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Desire  作者: 碧川亜理沙
Opening
10/18

伝えたいこと⑩




 ──翌日の夕方。


 未来は再び、昨日訪れた店へと足を向けた。


 今日1日、ホテルの部屋で仕事をしながら、ずっと考えていた。そして、ようやく自分の中で折り合いがついたため、改めて訪ねることにした。


「……そういえば、何時から空いてるのここ」


 店の入口まで来た時、今更ながら営業時間を知らないことに気付く。

 貰った名刺サイズの紙にも、時間は書いてなかった。

 昨日は店先にopenの看板があったが、今は何もない。もしかするとまだ開店時間前なのかもしれない。


 右往左往していると、突然店のドアが開いた。


「あ、ごめんなさい。今日のオープン時間まだなんです……あれ、昨日の」


 出てきたのは、少女だった。


 ──確か、マリアって呼ばれてた子……。


 向こうも未来のことは覚えていたらしく、礼儀正しく挨拶をしてくれる。


「えっと、今日はお店は19時からなんです。だから、まだやってないんです」

「あ、そうなのね。……あの……昨日の件のことで、改めてちゃんと話したいと思ったんだけど……」


 そう言うと、少女はちょっと待ってと一度ドアを閉めた。数分も待たずして、再度ドアが開かれる。


「どうぞ。ママが空いてるから、話聞くって」


 室内に入るようにと促される。未来は改めて意を決めて、店の中へと入っていった。




 開店前の店内だからだろうか。BGMも流れてなく、空調の音と遠くで話す人の声がやけに耳につく。

 未来は促されたカウンター席に座った。少女も何故か未来の隣の席に座る。

 そして、カウンターを挟んだ向かい側、そこにバーテン服を来たハルカが立った。


「えっと、今さらですけど、一応この店の店長のハルカといいます。そっちの子はマリア」

下山(しもやま)未来(みらい)です」


 簡単に自己紹介をし、さて、とハルカは本題に入った。


「昨日のお話の、人探しを正式に依頼したい……と?」

「はい。昨日、ハルカさんは、手伝いくらいならできなくはないと仰いました。

 正直、ここあたりの地理に詳しくないですし、私ひとりで探したところで限界があると思うんです。

 それで、できることなら、少しでも見つけられる可能性をあげたいと思って、改めてお願いしたい次第です」


 頭を下げると、ハルカは慌てたように未来に顔を上げるよう言う。


「初めに断っておきますけど、仮に人探しをするとしても、必ず見つかるとは限りません。……それでも、いいんですか?」

「……はい。その時はその時で、何とかしようと思います」


 もしもの時の代替案は何も考えていない。

 文堂探しを優先するなら、きっとここにいる間は代替案なんて考える暇はないだろう。

 いざとなったら、上司にでも泣きついてやろうと思い始めていた。


「結局、お姉さんは仕事のためにその人を探すことにしたの?」


 隣から少女の疑問の声がかかる。

 やはり、彼女からしてみれば、納得がいかない話なのだろう。


「……うん、そうだね。最終的にはそうかもしれない」


「でもね」と言い、未来は少女へと向き直る。


「例え仕事の為とはいえ、私自身心配しているのは本当。前にお世話になった人だから。それに、私ひとりが心配しているからってだけじゃない」


 文堂は独り身ではあるが、地元では常連客がそれなりにおり、人付き合いはそこそこあった。

 数ヶ月前、北区で文堂がやっていた店の地域に取材に行くことがあった。未来も何度か面識がある人たちではあったが、彼らは今も中央区へと行った文堂のことを心配していた。


「文堂さんのことを心配している地元地域の人たちにも、彼の今の状況を知らせてあげたいんです」


 崇高な理由なんてない。本当は保身の為もある。

 だとしても、これが今未来が文堂を探す理由である。


 未来はお願いしますと、改めて頭を下げる。


 しばらくして、ハルカが顔を上げるように言う。


「分かりました。その依頼、引き受けましょう。ただし、見つからない可能性もあること、その点は了承ください」

「はい、もちろんです」


 承諾してもらったという安心感から、未来はほうっと息をつく。


「ところで、下山さんはいつまでここに? 取材となると、時間は決まってますよね?」

「えっと、3日後には帰る予定……ですね」

「は、3日?」


 未来の返答に、ハルカと少女の声が被った。


「思ったより時間ないね……」

「ちなみに……諸々の予定を考えますと、私が動けるのは明日と明後日になります……」

「もっと時間なくなったよ」


 そう考えると、取材でここ中央区に滞在してから、もう折り返し地点にいるのだ。

 遠方の取材とは、こんなにも時間の流れが早く感じるものらしい。


「……分かった。じゃあ、その時間の中でできることをしましょう」


 ハルカの言葉に、未来も何でもすると答えた。


「ひとまず今日のところはもう夜になるし、明日から動きましょう。どうするかは私たちのほうで考えるので、下山さんは明日朝にまたここに来てもらえると助かります」

「はい、分かりました」



 こうして、未来は文堂探しを本格的に始めることになった。





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