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Desire  作者: 碧川亜理沙
Open1:誰のため
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誰のため③



 春休みは暇だった。


 大学の準備など、やることがたくさんあるのかと思いきや、ある程度進めてしまうと持て余す時間の方が多かった。

 実家通いなのも、そこまで準備がいらない要因のひとつかもしれない。

 時おり、暇になったら同じ大学に行くことになった玲奈に連絡をしてみたものの、あの夜以来、玲奈と連絡がとれることはなかった。




 そんな中、瑞希は新しい楽しみがひとつ増えていた。


「いらっしゃいませ。あ、瑞希ちゃん、いつも来てくれてありがとう」


 以前玲奈と行ったあの店に──店名がないらしく、瑞希は名無しと呼んでいる──週1ペースで通い始めたのだ。

 頻繁に訪れる瑞希のことをスタッフたちも覚えてくれて、今では世間話も気軽にできるくらい親しげに話が出来る。


「もうそろそろ大学なんでしょう? 準備はいいの?」

「うん、もうほとんど終わってるから、正直暇で暇で仕方がなくて」


 初対面時も対応してくれたスタッフのマリアに答えながら、頼んだドリンクをひと口飲む。


 あと4日後には、いよいよ大学の入学式。

 その前の景気付けとして、今日は訪れたのだ。


 店内には相変わらず人が少なく、平日とはいえ、今日も瑞希以外の客は2人しかいない。


「今日もお客さん、少ないですね」

「いつものことですよ。これでも開店当初に比べれば、定着したお客さんがいる分、マシな方です」

「そ、そうなんですね」


 他愛ない話をし、飲み物を飲みながら、楽しい時間を過ごしていく。

 だいたいいつも2、3時間ほどでお(いとま)するのだが、その時間はあっという間に訪れる。


「お会計で。あ、あと、マリアさん。ひとつ聞きたいことがあるんですけど」


 会計をお願いするついでに、瑞希はここ最近気になっていることを尋ねる。


「玲奈ちゃん、最近来ていますか? 実はあの日以来、連絡がつかなくて……」

「玲奈ちゃん……? いいえ、私が店に出ている時は来てないけれど」

「そうですか……」


 どうやら彼女は、頻繁に来る客という訳ではないらしい。先月もかなり時間が空いての来店だったようだ。


「力になれないようでごめんなさいね。もし来てくれたら、それとなく伝えておくから」

「すみません、ありがとうございます」


 親切なマリアに礼を言い、瑞希は店を出て自宅へと帰った。




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