誰のため⑧
ハルカに相談した翌日。
瑞希は今さらになって、ものすごく私的なことを頼んでしまったと後悔した。
あのくらい、本来自分で解決すべき悩みだったはずなのに。
──すごく、申し訳ないことを頼んでしまったかも。
冷静になれば分かるのに、あの時は玲奈のことが心配で、視野がすごく狭くなっていたのだろう。
少し落ち着けば、瑞希自信が玲奈の彼氏を見つける方法は、全くない訳では無いと気づく。
「はぁ……」
重たいため息をついてしまう。
けれど、今さら頼んでしまったことを取消すのも申し訳ない気がして、結局連絡を待つしかないのであった。
そして、4日後、瑞希の携帯にハルカから連絡が入った。
待ち合わせ場所となった開店前の名無しの店へ訪れる。
──報告って聞いたけど……なんか電話口のハルカさんの声、ずいぶん暗い感じだったなあ。
何となく、嫌な感じがする。あまり当たらない勘だけどどうやら今回は違うらしい。
「……え、どういうことですか」
前回と同じ部屋に通された。今回はハルカの他に、マリアも同席していた。
相談事の結果を聞くだけだと思っていたのに、返ってきた内容は思いもよらないものだった。
「おそらく、あなたの友だちの彼氏は違法なクスリをやっているようです。
一応、瑞希さんの希望通り、彼女と会うのを控えるように伝えたのですが……ちゃんと話が通じていたか、少し怪しいですね」
裏は取れています、とハルカは数枚の紙を瑞希に手渡す。
そこに書いてあるのは、数枚の写真と何かのリスト。
写真はぶれていたり解像度が低く分かりずらいが、それでもそのうちと何枚かに、玲奈の彼氏が写っているのが分かった。
「……」
瑞希は予想外の話に、なんと言っていいのか分からなかった。
さらに追い討ちをかけるように、今まで黙っていたマリアが口を開く。
「おそらく、あの子……玲奈ちゃんもクスリをやってる可能性が高いわ。直接買っているかは分からないけど、少なくとも彼氏から横流ししてもらっているのでしょうね」
──れ、玲奈ちゃんが……まさか……。
言葉が出てこなかった。
確かに玲奈は、酒もタバコもまだ未成年なのに、高校の頃から嗜んでいるようだった。
高校時代から、絶対ダメだと口酸っぱく言ったけれど、ついに聞き入れてはくれなかった。
だけどそれ以外は、進んで道を外すような行動はしないはずだ。……そう思っていたのに。
「報告は以上です。むしろ、混乱させてしまいましたね、すみません」
ハルカは申し訳なさそうに瑞希に言う。
半ば呆然としていた瑞希はハッと我に返り、ありがとうと礼を伝える。
今回のお礼として、心ばかりの金額を包んだ封筒をハルカに手渡しながら、瑞希の思考はずっと動いていた。
──玲奈ちゃんが元に戻れる方法。玲奈ちゃんのために、何かできること……。
友だちをこのままにしておきたくない。完全に道を外しかけているのなら、瑞希の手でそこから救い出してあげたかった。
「瑞希さん、大丈夫?」
考え込んでいる瑞希に向かって、マリアが問うた。大丈夫と答えるも、その顔は心配そうに見える。
「余計なことかもしれないけど、瑞希さんが気負う必要ないと思うわ。
経緯はどうあれ、最終的に選択したのがあの子なら、それはあの子の責任なんだもの。他人の責任に、むやみやたらに首を突っ込まない方いいと思うわ」
マリアはそれだけ伝えて、部屋を出ていった。
困ったような表情でハルカはマリアを見ていたが、その言葉に口を出すことはなかった。
瑞希はマリアの言葉に、思い悩んだ。
確かに、友だちとは言え他人だ。
しかも、今の状態になったのは、彼氏に誘われたこともあれど、きっと玲奈自身が選択したのだろう。それならば、玲奈の責任になるし、瑞希が責任を感じる必要もない。
──だけど、私は玲奈ちゃんの友だちなんだ。
友だちが大変な時は、助け合うべきである。
この数十分の間、悩んだ末、瑞希は覚悟を決めた。
「あ、あの、ハルカさん」
部屋を出ようとしていたハルカを呼び止め、瑞希はその決意を彼に伝える。
「もうひとつだけ、相談したいことがあります……」




