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Desire  作者: 碧川亜理沙
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2/18

伝えたいこと②




 翌日。


 いつもよりぐっすり睡眠を取った未来は、朝食を取り終えた後、すぐにホテルを出た。

 約束の時間にはずいぶん早いが、歩いて街の雰囲気を感じたいという目的があった。


 目的地は大久保。

 駅からもそう遠くないと聞いていたため、歩いて向かうことにした。



 中央区・東京は、未来が住む北区とはずいぶんと景色が違う。未来は北区の中でも仙台という、北区の中では都会に位置する場所で暮らしている。

 そこそこに人の出入りが多いけれど、中央区はそれよりも更に多い。


 のんびりと目的地に向かいながら歩いていると、そこには北区とそんなに変わらない朝の光景が広がっていた。


 足早に駅の方面へ向かうサラリーマンや学生。

 車もひっきりなしに走っていて、長い列が出来ている道もある。

 違いは、人の多さくらいだろうか。

 どこの人たちも、朝は忙しないらしい。

 今日に限っては、未来はその枠組みに当てはまらないので、まるで自分だけ時間の流れが違うように感じた。




 さすがに早く出過ぎたようで、目的地付近には、約束の時間の1時間以上前に着いてしまった。

 時間まで、未来は近くのカフェに入り、今日の仕事の内容を確認していく。



 時間はあっという間に過ぎていき、約束の時間15分ほど前にカフェを出た。

 ここからはおそらく数分もしないで着くはずだ。


 通勤ラッシュも終わり、それでも人が多い中を歩いていく。途中で大通りを曲がり、住宅街に向かう道へと入る。その通りの道半ばに、目的地はあった。




「みちのく雑貨店」


 それが今回の目的のお店の名だ。


 周りはちょうど空き地や空き家で、どことなく寂しい感じの中に建っている。だけど、住宅街が近くにあるのだから、人はよく通りそうだ。

 シャッターは開けられており、店の中に並ぶ雑貨たちが見える。

 中の様子を伺うも、人の姿はない。


「おはようございまーす!」


 店の中へ向かって声をかける。声をかけてから、こんにちはの方が良かったのかと思い悩む。

「はーい」と奥から声が聞こえ、人が動く音と共に声の主が姿を出した。


「あらあら、下山さんじゃない。久しぶりねぇ」


 未来が挨拶をする間もなく、未来の姿を見た瞬間、懐かしそうに言った。


「ご無沙汰してます。安斎(あんざい)さん」


 このみちのく雑貨店の店主・安斎は、にこりと微笑み、未来を店の中へと誘った。


 店の中はあまり広くはないけれども、空間の使い方がうまいのか、あまり狭いという印象を与えない。

 ジャンルごとに分類されているであろう商品が、目をひくような形で置かれている。


「ちょっとここ座って待っててくれるかしら。開店準備すませてしまうから」

「あ、はい。こちらこそ、早く来すぎてしまいましたかね」

「いえいえ、ちょうどよ。私の準備がいつものんびりなだけ」


 話しながらもパタパタと忙しそうに動き回る彼女に、未来は申し訳ないと思いつつ、邪魔をしないように用意された椅子に座った。




 ──安斎が落ち着いたのは、30分ほど経った頃。


「本当にごめんなさいね。こんなに待たせちゃって」

「とんでもない。私こそ、時間のことをもう少し考えれれば良かったです」


 未来は出されたお茶をいただきながら、申し訳なさそうに言う。

 実際、時間の指定は彼女から貰っていたが、未来も少し早く着きすぎた気がしないでもない。

 お互いの時間を有効活用できるように予定を組む必要がある──未来は今後の課題としてインプットした。


「それにしても、大人の女性って感じになったわよねえ、下山さん。今も同じところで働いているの?」

「いえいえそんな……はい、ありがたいことにそのまま入社できまして」


 安斎が懐かしむように言う。


「未来ちゃんと初めて会った時は、学生さんだって分かる雰囲気だったものねえ」

「あの頃は……まだ若かったもので」

「あら、そんなこと言って。まだまだ若いでしょう。私なんてもうおばさんよ、おばさん」

「いえいえ、そんなことありませんよ」


 実に返しに困る言葉だけれど、安斎は軽口程度なら重く捉えることはない。

 だからといって、相手の方は気を遣わなくてすむ、というわけではないが。


 ──でも、確かにあの頃は青かったわ。




 安斎と初めて会ったのは、未来が今の会社でまだアルバイトとして働いてた頃。

 社員の先輩の手伝いとして向かった先が、安斎が北区にいた頃にやっていた店だった。

 右も左も分からず、ただ社員の先輩の言うがままに立ち回っていた自分が、こうして自ら取材する側に回るなんて。時の流れとは、予想外に早いものである。



「さて、安斎さんも忙しいかと思うので、取材を始めてもいいでしょうか」


 懐かしむのもほどほどにし、未来は仕切り直す。

「えぇ、構わないわ」と言う安斎に対し、未来は事前に準備していたメモを取り出し、仕事を始めた。




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