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Desire  作者: 碧川亜理沙
Opening
3/18

伝えたいこと③



 あらかじめ準備してきたということもあり、取材は順調に進んだ。

 安斎とは知らない仲でもないため、とても楽しい取材時間となった。



「──では、これで以上となります。とても楽しい時間になりました。ありがとうございます」


 数十分しか経っていない感覚だったが、時計を見ると1時間以上話していたようだ。


「あら、もういいの? 何か久しぶりに楽しくお話した気がするわ。記事、下山さんが書いてくれるのよね? 楽しみにしてるわ〜」

「頑張りますね。あ、あと最後に、お店の写真を撮っても良いでしょうか? お客さんきても、迷惑にならないようにはしますので」

「いいわよ。私を撮る時は言ってね。お化粧直ししとくから」


 冗談めかして言う安斎に「分かりました」と笑いつつ、カバンの中から小さめのデジカメを取り出す。

 今は携帯でも綺麗な写真は撮れるのだが、学生時代に今の会社の先輩からいただいたものなので、未来は以降ずっとこのデジカメを使用していた。


 どういう風に撮ろうか……なんて考えたところで、写真の腕は素人だから、未来はとりあえず数を撮ることにする。そのうち何枚かが使えればいいだろう。


 少しの間、店内を自由に撮影していると、1組の客が来た。

 未来と同じくらいか少し年上かと思われる綺麗な男性と、まだ中学高校生くらいの少女。


「安斎さん、お久しぶりです」

「あらあら、お久しぶりです。この前はどうもありがとうございました」


 安斎の知り合いなのだろうか、親しげに男性と話している。

 少女の方は、男性の傍から離れ、店内を自由に見回り始めた。



「……あの、少しいいですか?」


 未来は男性と一緒に来ていた少女に声をかける。よく来る客なら、何か話を聞けないかと思ったからだ。

 声をかけられた少女は、訝しげに未来のことを見遣る。


「私、北区の雑誌の記者をしていまして」


 持ち歩いている名刺を少女へ渡す。


「今、このお店について取材しているんですけど、もし良かったら少し話を聞いてもいいですか?」

「……まぁ、少しだけなら」


 物珍しそうに名刺を眺めながら、少女は答える。

 未来はデジカメのストラップを首に下げ、先ほどしまったノートとペンを取り出す。


「えっと、あなたはこのお店によく来るの?」

「いいえ。今日初めて来たわ」


 あてが外れた。どうやら新規のお客さんらしい。


「どうやってこのお店を知ったのか、聞いてもいい?」

「知ったって言うか……用があるっていうから、私はただ着いてきただけです」


 その結果として、ここにいるということなのだろう。


 ちらりと、安斎と話す男性を見遣る。

 父親と言うには若すぎる、かといって兄弟かと考えてもあまりにも似ていない。

 どちらもかなり美形に分類される容姿をしているが、兄弟と判断できる程似通っていない。


「えっと……初めてってことだけど、このお店のことどう思いますか?」


 未来は問いかけてから、曖昧な聞き方をしてしまったと反省した。

 けれど、少女はそんな未来の心中など知らず、


「必要最低限のものは買えそう……デパートとかよりも人が少ないから、落ち着いて見れるし」


と半ば独り言のように話している。

 未来は手帳にメモをしながら次の問いかけを考えていると、


「マリア、帰るよ」

「あ、はーい」


 用事が終わったのか、安斎と話していた男性が少女を呼ぶ。少女は未来に向かって軽くお辞儀をして、男性の元に向かってそのまま店を出ていった。


「安斎さん、先程の人はよく来るお客さんなんですか?」


 未来は何となく2人を見送ったあと、レジ付近にいる安斎に尋ねた。


「女の子は初めて見たわ。(はるか)さん……あ、男の人のほうね、お客さんというよりは仲介してくれる人かしら」

「仲介?」

「そうそう。うちの商品を大量に購入してくれる大口のお客さんを紹介してくれたのがさっきの人。2、3年くらい前からの付き合いかしらね」

「そうなんですね」


 先程の取材の話にも出てきた、年に数回大量に文具等を購入してくれるという話に繋がっているようだ。

 それならば、仲が良いように見えたのにも納得がいく。


「そうだ、その彼がね、最近お店を出したんですって」

「お店?」


 聞き返すと、安斎が名刺サイズの紙を渡してきた。

 黒を基調として、シルバーで文字が書かれている。


「ダイニングバー……あれ、でもお店の名前書いてませんね」

「あら、そうなの? とりあえず、開いたばかりだから、お知り合いにでも渡してくださいって。下山さん、時間があるなら行ってみたらどう?」

「そうですねぇ……」


 正直、新規店舗というのに惹かれる。つまり、まだ誰も目をつけてない可能性があるからだ。


 ──ついでに、中央区のグルメレポートを提案するのもありか。


 仕事と称して、美味しいものを食べれるのは嬉しいことだ。だけど、北区の人がそう簡単に中央区に来れるわけじゃないので、需要はなさそうなのだが。


 その後はお客さんが来ることもなかったため、安斎と話しながら何枚か写真を撮る。



 気付けば、もうお昼を回っていた。


「長々とありがとうございました。今日はこれで以上となります」

「こちらこそ、ありがとうございます。雑誌、出たら取り寄せて見るわね」


 未来は身の回りの整理を行いながら、まだ聞いていないことがあったのを思い出した。


「あの、安斎さん。文堂(ぶんどう)さんと連絡って取っていたりしますか……?」



 まだ未来が学生アルバイトだった頃、安斎の他にもう1人北区から中央区へ移動するという人の取材について行ったことがあった。

 文堂とは、その時のもう1人である。


 この中央区への取材は、もともと北区から特別枠で中央区に店を出した2組へのインタビュー記事だ。だが、実際に連絡が着いたのは安斎のみ。

 もう1組の文堂については、以前いただいた連絡先に繋がらなかった。

 本来なら事前にアポを取りたかったが、連絡がつかないとなるとどうしようもない。

 だけど、今後もインタビューする機会があるのならば、せめて今の連絡先だけでも知っておきたい。


「文堂さんねぇ……こっち来た1年目くらいは時おり連絡取っていたけれど、それ以降は私たちもバタバタすることがあって、それ以来疎遠ね」


 安斎も今は連絡を取り合ったりはしていないと言う。

 そうなると、後は実際に文堂の店がある場所へ行くしかないだろう。

 住所は、中央区で店を開けた時に先輩が取材した際のを教えて貰ってきている。



「改めて、今日はありがとうございました。私、1週間ほどはこちらに居るので、もしかしたらまたお邪魔するかもしれませんが……」

「あら、そうなの。事前に連絡さえくれれば、いつでも協力するからね」


 未来は改めて安斎にお礼を言い、にこやかに見送る安斎に見守られながら店を後にした。




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