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黒猫とその人はやって来る 5

目の前で私の無知を嘲笑するこの人には、幾ら笑われたとしても許せてしまう魅力がある。


「あぁー、もう、ナナちゃん、可愛いなぁ!ウチに来ない!即採用、アルバイト代、弾むよ!」


「まっ、待て、夏菜嬢!我輩、潰れっ、ぐにゃあーお!」


何故か思いっきり抱き締められた。さっきまでの敵意に満ちた視線が嘘のように……。私にとってそれは久しぶりの感覚で。


訳が分からなくて。嬉しくて。


「社長の言った、コドクって言うのは、漢字で謂えば、虫三つに皿って(蠱)字に、(ドク)、って、書いてなぁ」


いつの間にか、持っている刀の鞘で地面に漢字を掘る真内さん。


「文字通り、蟲を使った“呪い”の一種なんだわ。今回は蟲だけではねぇけど」


真内さん?


「本来はトカゲやカエル、ヘビ、ムカデやらを同じ壺に閉じ込めて、争わせて、殺し合わせて、最後に生き残った奴を神と崇める儀式だったらしいが……」


ニヒルに笑う今の真内さんは、もしかして凄く怒ってる?


「今回はどっかの馬鹿が起こしやがったのは、全てのチカラを呼び寄せ閉じ込め、殺意に満たす、そんな陣術を敷きやがった。此処にだ。つまり、只今、この学校敷地内は呪壺の中なわけで」


眼鏡の奥の瞳。愉しそうに歪んでるけど、私にはその闘志が見える。身体から、吹き出ているチカラの流れもミえている。


「っと、言うわけで、ナナちゃん。こっからは、その蠱毒って呪術をぶち破りに行くわけだ。俺と社長はさ」


真内さんの視線は、私たちがいる剣道場前と広いグランドを挟んだ真向かい、第一体育館。この人達に比べれば大分素人の私にも分かる禍々しさ。


今一、蠱毒なるものを理解出来ない私でも分かる。彼処が、彼処に元凶がある。


「シロ君の言いたいのは、危ないから今度こそはランポちゃんの傍を離れずにって事だよ?……ランポちゃんも分かってるよねぇ?」


私に抱き付いたまま、甘い声音で辛口で私の返事は聞かない。


「社長」


「うん、サンキュー、シロ君」


真内さんが投げ渡した矢筒。……その貴方が手を突っ込み何かを取り出す“どこでも四次元ポケット”ってなんですか

とは、聞けないまま。





「ふむ、シローと夏菜嬢は、行ってしまったな。節介、二人きり……いや、集まりし亡者どもが地に降れ伏しておるが、“らんち”の続きでもせぬか?ナナ君の卵焼きは、我輩の永き生で培かい肥えたこの猫舌を感動に打ち奮わせる絶品。我輩は、ナナ君のようなおなごに是非、毎朝、猫舌に優しい暖かさのみるくをいれて欲しいと……」


私の腕に抱かれていたランポが、その猫舌を妙にフル回転させているのだけは、分かったけど。


社長さんが静寂を取り返した日暮れ後のグランドに取り残された私を慰めるように明るくしている。


けれど、私は気になる。静かに横たわる魑魅魍魎の群れの中を体育館へ向かい、ゆっくりと歩く二人の背中が。



今まで、私が一人でいた世界を知っている人達。私だけだった世界を私よりも知っている人達。


「あの、ランポさん、社長さんは“ランポ”さんの傍を離れるな。としか言ってないですよね?」


「うっうむ、しかし、ナナ君。我輩は夏菜嬢達が此処に戻って来るまで一歩も動かぬよ。よって、ナナ君も此処で待っているしか無いのだよ」


都合の良い解釈かもしれないけど、社長さんの言葉は私にはそうは聞こえなかった。私よりも社長さんの性格に詳しいだろうランポさんが僅かに言い澱んだ事が、私の答えの正解率を上げる。


「大丈夫です!ランポさんは私がちゃんと運びますから、結界とか言うのを張っておいて下さい」


「ちょおっ、ナナ君っ!」


ついて来るなとは言わないけど、ここから先は自己責任で。社長さんにそう言われたんだと信じて、走り出す。


追い付いた私は。


「ふふっ、悪い子だねぇー、ナナちゃんは」


悪戯が成功した子供のような笑顔で迎えられました。


「社長が丸投げるだろう、この件の後の始末を考えると頭が痛えよ。……まぁ、ナナちゃんも良い経験って事で……ランポ、怪我させんなよ」


此方はどうやら、呆れた苦笑い。


「全く、シローまで我輩に。夏菜嬢も夏菜嬢だ。アキナ嬢ににて愉快犯になりおって!ナナ君もっ!この二人のような適当な大人に成ってはならぬぞ。日本の女性はもっと淑やかに在るべきでだねぇ」


ランポさんは一人ぶちぶちとぼやいて。


「まぁ、術の源を絶たなけりゃあ、ここから出れないしな。何処にいても同じ、危険ってこった。……って、事で、社長の時間稼ぎが切れる前に急ぐぞ」


「わぁーお、結構本気で祓ったのにもう貯まってきたよ。こりゃあ相当ヤバい術を敷かれたもんだね」


真内さんが見渡す周囲に嫌な感じのモノが集まって来ている事に、私も気付く。また、徐々に校庭が煩くなりだしていた。


「こいつらの無差別八つ当たりに巻き込まれる前に走るぞ!」


真内さんの一声で私達は、ざわめく魑魅魍魎を縫うように走り出す。





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