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木枯らしにもやもや(1)

 我が家の北側の緑地にコナラ(小楢)の大木がある。


 少し盛り上がった高台にすくっと立ち大きく伸びやかに枝を広げた木はとても立派で、他の常緑樹たちの中でもひときわ目立つ。緑の帯を背景に一本だけ黄葉から紅葉(橙葉といった方がいいか)する様はとても美しい。

 しかし、木枯らしの季節を迎えると憂鬱(ゆううつ)になるのである。


 読んで字のごとく、本当に木を枯らさんばかりの強い北風が吹きまくって冬の到来を告げる。この際、冬型の気圧配置とか理由はどうでもよい。

 夜に北風が吹き荒れた翌朝は大変なことになっている。


 玄関の扉を開ければ一面落ち葉の海である。もちろん犯人は美しかったコナラである。

 ほとんどはギザギザしたコナラの葉であるが、それ以外にもどこから飛んできたのか、様々な形状で大きいものは手のひら二つ分くらい、小枝の付いた枯れ葉までもが多数混ざっている。

 この光景を初めて目の当たりにしたときは唖然(あぜん)としたに違いない。




 階段は(うず)もれいたる所に吹きだまりができている。

 そう、雪の吹きだまりとまるで同じである。この地ではめったに雪は降らないから、子どもの時分のように、雪に難儀することはないが、代わりに落ち葉の吹きだまりに直面する羽目になるとは思いもしなかった。


 しかも、この枯れ葉の来襲は第一波に過ぎない。

 コナラの葉はなかなか落ちないようにできているらしい。

 かなりあとになってから知ったのであるが、コナラはもともと常緑樹であり落葉樹になったあとも、離層が未熟で基本的には新しい芽が出るまで落葉しない性質があるのだそうな。


 何か分かったような分からないような説明であるが、それはどうでもよい。

 つまり、本当はまだ落ちたくない葉が木枯らしたる強風のせいで分離させられ、それは穏やかな日和なら真下に落ちて豊かな腐葉土になるのに、代わりに遠くにまき散らされるのである。


 木枯らし、おまえが真犯人だったのか。コナラさん、悪者扱いしてすみませんでした。




 強風が吹かないと葉を落とさないから、そのような荒れた日ごとに枯れ葉軍団が襲来する。

 この大群の掃除がなかなかに大変。風が収まっていなければなおさら。枯れ葉は一度に指定の大きさの袋二つまでは市が無料で回収してくれるが、とてもそんな量ではないのである。


 不思議なのは、他の家の周りにはさほど葉っぱがないことである。前の道路に出て見渡せば、どういうわけかうちの周りだけに葉が積もっている。明らかに違うのである。嫌がらせとしか思えない。


 早朝から竹箒(たけぼうき)で落ち葉を集めるようなまめなご近所さんばかりではない。他の家では精霊ブラウニーがお手伝いしてくれているわけもない。

 そもそもなぜここに枯れ葉が集まるのか。木枯らしの恨みを買ったのだろうか。


 しかし、よくよく葉っぱの飛翔経路を観察してみれば、絶妙な風の通り道があることに気づく。緩やかな坂道で急カーブした道路の外側に我が家は面している。

 この配置が吹き寄せと多数のよどみ点を作り、それらの中心に向かって渦巻きながら枯れ葉が集まってくる。




 葉っぱだけでない、様々なゴミも一緒に集まってくる。

 きれいに片づけても翌朝には元の木阿弥(もくあみ)になっていたりするものだから、しだいに手抜きをするようになった。北風が続くようなら最低限必要なところだけ邪魔者を取り除く。


 うちだけ清掃不十分なのが分かっても見て見ぬ振りをする。ただし、足元にだけは気をつけなければならない。我が家に配達に来られる方が()れ落ち葉で滑ったりしたら一大事である。


 こうして落ち葉との飽くなき攻防は初春月いっぱいまで続くのである。

 引っ越し先を誤ったのは確か。


 誰しも知らない土地がどんなところかと身構える。地盤がどうとか、地震のときにどう行動したらいいか、それ以外にも自然災害に直結する危険なところはないか、ご近所さんとうまくやっていけるだろうか、大いに気になるものである。

 しかし、落ち葉の大襲来は考えてもみなかった。盲点を突かれた思いである。


 もしも将来また引っ越す機会があるとしたならば、周囲の植生をよく観察し、風の流れなどもシミュレーションしてから決めたいものである。 (続く)


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