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Desire  作者: 碧川亜理沙
Opening
12/18

伝えたいこと⑫



 未来たち3人は、状況報告も含め、店へと集まった。

 開店時間を過ぎているが、未来以外の客はおらず、テーブル席に子どもたちもみんな座ってジュースを飲んでいる。


「タイミング悪かったわね。モグラは3、4日に1回は(ねぐら)変えるから、ちょうどそのタイミングに当たっちゃったんだ」


 席にはハルカとマリアも加わり、仕方がないと頷いている。


「あの……そのモグラって人も探さないといけないのに、明日まで何か手がかり掴めますかね?」


 今日1日、良い情報は何もなく、猶予の明日まで本当に進展があるのかと不安になる。

 けれどそんな不安を感じているのは未来だけのようで、周りは大丈夫だと言った。


「モグラの塒は、ある程度予測がつけられるよ。リーリェとユウタが回ってくれた方にいないなら、多分心当たりある10箇所のうち、どこかにはいるはずだから」


 だから大丈夫だとマリアは言うけれど、何故分かるのかと聞いてもその答えは教えてくれなかった。企業秘密なのだと言う。

 そんな未来の様子を見て、ハルカは口添えする。


「心配かもしれないですけど、ブロック街のことなら私たち大人より子どもたちのほうが詳しいんです。絶対とは言えませんけど、信用していただいて大丈夫ですよ」

「……はい、そうですよね」


 お願いしているのはこちらだ。未来は彼らに追従するくらいしかできないので、ここはもう信じるしかないだろう。


「あの、ハルカさん。今さらなのですが……さすがにタダでお手伝いしてもらうのは悪いので、あの……いくらくらいで……」

「……あぁ、そう言えば、依頼料貰ってなかった」


 未来の申し出で、ハルカは思い出したように呟いた。その様子にすかさず子どもたちが口を出す。


「ほら、だから前払い制にすればって言ったじゃん」

「無償でやってたら、ここのお店すら回らなくなるよ」

「またみどりさんたちに怒られる」

「はいはい、悪かったです。みんなして言わないで。みどりや大介たちには内緒にしてよ」


 わいわいとやり取りする彼らは、かなり仲が良いのだろう。苦言を呈していても、その表情はみんな柔らかい。


「じゃあ、こうしようか」


 ぱんと手を打つハルカに、みんなの視線が集まる。


「今日と明日、下山さんには夜ここでお金を落としていってもらう。それを依頼料とする。それでどう、下山さん」

「それは……逆に、それでいいんですか?」

「見ての通り、うちはまだできたばかりの新店だから、客入りがまばらなんです。少しでも来てくれたらありがたいですし」


 そう言うハルカに、未来はそんなことでいいのかと心配になりつつも承諾した。

 高額をふっかけられたらどうしようと心配していたが、これはこれで心配になる。


 ──そうすると、ある程度は注文しないと割に合わないわよね。


「じゃあ、よかったらマリアちゃんたちも一緒に食べる? 私、その分払うから」


 時間が経っても、店内には未来たちしかいない。時間的にも、まだ子どもたちがここにいても問題ないだろう。

 その提案に、1番喜んだのはユウタだった。


「おねーさん太っ腹! 好きなの頼んでもいい?」

「あ、うん。みんなで食べれそうなものとか」

「ユウタ、うるさい。じゃあ、せっかくだからご馳走になります」

「ご馳走になります」


 少女たちは礼儀正しくお礼を言う。ハルカも申し訳なさそうにしつつも、ちゃっかりメニュー表を手にしているのだから油断ならない。



 滞在期間は残り2日。

 中央区に来てから、今日がいちばん賑やかで楽しい時間となった。



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