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Desire  作者: 碧川亜理沙
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伝えたいこと④



 駅付近に戻り、近くのファストフード店で昼食をとる。

 お昼はとうに過ぎているが、店にはたくさんの人がいた。

 未来は窓際のカウンター席に空きをみつけ、そこに座る。


 昼食をぱぱっととり、食後のコーヒーを飲みながら、これからの予定を考える。


 ──文堂さんのお店に行ってみようか……。


 先輩から教えて貰った住所は、下北沢という所にあるのだという。

 ここから電車に乗れば、そう遠くは無さそうだ。

 ただ、連絡がつかなかったため、アポイントを取っていない。

 そのため、今日は直接出向いて、また後日取材を行ってよいか交渉してみることに決めた。




 電車に乗り、見知らぬ街の風景を見ていると、目的地まであっという間に着いた。


「えっと……こっちか」


 住所を端末に打ち込み、地図を見ながら歩く。


 地図は、商店街と住宅街の真ん中あたり、様々な飲食店が立ち並ぶ中に立っていた。

 お昼すぎということもあり、人は思ったほど多くはない。

 いたるところから美味しそうな匂いが漂ってきているので、ご飯を食べたはずなのにお腹が空いてしまいそうな場所だった。



「……ここ、だよね」


 端末上に表示された「目的地に到着しました」というポップアップを消して、周囲を見渡す。


 そこはちょうど、飲食店が入っている建物と、シャッターがおろされた建物がある場所の境界線だった。

 教えて貰ってきた住所にある建物名を探すも、それらしき建物は見当たらない。

 中には、かすれて読めないものもあった。

 少し周辺を回ってみたが、ここには住宅らしきものはないため、建物には基本店舗しか入っていなさそうだ。



「あのー……すみません」


 未来は近くの空いていそうな店に入っていく。

 店員なら、ここ周辺の店とも何かしら関係があるのでは思ったからだ。


「文ちゃん食堂? ……いや、俺らここに入ったのは2年前っスけど、聞いた事ないっすね」


 他の店にも何軒か尋ねてみたが、どこも同じような回答だった。


 ──でも、2年以上前にはもうここになかったってことよね……?


 そうなると、それより前からここにいる人に話を聞く必要がある。



「あの、突然すみません」


 今度は道の隅のほうで、井戸端会議を講じている主婦たちに声をかけた。

 同じように手がかりを探すも、やはり欲しい答えは返ってこなかった。


「でも、ほら、確かここのお店の何割か、入れ替えのためだかってことで、多くのお店が潰れたわよね」


 他を当たろうと思った時、主婦のひとりが思い出したように呟いた。


「あぁ、そういえばそんな事あったわねぇ。3年前くらいかしら? ちょっとした騒ぎになったものね」

「思い出した思い出した。私が通っていたお店もあったから、当時かなり残念に思ったのよねぇ」


 ひとりが思い出すと、連鎖するように他の人たちも思い出したことを話し出した。


 どうやらこの地域は、入れ代わり立ち代わりが激しい地域らしく、だいたい2、3年前にかなりの店舗が潰れてしまったようだ。

 もしかすると、文堂の店も含まれていた可能性が出てきた。


「難しいかもしれないですけど、その潰れてしまった店で働いていた人たちがどうなったのか、ご存知ではありませんかね……?」

「流石にそこまでは分からないわねぇ。通ってたって言っても、店員さんたちのことなんて、ほとんど知らないもの」

「でも噂なんだけど、一部の人たちはブロック街に流れて行ったって聞いたわよ。ほら、ここら辺自宅兼店舗として貸し出しているところもあるじゃない? 追い出されて住む家もなくなっちゃった人たちが、泣く泣くブロック街に行ったとか」

「まぁでも、そうなっちゃうのも仕方ないところあるわよねぇ。一気にランクが下がっちゃうでしょうし、そうなったらなかなか部屋も借りられないし」


 どんどんと話が進む中、見知らぬ言葉が出てきたので、思わず未来は口を挟む。


「あの、ブロック街って何ですか?」


 すると主婦方は、驚きつつも説明をしてくれた。



 ブロック街とは、所得階級制度のランク5──安定した所得を得るのが難しい、非常に困難な人たちが暮らす区域のことらしい。


 もともとは、昔に流行ったウイルス感染者たちの隔離地域として形成されたもので、ウイルス感染問題が解決した今は、そういった者たちが集まって暮らしているのだという。



「あなた、人を探しているようだけど、ブロック街には行っちゃダメよ。あそこは、警察ですらほとんど足を踏み入れないの。危ない取引もされてたりするんですって。怖いわぁ」

「それに、ブロック街と言っても、意外と広いのよ。人探しするなら、かなり骨が折れるでしょうね」


 今度はいかにブロック街が危ないかという話に広がっていったため、未来はキリのいいところで主婦方の会話から抜け出した。

 どこの場所も、主婦たちの会話はとても長い。




 ──さて、どうしたものか……。


 未来はひとまず、ホテルへと戻ることにした。

 安斎の取材はこれで良いとして、予定していた文堂の取材をどうするかを考えなければならない。

 おそらく、予め聞いていた文堂の店は、話に聞いた店の入れ替えの際に潰れてしまったのだろう。

 その後の足取りが不明な状態だが、別の地域に移ったか、ブロック街という所に行ったかなのだろう。


 とにもかくにも、出来ることをやるしかない。


 未来は、安斎の取材記事をまとめ、出来上がった草案を上司へとメールで送った。

 気付けば外はもう暗く、駅や近くの歓楽街の灯りが目立っていた。


「お腹空いた……」


 集中していたから気が付かなかったが、まだ夜ご飯を食べていない。

 何か食べに行こうかと思案している最中、携帯が鳴った。

 相手は、先ほどメールを送った上司からだった。



「──……はい。承知しました。何か進捗がありましたら、また連絡します。……はい、それでは、失礼します」


 通話の切れた携帯画面には、通話時間30分と表示されている。思ったより長電話になってしまった。


「……はぁー」


 携帯片手にそのままベッドに倒れ込む。


「ページ残しておくっていわれても……」


 未来は先程の上司との会話を思い出し、またため息をついた。


 今から代替案を探そうにも、内容がすぐに思いつかない。

 そもそも、2年目で初めて1人で受け持つ担当だからと、以前面識のある安斎と文堂の取材を受け持ったのに、こんなトラブルが起こると誰が想像できただろうか。


「せめて他の人に割り当て分増やすとか、何かしらの提案してくれてもいいのに……」


 ぶつくさと文句も言いたくなってくる。


 それでもしばらくすると落ち着いてきたので、未来は勢いよくベッドから起き上がる。

 文句を言っても何も始まらない、切り替えが早いのが未来の美徳である。

 よし、と意気込み、端末の電源をつけると同時に、かなり大きな腹の虫が鳴った。


「……まずは腹ごしらえか」


 そういえば夕飯を食べに行くところだったと思い出し、未来は携帯と財布を手に、腹ごしらえへと出向いて行った。




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