誰のため⑥
GWも明けたある日、瑞希は1ヶ月ぶりに玲奈の姿を大学で見かけた。
その日はちょうど空きコマだったが、友だちはみんな他の授業を取っており、瑞希はひとり暇だった。
どうせなら、図書館に行ってみようかと移動中、ちょうど視界の端に玲奈の姿を認めたのだ。
「玲奈ちゃん!」
瑞希は呼びかけるとすぐに彼女の傍へ駆け寄る。
だが彼女の姿を近くで見ると、次の言葉がなかなか出てこなかった。
明らかに、やつれている。
体は大きめのサイズの服を着ているからあまり分からないけど、顔を見れば一目瞭然。メイクで隠しているみたいだが、それでもそのやつれ具合は分かる。
なのに当の本人は、機嫌がいいのか、瑞希が呼びかけても一瞥するだけで、悪態のひとつも出ずに歩き進めている。
「ねぇ、玲奈ちゃん!」
何度目かの呼び掛けに、ようやく玲奈は面倒くさそうに足を止めた。
「ねぇ、大丈夫? なんかすごくやつれているよ。学校にも全然来てないみたいだし……本当に大丈夫?」
「あんたに関係ないでしょ。いちいち連絡よこしてさぁ。私に付きまとわないでよ」
「関係、なくないよ……」
そう言っても、玲奈はふんと鼻で笑うだけ。
瑞希の心配をよそに、玲奈は見た目以外は何も変わった様子はない。
心配している瑞希を置いて、玲奈は用は済んだとばかりにまた歩き出す。
瑞希は一瞬悩んだが、少し遅れて玲奈の後を追った。
玲奈は大学への用事は済んだのか、校舎とは真逆、正門の方に進んでいるようだ。
「ねぇ、玲奈ちゃん。授業、ちゃんと出てる? 出てないと、特待制度から外されちゃうよ」
「だから、あんたに関係ないって言ってんじゃん。どうなろうが、あたしの勝手でしょ?」
「それは、そうだけど……」
そう言われてしまうと瑞希は何も言い返せない。瑞希に迷惑がかかるわけでもないからだ。それでも、同じ高校から一緒にここまで来た同士として、このままは嫌だった。
正門付近まで来た時、玲奈の携帯が鳴った。
玲奈は電話に出ると、一気にテンションが上がった。
会話からこぼれ聞くに、おそらく相手は玲奈の彼氏。
そこで瑞希は、ある考えに至った。
電話が終わり、そのまま正門から出ていこうとする玲奈の腕を掴む。あまりの細さに、一瞬狼狽してしまった。
「何、急いでるんだけど」
「ねぇ、玲奈ちゃん。その彼氏とあまり関わらない方がいいんじゃないかな」
「……はぁ?」
玲奈にしてはすごく低い声で、瑞希のことを睨めつける。
玲奈の気迫にたじろぎながらも、恐る恐る言葉を紡いだ。
「だって……今の彼氏になってから、玲奈ちゃんちょっとハメ外しすぎじゃない……? それに、この1ヶ月でかなりやつれてるよ。玲奈ちゃんのことだから、その間もきっと彼氏と会ってたんでしょう?
わ、悪くいうつもりないんだけど、でもこのままだと玲奈ちゃん、体壊しちゃうんじゃない……?」
もちろん、玲奈の彼氏が原因とは限らない。
だけど高校からの付き合いで、ある程度玲奈のことを理解しているつもりだ。
玲奈は彼氏ができると必ずと言っていいほど周りが見えなくなる。彼氏中心の生活になるのだ。
おそらく今回もそのパターンかもしれない。
でもそれだけなら、瑞希はここまで心配していない。
──玲奈ちゃんがここまでなるまで、彼氏さんは何してるの……。
玲奈が彼氏と一緒にいるというのなら、玲奈のこのやつれ様に気付かないわけはない。なのに、それを指摘しないのは何故なのか。
そうなると、考えられることは、その彼氏が原因ということになってくる。少しの間でも離れれば、またいつもの玲奈に戻るのではないだろうか。
「れ、玲奈ちゃんを心配して言ってるの。ねぇ、その彼さんと会うの控えたら? また体調が戻ったら、会えばいいんじゃ──」
「何の権利があって、あんたは私に圭佑に会うなって言ってんの? ふざけないで。圭佑と会わない方が体調悪くなるつーの」
「れ、玲奈ちゃ──」
「うざい。ほっといて。あんたに関係ないんだから」
そう言って、玲奈は瑞希の手を振り払い、正門を出ていった。
「玲奈ちゃん……」
あそこまで拒絶されたら、さすがの瑞希も後を追うのを躊躇った。
瑞希はひとり、小さくなっていく玲奈の姿をただ眺めていた。




