黒猫とその人はやって来る 6
私達が駆け込んだ暗闇に沈んでいるはずの体育館。
そこは想像していたよりも、明るかった。
「禍々しいとは、此れに極まり」
私の腕の中で呟くランポ。
体育館の中央、床に描かれているバスケコートのセンターサークルに重なって、光る何かの魔方陣。黒い、怖い何かを、渦巻き吸い寄せているそれ。そして、その黒い何かに引き寄せらていくモノ達。我先にと競い、周囲のモノを払い倒し、傷付け争い。
「まぁな、此れが蠱毒ってやつなんだろさ?此処に集められちまったヤツラにとっちゃあ、アソコを中心に貯まる邪気は最高の増力剤。しかも、周りのライバル(怨霊)を消せば消すほど、消えた奴の怨みも増して怨念が溜まるってな。文字通りの負のサイクルってやつだ」
真内さんはランポさんに言ったのか、私に説明してくれたのか。
「だから、早めに片を付けないとなって事でっ、社長、一発頼みます!」
「オッケー」
社長さんは真内さんに返答する前にはその弓を構えていて、“鳴らした”。
清らかな音速の波動が広がっていく。
と共に、その元凶たる魔法陣へと駆け出した真内さん。
速い。社長の奏でたハマキュウの弦音に動きを止めた怪物達の間を縫って抜ける真内さん。それは同じ人間とは思えない速さ。社長さんの弦音で黒々しい竜巻が生滅した魔法陣術へと突き進み……。
「早っ!くそったれぇ!」
早くも再び喧騒を取り戻した館内で尚目立つ悪態を叫ぶ真内さん。
息を吹き替えして直ぐに黒い空気を吸収し渦巻き出した魔法陣と呼応して、社長さんの演奏に動きを止めてた魔物達がまた動き出す。彼らの目指すゴール、怨念とやらが集う魔法陣に最も近付いてしまった真内さんを最大の敵と捉えて。
「しゃちょー!すいませんが、もう、一発お願いしまっ、がっ、此方にくんなって!」
一剣道部員として正直に。刀一本で孤軍奮闘。私は練習試合の一対一ですら一本を取られるのに。呉越同舟とばかりに狙われる四面楚歌な真内さんは、一太刀も一爪も、一牙も受けぬよう、綺麗に捌く。余裕は無さそうだけど、綺麗に舞う。まるで、昔、お祖母ちゃんが見せてくれた剣舞のように。
「うん、シロ君、此方もちょっと無理かなあー、って!ランポ、怠けてないでっ!」
呆けていた私の方へといきなり矢を放った社長さん。
私の後ろにいつの間にか居た、角が生えている牛のように大きな蜘蛛が、その瞳に綺麗な光を纏った矢が刺さり。盛大な雄叫びを挙げると光に消える。
「無論、我輩は気付いておったよ、夏菜嬢。勿論、我が友の願い通り、ナナ君に怪我はさせんよ?……しかし、これは少々分が悪い。夏菜嬢、一旦退くべきではないかね?」
「退くって、何処にぃー?」
私達の後方、既に校庭内のもののけ達も復活。元凶である此方を目指して競い迫って来ている。また放つ輝く矢の命中に、上がる断末魔に掻き消されぬように、声大にした社長さんの言う通り、退路は無い。
「ランポぉー!社長が“奏でる”時間を稼げぇ!!」
最も魔法陣に近い場所、最も強きモノ達が集うその場所で、最も強きと認定されて、集団リンチに遭っている真内さんは、華麗に攻撃を避けながら叫ぶ。
「易々と言ってくれるな、シローよ!如何に我輩が超絶ジェントルメンな猫又と言えど、こう、数が多くてはっ、夏菜嬢、左!」
「分かってますってっ、ほっ!」
ランポさんの臨場感溢れる実況に素早く、対応する社長さん。
それに比べて私は、全然で。
「ナナ嬢は右、って、我輩がやるべきかっ」
私の腕の中から飛び出たランポさん。私に迫る大きな何かの影に五筋の爪跡を刻む。