬢。良くやった。我輩、ますます生涯、コイツらではなくナナ嬢の飼い猫に成りたいと、うむ、どうだろう。ナナ嬢、毎朝、我輩の為に適温に温めた脱脂ミルクを作ってくれるぬか?』
ランポさんから、熱烈なプロポーズ、?、を受けて。
『まぁ、ナナちゃん。今回は本当に助かった。だから、初回サービス、無料にしておくわ。何か困った時は来てくれよ』
真内さんに別れ際に渡された珍しい黒地の広告。
霊能力問題相談所“フラット社”。
私が通学で使う露花高校前駅の、駅前商店街に電柱数本に貼ってある真っ黒な広告と同じ。
この駅を利用するようになった一年と二ヶ月ばかり、私の眼を惹き続けたチラシだった。
二週間前のあの日からは更に。
“幽霊、妖怪、誰にも言えない怪奇的な問題や悩み、私達がすぱっと解決します”が謳い文句なこの広告。凄く怪しげな広告だけど。
“もし、貴方がここに書かれた言葉を読めるならば、私達の力が絶対に必要ですよ?フラット社一同、心よりお待ちしております”
多分、私には、ミえてしまうんだ。
多分、他の人には一面真っ黒にしかミえない、無字の広告に、はっきりと白く輝く文字。そして、露花高校前駅からフラット社までの道のりを描いた図。
この前、辿ってみた。商店街から少しだけ裏道に入り込む、上にアパートを乗せる居酒屋と、年期のある大衆食堂の間に立つ、三階立てのビル。
一階は車庫だろう、閉まったシャッターで。その脇にある二階へ続く階段。何とも昇るのを戸惑う狭さ、薄暗さの先にあるフラット社のオフィス。
前面は硝子張りの窓にして、どういう書法?どういう書術?私にはミえるフラット社の文字が浮かび上がってる、なんとも訪ね難い、不思議な場所。
いや、私は何度も訪ねようとした。社長さんやランポさん、真内さんに会おうと。
でも、何の用事も無く、いきなり真内さん達の仕事場にお邪魔になっても良いのか。一度会っただけの人間が遊びに来ましたって凄く迷惑を掛けるのでは。
確かに私は今まで、フラット社の唱える怪奇的現象、ミえる事には色々と困ってきたけど。
「うわ、幽霊女だ!また、その電柱見てんのかっ。何、そこに幽霊でも、居んの?」
私をネタに周囲の嘲笑を誘う剣道部の先輩。こういう人達には、困ってきたけど、それはいつもの事で。
「それとも何かぁ?このただの真っ黒なポスター?お前の仲間にしか分からない標とか?うっわっ、怖っぇー!」
実に愉しそうに怖がりそぶり、周囲の取り巻きと共に絡んで来るこの先輩。
「あっ、おい、化物女。無視すんなよ!先輩に失礼だろう」
こういう輩は無視、深く関わらない。
既に私はそういう解決法を生み出してる。さっさと登校を再開しよう。
「おい、待てよ、妖怪女。待てって!」
向けた背中、背負った竹刀袋をいきなりだ。グッと引かれたら。高校男子の腕力にはまだ敵わない私は。
成す術なく後ろへ、硬い路面に背中から……