誰のため④
そして4日後。
瑞希は晴れて大学へと入学した。
「あ、玲奈ちゃん。久しぶり。休み中ずっと連絡してたんだけど、返信なくて心配してたんだよ」
式が終わった後、たくさんの人混みの中、瑞希は偶然玲奈を見つけることができた。
スーツ姿の玲奈は、いつもと雰囲気が違くかなり大人っぽい。スーツに着られているような違和感がある瑞希から見れば、羨ましい限りである。
当の玲奈は、適当に相槌を打って、すぐに入学式の会場から出ようとしていた。
瑞希はそんな彼女の後を当たり前のようについて行く。
今日は大学構内の大講堂での入学式のみで、後は帰路に着くだけだった。
瑞希は春休みの間のことや、明日からの授業についてなど、思いついたことを聞いていく。
だが、玲奈は話を聞いているのかいないのか、ほとんど反応は返ってこない。一方的に瑞希が話すだけ。
構内を出て、2人が駅方面へと足を向けて歩いていると、道半ばで真っ赤な車が道路脇に止まった。
そして唐突にクラクションが鳴ったので、瑞希はびっくりして少し飛び上がってしまった。
「圭佑!」
隣の玲奈が嬉しそうな声でその車に駆け寄っていく。
助手席側の窓が下ろされ、そこから見えた運転席には玲奈の彼氏という男が座っていた。
「玲奈、終わったんだろ? 迎えに来たぞ」
少しかすれた低めの声は、玲奈に対して優しく紡がれる。向けられた玲奈は、それはそれは嬉しそうな顔で、その車の助手席へと滑り込む。
瑞希は、その様子を歩道に立ってただ見ていた。
その視線に気づいたのか、玲奈の彼氏が瑞希の存在に気づいた。
「あれ、君玲奈の友だち? なら、一緒にどう? これから楽しいことしに行くんだけど」
「ちょっと圭佑! 止めてよ、あんなの誘うの。放っておいて、早く行こうよ」
「はいはい、冗談だって。ほら、機嫌直せよ」
甘い顔に、満面の笑み。
その声は閉じられた窓と共に聞こえなくなった。そしてさっそうと赤い車は瑞稀の視界から消える。
──やっぱり、今回の玲奈の彼氏は、あんまり良くない気がする。
今日を含めても、数回しか見たことはない。だが、瑞希はどうしても、あの男性がいい人だとは思えなかった。
確かな根拠なんてない。だけど、軽そうな見た目やドロドロとしたような目を見ると、余計そう感じてしまう。
「玲奈ちゃん、もっとふさわしい人いるだろうに……」
1度止めた方がいいのでは忠告をしたことがある。だけど、玲奈は聞く耳を持ってくれなかった。また話したところで、結果は同じだろう。
瑞希は重たいため息をついた後、ひとり駅方面へと向かっていった。




