伝えたいこと⑦
数時間後。
太陽がだいぶ沈み始めても、未来は何の手がかりも掴めていなかった。
──今日の私の成果ゼロ……。
仕事柄歩き慣れているとはいえ、流石に今日はほぼ1日移動しており、足も限界を迎えかけていた。
未来は立ち止まって、改めて周囲を見渡す。
少年少女たちの後を追おうとしたが、ものの数分で見失い、道があるまま歩いていたが、人が集まる場所にはたどり着けなかった。
時おり建物からこちらを伺っている人を見かけたが、声をかけてもすぐに引っ込んでしまう。
道端にいる人に尋ねようにも、そもそもすれ違う人がいない。
未来がまともに話したのは、あの少年少女たちのみであった。
ぐうぅぅー
誰もいないのが幸いだが、かなり大きな腹の虫が鳴った。
「……流石にお腹空いた」
お昼を食べてからほぼ歩きっぱなしである。
何の収穫もなかったが、今日はこのくらいだろう。
未来は駅の方に戻りながら、何か食べ物屋がないか辺りを見渡す。
だが、薄々分かっていたことだが、店らしい店が全くない。これは、ブロック街を出ないことには、食べ物にありつけないだろう。
しばらく駅方面に向かって歩いていると、ふと貰った紙を思い出した。
確かダイニングバーと書いてあった気がする。そこでなら、空腹を満たせるかもしれない。
先ほど少年から貰った紙をポケットから取り出す。
「ここから近そう……でも店の名前書いてないしなあ……」
店名は書いていないが、住所は書いてある。端末で調べると、ここからそんなに遠くないことがわかった。
イチから店を探すより、ここを目指して行くほうが早いだろうと思い、未来は端末に打ち込んだ住所に向かって、足速に向かった。
「わぉ……」
端末を頼りに、30分もしないで目的地付近へと着いた。
そこは、思わず声が漏れてしまうほどあまりにも何もなかった。
いや、建物は道路沿いに並んでいるから、何もないわけではないが、あまりにも生活感がなかった。
背の低いビルが立ち並ぶ区画なのだろう。
だが、それらのビルは、どれも明かりがついていない。車も1台も通ることなく、人とすれ違うこともない。
道路脇の街灯が着き始める頃には、まるで自分以外誰もいないところに迷い込んでしまったように感じる。
「えっと……ここの、地下?」
端末が指し示す建物は、思いのほかすぐに見つかった。
その建物の入口付近に、地下への案内看板が立っていたからだ。
未来は端末をしまって地下への階段を降りていく。
古い感じはあるが、よく掃除されているのだろうか、手すりやところどころ壁にはられたチラシは思ったよりもキレイだった。
階段を降り切ると、左右に通路が伸びていた。
その右手のいちばん奥が、目的の店のはずだ。
通路の蛍光灯は辛うじて何個かついているが、チカチカと寿命が短そうなものもある。
薄暗い中進んでいく様は、またしても本当に異世界の入口にいるかのような感覚だ。
「ここ……よね」
突き当たりまで進むと、その左手に、洋風のドアがあった。
オープンの看板がドアに提げられているので営業しているのだろう。だが、中は見えないため、ドアを開けてもいいものかと躊躇してしまう。
けどその躊躇いも一瞬で、未来はドアに手をかけた。