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第3話 生残

榊はいい大人ですね。

ザワザワザワ…

「お母様!!これは一体何事ですか?」

「榊!居ますか?」

「はっ…」

「一大事です。命に変えてもヒノエを守りなさい。」

「はっ…」


周囲は、次々とトールの刃が人々を串刺しにしていく。まるで現代の大粛正のようにそれは無慈悲に淡々と、人々の断末魔を嘲笑うかのように行われていく。


「!?お母様はどうなさるのですか?」

「…」

「お母様?」

「私はお父さまを助けに行かなくてはならないの」

「まさか…そんなのいや!!」

「榊!行きなさい!!北条の血を絶やしてはなりません!」

「いやだ!!お母様!!いやだ!!」

「必ず、生き残りなさい…」


見慣れたはずの周りのビルや建物がまるでモンスターのように次々と人を惨殺していく。町中の人々が血を流し、あっという間に東京の町が東京タワーと同じ色に染まっていく。


「人の少ない場所に向かいましょう。」

「北は冬が厳しいので、出来るだけ暖かく生活できる場所を目指します。」

「…ぐすっ」


泣き止む間もなく飛び出し、ボディーガードが榊はバイクを巧みに扱いながらトールドールたちの攻撃を躱していく。榊は元自衛隊のレンジャーに所属していた凄腕ボディーガードであり、生存することに賭けては日本でも屈指と言われている。


「お嬢様。私はトールドールに対抗する武器を持っていません。故に私の言うことをよく聞いて、今後は素早く動いてください。」


「わかりました。」


「その切り替えの早さ、素晴らしいです。では、今はとにかく頭を下げて攻撃に当たらないようにしていてください。」


榊は、さらにバイクのスピードを上げてあっという間に東京の首都高速道路を駆け抜けていく。アドミニストレーターとはいえ、知能を持っていない道路のトール金属を遠隔で操ることはできないようだった。


「家にも帰れない、知り合いもいない。

これから私たちはどうなるの。」


「生き残りましょう。

たとえ人類が絶滅に瀕しても、北条家の血は絶やしてはいけません。」


「北条の血ってそんなに大事ですか?お母様の命よりも」


「いずれはお嬢様にもわかります。この時世の世の中だからこそ私や、お母上の命以上によりお若いお嬢様の命に価値があるのです。」


「それは…どういう意味…」


「助けてー!!お願い…」


「人が!!榊!人がいます!」


道路脇に足を引きずっている女性の姿が見えた。トール製の女性の腕は侵食されて、今にも彼女自身の自我を呑み込もうとしている。


「ダメです。彼女はもう助からない。」


「でも、子どもを抱いています!助けなくては!命令です!」


「しかし…分かりました。」


バイクを止めて榊が女性に話しかけた。


「お願いします…子どもを助けて。」


「失礼ですが、あなたはトールに侵食されていて、もう助からない。お子さんだけなら安全なところへ連れていけます。どうなさいますか?」


「嫌よ!!私も連れて行って!私を連れて行かないならこの子も渡さないわ!」


「…先ほどは子どもを助けてと言っていましたよね?」

母親のあまりの手のひら返しにヒヨリが聞き返した。

「方便に決まってるじゃない!!あなたたちみたいに育ちのいい人間にはわからないでしょうね!この子は私の子なんだからどう利用しても私の勝手よ!もういいわ!どこかへ行って!別の人に頼むわ!」

「…」


榊とヒヨリの2人は呆気にとられて、2人を置いて行った。


「いったい人はいつからあんなに自分勝手な生き物になってしまったの…」


「価値観とルールを押し付けられ、何十世代にも渡って劣等感を抱え続けた人類の心は、我々が思う以上に貧しくなってしまったのですね。」

人の心の貧しさが、1番見たくないものかもしれませんね。

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