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Desire  作者: 碧川亜理沙
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5/18

伝えたいこと⑤



 ──翌日。

 未来は再び、下北沢へと出向いていた。


 結局のところ、代替案を出そうにも、そんなにすぐには思いつかないし、第一上が了承してくれるか分からない。

 ならばと、代替案を考えつつ、本来の企画を進められるよう、文堂の足取りを探すことにした。


 だけど、何件か店を尋ねていくも、期待する返答がない状態が続く。

 どうやら、かなり周辺店舗同士の関わりが希薄なようだ。

 落ち込みつつ、未来は少し早めの昼食をと思い、昨日尋ねた1件のラーメン屋へと入っていく。


「いらっしゃい。あ、昨日のお姉さん。あの後収穫はあった?」


 店の中は、まだ昼には早いからか、お客さんは誰もいなかった。

 未来が空いているカウンターの端に座ると、水を持ってきた店員が話しかけてきた。

 どうやら、昨日話しかけた店員が未来のことを覚えていたらしい。

 注文をしながら、未来は全然だと答えた。


「あ、オヤジさんなら何か知ってるかも。あの人、結構前からここ周辺の店を転々としてるらしいし」


 そう言ってその店員は、奥の方にいる年配の店員を指す。

 その人も自分の話だと聞こえたのか、こちらにやって来る。


「何だ、ワシの噂話か?」

「オヤジさん、この人、人探し中らしくて。ここら辺で店やってた人を探してるみたいなんすよ」

「あの、突然すみません。文堂さんという方をご存知ないですか? 確か、文ちゃん食堂と言う名でお店を出てたと思うんですけど……」


 途中未来が口を挟むと、オヤジさんと呼ばれた店員はしばし考え込んだ後「あぁ、あの店の」と呟いた。


「ご、ご存知ですか!?」


 ようやく店のことを知っている人に会えたという事実に、未来は思わず声高に尋ねる。


「知っとるというか、ワシが昔居た店と、文堂さんの店は隣同士だったからな。朝の挨拶程度しか、声を交わしたことはなかったかな」

「そ、そうなんですか……文堂さんの店は、いつ頃に……その、なくなったんですか?」

「ちょうど3年前か。俺の働いていた店含め、かなりの数が閉店しちまった。文堂さんのとこも、その例に漏れずって感じだな」


 やはり、ここに店を構えていたのは間違いないようだ。

 だが、それも3年前までのことだが。


「その後、どこにいらっしゃるか知りませんかね……?」

「さあなぁ……他の場所に移ったか、はたまた別の店にいるのか……。悪いな嬢ちゃん、それ以上は分からねぇや」

「そうですか……こちらこそ、すみません」


 少しの期待もすぐに消えてしまう。

 落ち込む未来の前に、注文していたラーメンが置かれた。

 いい匂いに誘われて、気持ちも少しは浮上する。


「あの……最後に教えてください。文堂さんは、えっと、ブロック街……でしたっけ。そこに行ったと思いますか?」


 その問いに、年配の店員は顔をしためつつも答えてくれた。


「正直わからん。だけど、文堂さんはよその区から来たって聞いたことがあるから、可能性はないとも言えん。1度中央区に入ってしまえば、相応の理由がない限り、簡単には出られんからな」


 そういい、店員はちょうど来店してきたお客さんの対応へと移っていった。


 ──やはり、1度そのブロック街という所に行ってみてもいいのかもしれない。


 未来は内心そう思いつつ、ラーメンをすすった。




『ブロック街


 それの始まりは2XXX年。その年に流行したウイルス感染者の隔離地域として、ブロック街という場所は生まれた。


 国中を混乱に陥れたウイルス感染は、10年程かけてようやく落ち着きを取り戻し、皆が心置きなく安心して生活できる環境へと戻っていった。


 だが、ブロック街だけは、そんな日常から乖離することになった。



 話はそれるが、ウイルス感染が広まる数年前、中央区は所得階級制度を施行した。

 制度についての詳細は省くが、この制度の転機は、ウイルス感染が始まってからだろう。


 割を食ったのは、多くが感染者だ。特に今まで所得が低い層が、さらに所得を得ることが難しくなり、しまいにはもともと住んでいた家すら失う者もいた。


 そんな者たちは、ウイルス感染が下火になるにつれ、処理に困り始めたブロック街へ集まるようになっていった。


 人が集まれば、そこにコミュニティが生まれる。


 そこはもう、以前のウイルス感染者の隔離地域では無い。

 主にランク5の人たちが集う、新たな集合体ができあがっているのだ』




 そこまで読んで、未来は端末を閉じ、停車した電車から降りる。

 ブロック街なるところへ行くため、未来は新宿へ舞い戻っていた。

 電車に乗っている間、ブロック街の場所とその成り立ち等についてネットサーフィンをして情報を得た。

 やはり北区出身の未来にとっては馴染みのない話であり、同じ日本という国にありながらも、まるで違う国の事のように感じる。



 改札を出て、未来は通行の邪魔にならないように隅によって端末を開く。

 どうやらブロック街は、この中央区に何ヶ所か点在しており、ここ周辺だと新宿近辺にブロック街があるようだ。

 だが、地図アプリで検索しても、その場所の情報は出てこない。

 そのため、ネットサーフィンで得た情報を元に、探さないといけない。



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