伝えたいこと⑬
翌日、未来は朝早くから昨日と同じ場所で、ユウタとリーリェと合流した。
「今日もよろしくね」
「よろしくお願いします」
「よろしくー」
まだ眠そうなユウタとリーリェに、今日の予定を聞く。
「マリアがね、探している文堂さん? の特徴に似た人がいたところをまとめてくれたんです。もしモグラが見つからなかったら、これで虱潰しに探すことになります」
「いちばんいいのは、そのモグラって人が見つかることよね……」
今日も未来は子どもたちについて行くことしかできないので、無事見つかることを祈るしかない。
3人は、リーリェを先頭にブロック街の中を歩いていく。
彼女たちの中で、行先はすでに決まっていたらしく、ほとんど迷うことなく道を進んでいく。
その道中、未来は疑問に思ったことを聞いてみた。
「昨日、モグラって人は頻繁に場所を変えるって言ってたけど、それはいつものことなの?」
いつの間にか隣を歩いていたリーリェが答えてくれた。
「はい、いつもですよ」
「じゃあ今回みたいに、用事がある人がいたら、探すの大変じゃない?」
「そうですね。だからモグラは塒を変えているんです」
頭にハテナを浮かべる未来に、先頭を歩いていたユウタが補足する。
「モグラはね、ここブロック街に住んでいる人たちの居場所を全部把握してるの。
えっと、モグラひとりで役所みたいな感じ? 頼まれればどんな相手であれ、その人の居場所を教えるから、まあ場合によっては恨まれることもあるわけ。他人に知られたくなくてここに来たのにって」
「……だから、頻繁に場所を変えるって言うこと?」
「そーゆーこと。下手したら命が危ないんだから、1ヶ所に留まるわけにはいかないでしょ」
「うんうん。よく人攫いに情報を売って、その家族に追われることになったりしてるもんね」
「ひ、人攫い……」
こともなく言うユウタとリーリェに、未来は薄ら寒さを感じる。
このブロック街という場所は、未来が思っているよりも普通ではないのかもしれない。
昨日今日と歩き回っても、車が全然走らない。時おりエンジン音が聞こえてはいたので走っているのかもしれないが、未来は目にしなかった。
そして、何より人と全然会わない。
ホテルから駅を経由してこのブロック街へと来ているが、ブロック街周辺に来るとぱたりと人通りが激減する。
そしてブロック街の内側は、さらに人と会わない。
リーリェたちは、人がいないわけではないと言うけれど、見かけなさすぎて信じられない。
──本当にここ、日本よね……?
自分が住む日本という国に、こんな場所があるなんてことを知り、未来は自分が認知している範囲があまりにも小さいことに気付いた。
「──次はここだな。ここでいなかったら、もうお手上げだ」
立ち止まったのは、小さな2階建ての建物。
昔は何かの店だったのか、1階部分にその名残を感じる。
未来たちが立ち寄った4件目の場所。ユウタとリーリェは、おそらくここに居るだろうと言う。
その根拠はよく分からないが、未来はここにモグラがいることを願った。
「こーんにーちはー。ユータでーす。誰かいますかー?」
入口が閉まっているようだったので、ドアの前で叫ぶ。
だが、その声に反応する者はいない。
「……いないのかな?」
未来の問いかけを無視し、今度はリーリェが声をかける。
「こんにちは。リーリェです! 誰かいますかー?」
それでもやはり、反応はない。
ダメだった──気落ちする未来とは反対に、ユウタとリーリェはお互い顔を見合せ頷き合う。
「おねーさん、行くよ」
ユウタがこっちと手招きしながら、建物の横の細道に入る。リーリェもその後を追うので、未来も彼らについて行く。
細道は人と人がすれ違えるくらいで、建物の間だからだろうか、暗く閉塞感がある。
先頭を行っていたユウタが立ち止まる場所まで行くと、彼の前に誰かが段ボールで塞いだ入口があった。
ユウタは人が出入りできくくらいまで段ボールをはがす。そして、その隙間から建物の中へと入っていった。
「……勝手に入っていいの?」
いくら今は使われていない建物だとしても、勝手に入って良いものだろうか。逡巡する間に、子どもたちは先に建物の中に入っていく。
「おねーさん、早く!」
何故か小声で話し始めたユウタに疑問を覚えつつも、今回は至急のことだと思い直し、隙間から建物の中へと入っていく。
目の前に、すぐ2階へ進む階段があった。
かなり急な階段を上がり切ると、左手にドアがあった。
「開けるよ」
ユウタの言葉に頷き返す。
こんこんと2度ノックをした後、ユウタはドアを開けた。
順番に部屋の中に入ると、殺風景な景色が視界に写る。まるで生活感のない部屋があった。
「……誰もいない?」
部屋の中は無人だった。
テーブルの上に生活用品が置かれていて、誰かがいた形跡はあるものの、くるりと部屋を見回してみても誰もいない。
「リーリェとユウタです。こっちのお姉さんはママの依頼人なので、問題ないです。外は見た感じ誰もいなかったので、大丈夫だと思います」
リーリェがまるで室内にいる誰かいるかのように話す。
だけど、返答があるわけでも誰かが出てくるわけでもない。
少し待ってみたけれど、何の変化もないので、未来が声をかけようとしたところ、突然ガタッと音が鳴った。
あまりに大きな音で、未来はその場で飛び上がりかけた。
「……った。あ、あれ、出られない……? あ、た、誰かこれ、これ開けて……」
部屋の窓側奥、そこに置いてある大きなクローゼットから、突如ガタゴトという音とぼそぼそと誰かが話す声が聞こえてきた。
ユウタとリーリェがそのクローゼットに近寄り、外から開ける。未来も少し遅れて子どもたちの元に向かう。
クローゼットの中は、さらに木の板で仕切りがされており、おそらく声の主はその仕切りの後ろにいる。
──木がはまっちゃってるんだけど、どうやって入ったのよこの人……。
3人は仕切り板を少しずつ動かしながら、人が通れる隙間を作っていく。
そして、そこから人が出てきた頃には、未来も子どもたちも結構疲れていた。




