深夜の台湾料理屋と月灯り
あなたの何気ない惚気話しに
「じゃあなぜわたしを気にかけるのか」と
少しの嫉妬から言ってしまったあの日
真夜中遅くまで営業している
下町の台湾料理屋で
気まずくなったお詫びに
ここでふたり一緒に食事をした
「少し甘めの味付けだね台湾風の餃子は」
そんな会話をしながら
あなたが注文した冷やし中華がテーブルに
運ばれてきた
翡翠色の細麺にトマト、エビ、玉子、きゅうり
もやし、醤油タレに角が取れていない
スクエアキューブの氷が清々しい
「綺麗、、」
そう言ってあなたは少しずつ氷を滑らせながら
お箸をすすめた
「でもここの割り箸は丸くて細くて掴みにくい、」
そんな話をあなたは笑いながらしてくれた
わたしはもやしラーメンにした
メンマともやしのシャキシャキを細麺に絡めながら食べた
「確かに麺だけだとこのお箸じゃ掴みにくいね」と笑った
少し甘めのラーメンスープにお酢を回しかけてみた
ここの店員さんの中国語はやさしげで
心地よかったから
お箸の不都合も少し甘めの味付にも
お互いに笑い合えたのかもしれないね
帰り道にあるカラオケ店から零れ流れてきた
【切手のないおくりもの】
ふと見上げた月灯りに
自分の中にまだ消えないものを冴え冴えと感じた
今はもうお酒をあまり飲まなくなった
あなたにわたしは
魔法じかけにしたつもりの歌を届けたかった
あなたを少しだけ酔わせて
照れずに本音を零してほしかったの
その言葉を聞けたならわたしはいずれ
酔が冷めたとしてもその言葉を
きっと忘れないだろうから
そんな大切なときがゆっくりとスープに
溶けていった真四角の氷とふたり笑い合った
少し甘めの想い出が
まるで切手のない手紙となって遠い空から
わたしのもとへ届き続けるから