2.戦いと出会い
家を出てから半日は経っただろうか。時刻は昼を過ぎて日差しが直で当たって本当に暑い。そういえばと思い出して背負っていたリュックからマントを取り出す。
少しは日差し避けになってマシにはなっただろうか。
「それにしても、かっこいいなこの腕は...!」
旅の目的を忘れて思わずテンションが上がってしまう。白銀のガントレットの爪先には、鋭い刃がついており、まるでそれは昨日見た犬神様の爪のようである。獣とはこんな気持ちなのか。そしてガントレットの甲には犬神様の紋様と思われるものが金色で施されている。ガントレット自体はあまり大きくなく、大男の手ほどであろう。爪もペティナイフほどしかないが、この重厚感はそれでも気分を高揚させる。
「にしてもどう使えばいいんだこれ。これじゃ手もグーにできないしな...」
そう思って歩きながらグーにできないかなと模索してみる。そうしているうちに爪が後ろにスライドすることを発見した。握り拳を作ることで拳頭から爪が生えているかのようなフォルムに変形するようだ。
「これで殴れば敵を串刺しってことか...恐ろしい」
またその爪の切れ味もペティなどは比べものにならず、向かってきた野生動物を袈裟斬りにすると中の臓物までも綺麗に切断され、消化途中の死骸までもが露わになり後悔するほどだった。
「それにしても家からここまで離れるのは初めてのことだな。俺はばあちゃんしか知らないけどこの先仲間とかできんのかな〜。できるといいな」
正直言って不安も多い。世界のことをよく知らない俺が魔王を一人で倒せるなんて考えちゃいない。だからできれば助けてくれる仲間が欲しいな。
そう思って湿気立ちこめる森の中を歩いて行くと湖を発見する。
「おお!水分はいくらあってもいいからな!飲んでいこう!」
俺は水質を確かめるために近づいて行く。
するとバシャン!とそう遠くはないところで音がした。目をやるとそこには裸で水浴びをする背の高い男がいた。決して細身ではなく鍛え上げられているが、筋骨隆々というわけではなく、実用的なアスリート体型で、脚の筋肉はまさにその持久力と俊敏性を物語っている。
「お前、美しいものを着けているな!」
そういって男は俺のガントレットを指差す。
「あまりの輝きに俺かと思ったぞ。おお、大絶賛だ。それ、譲ってはくれないか?俺にあまりに似合うと思うんだ。おお、そうに違いない」
こいつはあれだ...やばいやつだ。言っていることがなにもわからなかった。言葉ってこんなに難しかったか??どいうことだ??しかも、厄介なことに多分こいつは、
「強い...」
そう確信した俺は思わず男と反対方向の森に全速力でかけ出す。ここら辺はもう俺の知る森じゃないから詳しくはないが、それでも方角はわかるし地形の予想もつく。地の利はまだ俺にあるはず。
「なぜ逃げる!?」
男は遠くで叫ぶ。その声の遠さから少し安堵する。このままいけば巻ける。きっと追いつかれない。草木を掻い潜り時に蔦を切りながらグングン進んでいく。
「おお、速い。その速さも、美しいな。俺には及ばないが」
声がした。それもほぼ真後ろだ。これは捕まる。逃げても無理か。覚悟を決めて振り返り、攻撃の姿勢に入る。男は裸のまま追いかけてきていていちもつがものすごく揺れていて痛くはないのかと一瞬思考によぎる。
俺の臨戦体制に男はとても驚いていたが出したスピードを止めることができない。
「いやちょまってたんまたんまたんま!!!」
俺は聞く耳持たず裏拳で殴る。裏拳以外だと全てこの爪が切り刻んでしまうからだ。
男は吹っ飛び木と背中から衝突して裸のまま地に伏した。
「いったぁぁあ!!何をするんだ!!この美しい俺の体に!!!」
男は思わず涙目になりながらも文句を垂れる。
「さ、先に意味不明なことを言ったのはそっちだろうが!!」
俺は困惑しながらも怪訝な顔で言い返す。
「な、何が意味不明なのかね!?美しいこの俺に美しいそのガントレットが似合いそうだからよければ譲ってくれないかと聞いただけじゃないか!!」
ほ、本心からそう言っているだけ...??なんかやばいやつとかじゃなくて??いややばいやつだけど...!!!
