伝えたいこと⑭
未来は、目の前に現れた人物をマジマジと見る。
長髪にダブダブの服を着て、大事そうに抱えている大きめのリュックは何が入っているのだろうか、今にもはち切れんばかりに詰まっている。
「ね、ねえ、この人が……?」
「はい、この人がモグラです」
流石は若さ、未来よりも子どもたちの方が疲れを感じさせない。リーリェの頷きに、未来は改めてモグラという人を見やった。
モグラは未来の視線に居心地悪そうにしつつも、ユウタとリーリェに親しげに話しかける。
「ひ、久しぶり、だね」
「数日前に会ったよ」
「それよりも、なんてとこに隠れてたの。俺らが来てから隠れたでしょ? 下手したら出れなくなってたよ」
「ははは……耳がいいな。本当に、君たちで良かった。あんな場所で、餓死しちゃうところだった。今度から、気をつける」
和やかに会話しているが、傍から見れば、見るからに怪しい成人男性と子どもたちという構図に違和感が半端ない。
「そ、それで、今日は、なんの用?」
モグラが未来のことをちらちらと盗み見しながら尋ねる。
「人探ししてるんだ。このおねーさんからの依頼」
「ブロック街に来たことあるみたいなの。住んでる可能性あるから、居場所知りたくて」
うんうんと頷きながら、モグラは抱えていたリュックを近くのテーブルに置き、中身を漁り始める。
その中身は、どうやらほとんどが紙やファイルのようだ。
「すごい数……」
「ここブロック街に住んでいる人の情報が全部載ってるからね。これでもまだ一部なんだと思うよ」
「ぜ、全部!?」
思わず大きな声が出てしまい、モグラから静かにするように注意される。
未来は謝りながら、リュックから底なしのように出てくる紙やファイルを少し離れた位置で見る。
ある程度取り出し終えたのか、テーブルの上に広げた紙をまとめ直しながらモグラは口を動かす。
「名前」
「……え?」
「年齢、いつ頃来たか、身長、体重、体格……その他諸々、詳しければ詳しいほどいい」
唐突に語られた話に、未来は思わずリーリェたちの方を見る。
「お姉さんが探している人の情報を伝えてあげてください。詳しく」
「え、あぁ、はい」
言われるがまま、未来は知っている限りの文堂についての情報を伝えた。と言っても、あくまで5年ほど前の情報だ。こんな情報から文堂を探し出せるのか……。
時間にして1時間ほど。
「……このくらいかな」
モグラが膨大な資料の中から探し出したうち、該当した情報を別紙に書き写してくれた。
「フルネームはなかったから……この文堂と文ちゃんって人たちが近いかな。背格好やここに来た歳もほぼ合ってるし……」
「すご……」
未来や子どもたちは、彼の邪魔にならないようにと、この1時間ほどずっと床に座って待っているだけだった。
その間に、この乱雑としたように見える情報の中から、探し出すなんて。
「場所はどっちも近いみたい……場所は、リーリェやユウタに聞いて下さい」
そう言って、モグラはまた広げだした紙やファイルをリュックへと詰め込んでいく。
「あ、あの、ありがとうございます!」
「し、仕事だから……あ、あと、声、静めて、ね」
受け取った紙には、モグラが記録している名前と、その人の居場所が書かれていた。
──この人たちが、私の探している文堂さんであれば……。
気が急く中、未来はモグラにお礼を言い、リーリェとユウタに紙に書かれた住所まで案内してもらう。
その住所へは、ここから歩いても1時間とかからないらしい。
──文堂さんに会ったら、私……。
早足気味に歩くせいで、だんだんと息が上がってきている。
それでも、足は止めないし、いつも以上に物事を考えられるような気がした。
自分のために探すと言った。今でもここまでして文堂を探す必要があるのかと問われれば即答はできない。
それでも、最終的には、探すという結論に至る。
会ったとして、今はもう昼頃だろうから、話せる時間もそう多くはない。
いったい、自分は会って話を聞いて、どんな記事を書くのか……。
「おねーさん、ストップ!」
いつの間にか子どもたちを追い抜かんとする勢いで歩いていた未来に、ユウタがストップをかけた。
突然止まったせいか、今までの疲労のせいか、未来の息は肩で息をする。
いったん立ち止まったからか、パンプスで歩き回っているため足もかなり疲れている。
「おねーさん、ここら辺でお昼食べよう」
「ひ、昼?」
腕時計を見ると、正午はとうに回っており、言われてようやく自身の空腹に気付く。
「目的地まであと少しです。その前にご飯食べて、落ち着いた方いいと思います」
リーリェの言葉にユウタもうんうんと頷く。
──……確かに、一度落ち着いた方が良いかもね。
荒い息のなか、未来はわかったと答えた。
未来の息が落ち着いてから、3人は道路の脇に寄って、ユウタが背負っていたリュックから取り出したパンを食べる。
「この辺りって、飲食店とかコンビニとかないからさ」
そういうユウタに、未来も思い返す。
言われてみれば、ここブロック街に来てから開いているスーパーなど、そもそも店自体を見ていない。
その辺でご飯は済ませるだろうと思っていたため、ユウタが持ってきてくれなければ食いっぱぐれるところだった。
パンはあっという間に食べ終えてしまったけれど、少しの時間のんびりしたおかげで、未来も心の余裕が少しできた。
「よし、じゃあ、もう少し案内お願いします!」
3人とも程よく休憩したあと、再び目的地へと向かっていく。
今度はさっきよりも速度を落とし、普通に歩いて向かった。




