“さよ”へ、“つかさ”より
前話の”白庭つかさの引継ぎメモ”の中身です。
さて、今の君は何もわからない状況で、
とりあえず近くにある目立つこの手紙を手に取っている状況だと思う。
……たぶん、今の君には僕の名前すら思い出せていないかもしれないね。
違ったら……まあ、それでも君の指針にしてくれると嬉しい。
僕の知識をなるべく引き継ぐ。
さて、この状況は性転換薬の副作用だ。
この“国”の少子高齢化の解決策、性転換の選定者だったため、
17の誕生日にカプセル状の性転換薬を飲んだ。
どうも王都の“連結機械”による開発らしい。
王都にのみ存在する高機能な演算・生成装置、
らしいけど、この辺の田舎ではまず見ないくらい“変な物”だ。
王都の技術ってすごいね。
コンピュータみたいなのだ。分からない?
まあ、俺もわからない、夢で出てきた。
ああ、そうそう、伝えておく。たまに夢でここじゃないどこかの
変な世界で過ごしている自分を見ると思う。
まあ、気にしないでくれ。僕には実害はなかった。今のところは、ね。
たぶん周りの人には起こっていないから、相談はしないように。
そもそも君には起きないかもしれない、
でも起きたら……まあ、その知識が役に立つかもしれない。
例えば僕が見た夢は……なにか、なにもない、空を操っていた。
変な服、王都の正装に近いかな?でも動きやすい服を着て。
でも目覚めると空を操る感覚は忘れてしまう。
まだ見つかっていない魔法があるってことかな。
さて、次。生活について。
僕(と君)は“学園”生徒だ。
学園と聞いて不安だろう。
まあ、僕(と君)は性転換薬対象者だ。
ある程度便宜は図られるとは思う。
友人にもいろいろ釘を刺しておくよ。
あとは……授業内容において行かれないように、
常識程度の知識を書き残すよ。
さっきもちらっと言った……魔法には、
(炎・風・雷・光・水)の属性がある。
そしてそのあとに形状を決定する。
風属性は(弾・刃・矢・玉・奔流)の五つ。
たぶんさよとして初めての実習は「風の矢」になると思う。
矢の飛び方の勉強をしておくのを勧める。
魔法の強さや精度は、すべて“イメージ”次第なんだ。
たとえば──
物は空に拒まれ、大地に吸われて落ちていく。(重力?)
羽根のつけ方ひとつで、その拒み方も変わるらしい。(空気抵抗とか、揚力って言うんだっけ)
あと、回転を加えると矢の姿勢が安定するっていうのも夢で見たな。(角運動量とか、ジャイロ効果とか)
……なんか、こういう言葉が頭に残っててさ。
たぶん、夢の中で拾った知識なんだと思う。
正直、俺もよくわかってないんだけど
……不思議と“正しい”気がしてる。
空を操るのに必要な知識かも。
あとは……僕の好きなものと趣味。
味噌汁、焼き魚、ほうれん草のおひたし、白いごはん
みたいな味の繊細なものが好きかな。
夢の中では“和食”って言ってたよ。
あまりに好きすぎて夢で見るくらいだよ。
次に、交友関係や信頼できる味方、気をつけるべき人物など。
大月 亮冴くんって子がいる。僕の親友だ。頼ってあげてほしい。
新美 潤。優等生だ。授業の相談はこの子にするといい。
ある程度話す関係だった。
たまにわけわかんない、新美語を放つけど。愛嬌ってことで。
禊 月人。成績は低め。新美とよく絡んでる。なんでだろ。
まあ、友達の友達って感じで、多少は話せる関係……かな?
次、性転換薬の副作用の具体的な症状や制限っと。
身体的・精神的な変化や、それによる日常の注意点。うーん、わかんないや。
養護教諭・浅緋 宵 (あさあけ・よい)先生が詳しいかな。
28歳の性転換経験者だ。親身になってくれる……はず。
学園生活のルールや特有の文化、制度。
性転換薬対象者限定のものはないよ。
まあ、魔法は緊急時以外はむやみに発動しないように。
いわゆる良識が問われる。
今後予想される困難は……
そういえばそろそろ魔王の台頭する周期だ。
400年程度の周期があるんだ。
細かくは、落ち着いたときに教科書を見てくれ。
ここに書ききれない。
最後に。
俺たちが“選ばれた”のは不公平だったかもしれない。でも意味はあると思いたい。
女の子として生きるって、どんなことか俺にもわからない。でも恥ずかしがらなくていいよ。
こんな感じかな?
じゃあそろそろ君を迎えるとしよう。
さよなら、僕。よろしく、さよ。