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Desire  作者: 碧川亜理沙
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伝えたいこと⑥



「……ここか」


 ブロック街は、すぐに見つかった。

 複数のブログやニュース記事から推定される住所の場所に行けば、立て看板など立っていなくとも、ここがそうだとすぐに分かった。


 ブロック街とは呼ばれているようだが、見た感じはいたって普通だ。

 道路があり、建物が並び、街灯が等間隔に並び……本来ならばどこにでもあるような街並みが広がっている。


 だけど、空気が違う。


 人を寄せつけないような、人がいるはずなのに存在感がないような、妙な空気を纏っている。

 駅から徒歩でも30分くらい離れているが、それにしても人の往来や話し声がない。

 まるで、今未来がいる場所から前後に、別世界が隣接しているような感じだ。


 ──立ち入り禁止とかじゃないわよね……?


 あまりにも周囲に人がいないため、思わず不審者の如き動きをしてしまう。

 だがここで足踏みしていても仕方がないので、思い切って、先へと進み出した。


 ひとまず、道が続く限り直進して歩く。

 周囲は建物が連なっているが、やはり人の姿は見えない。

 見た限り、新しい建物も見当たらず、場所によっては廃墟とも言える有様になっている。


 ──もしかするとここは、昔の建物たちがそのまま残っているだけなのかしら。


 そう思えるくらい、周囲の建物は歴史を感じさせた。


 しばらく道なりに進んで行ったが、その間、誰とも人とすれ違わない。

 通りがかった建物やアパートのような建物をみつけた時に、ちらりと様子を伺って行くものの、人がいた痕跡はあれど、そこに誰もいなかった。


「どこかに行ってるのかしら……」


 今日は平日なのだから、家に人がいなくてもおかしくはない。

 だが、下北沢でいくらか話を聞いたところによると、このブロック街に住む人は割りと多いようだ。家族そろって、泣く泣く住んでいる人もいるらしいという話だ。

 そうなると、子どもの声が聞こえても良さそうなものなのだが、人の子の声は全く聞こえない。


 ──もしかすると、もっと奥の方とか、集まっている場所があるのかもしれないわね。


 未来はそう思い、どんどんと続く道路を進んでいく。




 1時間近く経つだろうか。未来は、かなり奥まで道なりに進んできていた。


「これ、終わりとかあるの……」


 端末で地図アプリを確認したが、ブロック街の中の詳しい位置情報は何故か分からなかった。そのせいで、今自分が何処にいるのか分からない。

 ここまで歩いてきても、誰ともすれ違うことはなかった。

 道路も車がすれ違うことが出来るくらい広いのに、その車すら走っていない。


 ──人類が居なくなったら、こんなふうになるんじゃないかしら。


 思わずそう思えるような光景が、ただただ広がっている。


 さらに道なりに進むと、かすかだが、人の声のようなものが聞こえた。

 ここに来て、ようやく人の存在が感じられた。

 未来は聞こえたであろう声の方向に、小走りになって歩いていく。


「うぉっ!?」

「ギャッ!」


 流行る気持ちが隙をうんでいたのか、左から突然飛び出してきた人影に気づかなかった。

 しかも驚きのあまり、思わず乙女らしからぬ声を出しまう。

 未来は幸いにも倒れはしなかったが、ぶつかってきた相手が地面に尻もちをついている。

 よく見ると、まだ小学生くらいの小さな男の子だった。


「ごめんない、ちゃんと見てなくて……大丈夫?」

「いててて……手がヒリヒリする」


 そう言って地面に着いていた手を見ると、赤くなって所々擦りむいたようになっている。


「血は……出てないわね。1回手を洗った方がいいかも。砂利とか付いてるし……どこかに水道は……」


 未来が辺りを見渡していると、「だーいーちーっ!」と先ほど男の子が現れた道路の奥の方から、全速力で走ってくる人影があった。

 こちらもまだ子どもだが、ぶつかった男の子よりは年上だ。地毛なのだろうか、染めているような茶髪に目がいった。


 走ってきた少年は、未来たちの元まで来ると、未だ地面に座っている男の子目がけてゲンコツを食らわせた。


「いってーっ!」

「こんのど阿呆! 危ないから走るなって言っただろ!」

「ぼーりょく反対ー!」


 未来の目の前で言い合いを始めてしまった少年たち。

 この状況はどうすれば良いのかと途方に暮れていると、今度は彼らが来た方角から女の子たちもやってきた。


「そのくらいにしてあげなよ。お姉さん、困ってるよ」

「リー姉〜」

「ったく、あんまり甘やかすなよ」


 その少女が来たことにより、目の前の言い合いも自然と終わった。




「あの、うちの子がすみません。怪我とか大丈夫ですか?」

「あ、私は全然。その子、手を擦りむいてるみたいだから、ちゃんと手を洗った方いいと思う」


 今どきの子どもにしてはヤケに礼儀正しい。

 外の血を引いてるようだが、子どもたちの中ではいちばん年上なのだろうか。しっかりしている。


「ほら、お姉さんにごめんなさいしよう?」

「……ぶつかって、ごめんなさい」


 感情がこもっていない謝罪だったけど、子ども相手にいちいち突っかかることはしたくない。

 未来は気をつけてと言うに留めた。

 そしてこの場を去って行こうとする彼らに、未来は待ったをかける。


「あの……君たちはこの辺の人?」

「んー……まあ、そんな感じ」

「あのね、今人を探しているんだけど、文堂さん……こんな感じの人、見たことない?」


 未来は端末に保存していた5年前の記事の写真を見せる。

 子どもたちは見覚えがないのか、頭をひねるばかりだ。


「お姉さんの知り合いの人?」

「ええと……そうね、仕事関係の知り合いの人かな」

「俺たち、ここに住んでる人たち全員覚えてないよ」

「それは……そうよね」


 あまりにも当たり前のことを言われてしまい、未来は言葉につまる。

 彼らも文堂のことは知らなさそうだし、これ以上聞けることはないだろう。


 未来は子どもたちにお礼を言い、去っていく彼らを何となく見送る。


 ──あ、あの子たちが向かう方に行けば、他にも人がいるんじゃないかしら。


 はっと思いつき、見失わないようにと子どもたちの後を追おうとすると、1人未来の方に向かって走ってくる子が見えた。


「あ、おねーさんまだ居た」


 茶髪の少年が、わざわざ戻ってきた。

 どうしたのかと聞く前に、未来は少年から1枚の小さな名刺サイズの紙を手渡される。


「それ、あげる。何か困ったことあったりしたら、おいでよ」


 じゃあね、と言いながら、少年は風のように走って去っていってしまった。


「……これって」


 受け取った紙は、黒字にシルバーの文字が書いてある。

 全く同じものを、つい昨日も貰ったばかりだ。


 不思議なこともあるのもだと思いつつ、未来は今しがた少年が走っていった方向に歩き出した。



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