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木も悶々としていますか(1)

 以前に住んでいたところでは、出生時に市からお祝いの苗木をいただけた。


 まちの緑化促進とか草木を愛する心を育むとか、そのような趣旨だったと思う。樹木のリストが配られ、そこから選ぶようになっていた。


 当時暮らしていた窮屈な住居は、木はもちろん草花すら満足に育てられる環境ではなかったこともあり、へええ、そんな企画もあるのか、程度の思いだった。


 それからまもなく隣の市に引っ越すこととなった。


 だいぶ広くなった住まいには南向きのバルコニーなるものがあり、しばらくして、樹木でも鉢植えなら草花のように何とかなるんじゃないの、と気づいた。


 案内書をまだ持っているかと探し、転居時の断捨離を奇跡的に免れた封書を発見した。

 すでに何か月も経っていた上に別市に移ったこともあり一応確認してみたところ、問題ないのがわかり喜び勇んで緑化センターに出かけた。




 もらったリストを見て八朔(はっさく)がいいと決めていた。末広がりの八に月の始まりを意味する朔という字がなんともいい感じ。

 今は春が旬の八朔が八月一日なるピンポイントの名前を持つなんて、単純な私は底知れぬ神秘か運命の出会いと感じてしまうのである。


 この日付にどんな意味があるのか調べたことはあるが、いまいち納得には至らなかった。名前の由来には、偶然や適当感を漂わせていることもままあるから素直に受け取ってはいけない場合もある。


 いずれにしても、果物としても私は夏みかんや甘夏より断然好き。あのサクサク感と何とも言えぬ苦みが癖になる。


 もちろん地植えはできないけれど、そうしたとしても樹高は控えめだという。


 ところが、訪れた園芸場で衝撃の事実に直面した。

 八朔ちゃんがいなかった。時期が悪かったのか、それ以外の選択肢も乏しかったと思う。誰が残っていたかは記憶にない。


 他の候補は眼中になかったため、あらためて居残る苗木たちを見せてもらい、迷ったあげくに決めたのが(あんず)


 桃色の花が葉の出る前に咲き、その(つぼみ)は梅のような和の雰囲気に満ちている。ピンポン玉くらいの黄金色の実をつけ、ジャムとしてもよく見かける。


 いそいそと持ち帰り、葉の落ちたひょろひょろの木を鉢に移す。ちびちゃんだった背がちょっとずつ伸び、ほんの少しずつ太くなっていく。


 このころは、柑橘(かんきつ)系の果物を食べたときに出てくる種から、よさげなものを選んで植え付け、様子を見るのが流行(はや)っていた。バルコニーに結構な数のプランターが並んでいる写真が残っている。

 もしかすると八朔ちゃんに出会えなかったことが尾を引いていたのかもしれない。


 いろいろな芽が出てくるプランターと草花の鉢に囲まれて杏ちゃんは生長していったのである。


 しかし、私はあまり先のことを考えずに決めてしまう癖があり、激しく後悔する羽目に陥るのである。 (続く)


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