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Desire  作者: 碧川亜理沙
Opening
16/28

伝えたいこと⑯



 玄関から家をぐるりと囲うように進んだ先に、小さいけれど開けた庭があった。

 文堂は未来たちに縁側に腰掛けるよう促すと、彼自身は庭に置いてあったパイプ椅子に座る。


「さて……話ってなんだい」


 文堂が切り出す。

 未来は姿勢を正して、ここまで文堂を探しに来た経緯を話した。



 ──上手い具合に言葉にできず、伝わらないかもしれないところもあったが、文堂は口を挟まず、最後まで黙って聞いていた。


「……これが、私が文堂さんを探していた理由です」


 話し終えても、文堂は何かを考え込んでいるのか、難しい顔をして地面を見ているようだった。

 しばらく、周囲の静かな環境音のみが耳に入った。


 少しして、文堂が顔を上げる。


「……下山さんは、店の取材に来たんだろう? なら残念だが、わたしに答えられることはないと思う。なんせ、もう店自体がないのだから」


 寂寥を感じているように、その声は幾分か沈んでいる気がする。

 未来は承知していることを踏まえたうえで言葉を発する。


「私、中央区に出張で来る前、北区の街中の商店街……以前文堂さんが店を構えていたところに、別の取材で伺ったんです」


 文堂は未来の言葉を小さく頷きながら聞いている。


「今度中央区に出張に行く話をしたら、文堂さんや安斎さん夫婦のこと、みんな気にしていました。他の区の情報なんて、滅多に入ってこないので。

 それで、みんな言うんです。

 文堂さんや安斎さんたちの元気な姿を、写真越しでもいいからちゃんと伝えてねって」


 ──そうだ、だから私は、今の仕事をしているんだ。


 文堂に話しながら、未来は自分の初心を思い出す。

 学生アルバイトを経て、未来はそう簡単に手紙や携帯で連絡を取り合えない人たちがいることを知った。

 自分が当たり前に出来ると思っていたことが覆されたのだ。


 その時に、考えた。何ができるのか、と。


「もちろん、文堂さんが今の状況を知られたくない、そうお思いなら無理強いはしません。

 でも、話すことはできなくても……写真なら、写真だけでもいかがですか? 文堂さんが写っている写真があるだけで、安心する人だっていると思うんです」


 まだまだ未熟者の、自分の言葉では大したことはできない。それでも、「知りたい」と思う人たちに向けて、その答えや手がかりを伝えられたら。

 簡単に連絡が取れない人たちがいても、その人と相手を繋ぐことが出来る媒体になれたら。


 ──皆がみんな、それを良しとしないかもしれないけれど。


 それでも、誰かに伝えることの手伝いはできるかもしれない。


 文堂は、じっと未来の話を聞いていた。

 未来もまた、文堂に少しでも伝わって欲しいと思いながら話した。


「……話せることなんて、少ないとは思うが」


 ぽつり、そう呟いたのは、どのくらい時間が経ってからだう。気づけば、太陽が雲に覆われ、少し肌寒さを覚え始めていた。

 文堂の答えに、未来は内心すごくほっとしていた。

 もちろん、自分の仕事を進められる安堵感もあるが、そこまでは言う必要もない。


「ありがとうございます、文堂さん……!」

「お前さん、立派になったもんだなぁ……」


 感慨深く言う文堂に、未来は思わず声を出して笑ってしまった。そんな未来を見て、今まで無表情に近かった文堂も薄らと笑みを浮かべる。


 ある程度笑いがおさまったあと、未来は持参していたカバンから、ノートとカメラを取り出す。


「それでは、改めまして。文堂さん、取材をお願いいたします」



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