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Desire  作者: 碧川亜理沙
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15/28

伝えたいこと⑮



 そして、約30分後──。


「モグラの書いた住所はここら辺かな」


 そう言って立ち止まった場所は、大きな通りから何本か奥に入ったところ、近くに小さな川が流れるところだった。

 川を挟んだ反対側は、住宅街だったのだろうか、居住用かと思われる家がところ狭しと並んでいる。


「あの家のどこかにいるのかな?」

「どうだろう……そこら辺はもう聞いて回るしかないと思うよ」


 とは言うものの、ここ辺りも周辺に人の姿は見えない。

 皆家の中に引きこもっているのだろうか。

 未来たちは外にいる住民たちに聞いて回ろうとしたが、ここも外に出ている人影は見当たらない。

 じっとしていても仕方がないので、周辺を見て回ること数十分、ようやく人影を見つけることができた。


「おじさん、こんにちは。おじさんはここら辺にいる人?」


 人懐っこい笑顔とともに、ユウタが声をかけに行った。未来とリーリェもその後に続く。


「何だい、あんたら。ここいらじゃみねえけど、他所の区画の奴らか?」

「まあ、そんなとこ。ねぇねぇおじさん、ここら辺に文堂さん? って呼ばれている人はいる?」

「文堂ぉ?」


 おじさんは胡乱な目で未来たちを見やる。


「あの、私、下山と言います。下山未来です。文堂さんとは知り合いでして、久しぶりに連絡を取ろうとしたら、以前住まわれていたお店などなくなってて……ここにいるかもしれないと聞いてきたんです」


 未来は求めている回答が来ることを祈り、おじさんに向かって話す。


「あの、文堂さんはここにおりますでしょうか?」


 未来は、目の前のおじさんの返答を待った。

 みるからに未来たちを不審そうに見ているけれど、ここで来て引くわけにはいかない。



 ──どのくらい経っただろうか。


「あっちの平屋の建物に行ってみろ。あんたたちが探している奴と同じ奴かは知らねぇが、文ちゃんって呼ばれてる人がいるはずだ」

「っ! あ、ありがとうございます!」


 ぶっきらぼうに伝えてくれたおじさんにお礼を言い、未来は彼が顎で指した方向へ向かう。




 平屋の建物はこの辺りには1軒しかなく、迷うことなく見つけられた。


「ごめんくださーい!」


 今度は未来が大きな声で挨拶をする。

 すると家の中から中年くらいの男性が出てきた。


「何だい、あんたら、何か用か?」


 こちらの男性も未来たちを怪しげに見やる。

 その視線を真正面から受け取りながら、未来は事情を説明する。

 すると、その男性は少し考え込んだ後、


「あんたらの言う文堂と同じ人かは知らんが……似た状況の人はおるな。ちょい待ってな」


 そう言って家の中の方に向かって「文ちゃん! あんたにお客さん!」と大声で叫んだ。


 しばらくして奥の方から返事が聞こえると、ばたばたと物音がした。

 そして、家の奥の方からひょっこりと顔を覗かせる。

 浅黒い肌に、痩せこけた体。体型と服が合っておらず、大きな服に着せられている印象を受ける。

 髪は少し白いものが混じっているが、未来はその人のことを知っている。


「文堂さん……文堂、さんですよね? 数年前、北区で取材の際にご挨拶させていただいた下山です」


 最初、彼は目を細めて未来のことを凝視していたが、やがて思い出したのか「あん時の学生さんか」と呟いた。


「良かった……私、文堂さんに取材を申し込みたかったんです。でも、以前教えていただいていた番号が繋がらなくて、それでいろいろあってここまで……」

「店の番号や携帯は全部解約したからな。しかし、よくここまで来たもんだ」


 未来は無事に文堂に会えたということに、感極まりかけていた。

 だけど、これからは仕事なのだと、気持ちを切り替えて文堂に向き直る。


「文堂さん、突然となって申し訳ないのですが、少しお話いいでしょうか。もともと今回、北区に出店した2組の方々へ取材を申し込む予定でした。文堂さんの今の状態については、ほんの少しですが知っています。それでも、私は文堂さんにお話を聞きたいと思ってここまで来ました。急なお願いで申し訳ないのですが、お願いできますでしょうか」


 未来は頭を下げる。

 事前のアポイントなんてないのだから、断られても仕方ないところだが、未来はどうしても文堂と話をしたかった。


 少しして、文堂が「頭を上げてください」と言った。


「タケちゃんや、庭の方を少し借りてもいいかい?」

「おうおう、好きにせい。だけどそろそろ皆帰ってくっと思うから、それまでにな」

「ありがとうよ」


 文堂は玄関口に降りて靴を履く。

「着いてきんさい」と言い、外に出る。

 未来たちは、少し遅れて文堂の後に続く。


「お姉さん、私たち、近くで待ってる?」


 リーリェが尋ねる。

 おそらく気を回してくれての質問だろうが、未来は問題ないと答える。

 ここまで道案内してくれたのだ。それにこれから話すことも、他者に聞かれて困ることはない……はずである。


「おねーさん。じゃあ、ママに連絡して? ほら、無事見つかりましたよーって報告」

「あ、そうよね。連絡しなくちゃ」


 歩きながら、ハルカ宛に文堂が見つかったことをメールで報告した。


 そこでふと、未来はユウタとリーリェに疑問に思っていたことを聞く。


「ねぇ、何でハルカさんのこと、ママって呼んでいるの?」


 マリアという子も同じように呼んでいたし、ハルカ本人もそれに対して普通に返事をしていた。

 本人の前では聞きづらいが、気になってしまう。


「何で? そんな深い理由ないよ。ただリーリェが──」

「ユウタ」


 物理的に、リーリェがユウタの口を手で塞ぐ。あまりにも勢いがあり、べちっと痛そうな音がした。


「だ、大丈夫……?」

「大丈夫です。ユウタの言う通り、深い意味はありません。あだ名みたいなものです」

「あだ名……そ、そうなのね」


 リーリェが突っ込むなと言わんばかりの笑顔を向けてくるので、それ以上深く聞くことはできない。


「何やっているんだ。こっちだ、こっち」


 先を歩いていた文堂がこちらと手招きする。

 未来たちは慌てて文堂の元へと向かった。





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