「じゃ、じゃあ嫌です!!すごく大切なものなので!!嫌です!!」
俺が眉間にシワを寄せながらいうと、
「そうならそうと先に言いたまえよ。俺も暇じゃないんだ。くれないならそれでいいんだ。俺には美しい剣があるからな!」
男はきっと癖なのだろう、裸のままであることを忘れいつも身につけている剣を抜き出そうと腰に手をやる。
「ん? おお、しまった。俺は裸だったか。あまりに美しい裸体だったもので。装飾の施された超高級織物でもきているものと思ったぞ」
いや、いやいや。どう考えても不審者だ...。
「まあいい、怖がらせたお詫びをしよう。先程巨大な魚を捕まえてな。今塩につけて臭みをとっているところなんだ。良ければ一緒に食べないか。どうせ水も必要だろう」
不審者すぎるが、仕方ない。水も限りがあるし、今の感じなら襲われてもギリギリ倒せそうだし。
そう思って俺と男は水辺に戻った。男は戻ると身体を布でふき、綺麗に畳んであった服に着替える。
鍛え上げられた身体は鳴りを潜めるように、白のちょっとダボっとしたズボンに上は獣の皮を使ったジャケットを羽織った。
「改めて自己紹介をしよう。俺はレオーネ。王である」
全てを見下ろすような不遜な態度とは裏腹にこの男の真っ直ぐさを表すような輝く瞳はどこか人を惹きつける。王を自称するのも頷ける。
「お、俺はシン。旅人だ」
「そうかシンか!素晴らしい名だ。よろしく頼む」
レオーネは屈託ない表情で手を差し出す。王が自ら手を差し出すとは。どこか憎めないやつだ。
握手を交わすとさっそく魚を調理してやろうというので、俺は火をつけることにした。分業だ。
レオーネは塩漬けにした魚の身を一度水で洗い流すと手際よく鉄板で焼き始める。
「この魚は火をレアくらいに通して食べるとそれはそれは美味いんだ。たまに腹を壊すがな!」
「俺のはよく焼きで頼んでもいいか...?」
俺は苦い顔をしながらレオーネに頼むとふむといいながらむしろ皮目をパリパリなるまで焼き上げてくれた。
食事も完成したのでこちらからはパンを提供することにした。1日目ながら中々贅沢な食事だ。
食べながらお互いのことを少し話した。どこで生まれ育ったのかなどだ。レオーネはこの幽鬼の森とは少しズレた場所にあるライオネル大国で生まれたらしい。ライオネル大国といえば数ヶ月前までよくばあちゃんがたまに街からもらってくる新聞に必ずと言っていいほど載っていた産業大国だ。
「よくばあちゃんがライオネル産の調理器具を買ってきてたよ!そうかこの鉄板もよくみたらライオネル産か!!」
「ああ、あまりに美しい国だった」
過去形??
「だったってどういうことだ」
俺は一つ心当たりがあった。心がざわめく。
「魔王アダドゥームが、我が国の軍事力を恐れて一目散に滅ぼしたんだ。国民は全て捕虜にされた」
魔王、アダドゥーム...姿さえ知らないその名前に怒りが沸々と湧いてくる。
そんな俺の顔を見てレオーネは少し微笑むと、声高らかに言った。
「だが心配はない!!なぜならこの俺、レオーネ・ライオネルが!!国を必ず再建してみせるからだ!!!!血は途絶えていない!!そして国民は必ず取り戻す!!なんとしても!!そのためにこうして修行の旅に出ているのだからな!!」
そういって腰に武装したレイピアを高く掲げる。そこには煌めくライオネル家のライガーという獣の紋章が入っていた。
「ほ、本当に王だったのかよ!!」
俺は思わず驚きを隠さないでいると、
「正確には王子だがな!」
と言い返してくる。思わず笑いを堪えられずに吹き出してしまう。レオーネは一緒に笑ってくれた。そうか、こういうのが仲間っていうのか。なんて思った。
読んでくれた方はありがとうございます。少しわかりにくいですかね、私の文章は。不安もありますが今のところ描きたいものがかけていると思います。レオーネとシンはこの先辛い目にも悲しい目にもあってもらいますが必ず二人は打ち勝ってくれると信じています。