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Desire  作者: 碧川亜理沙
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伝えたいこと①

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伝えたいこと


「それが私の仕事です」



『ご乗車ありがとうございました。次は終点、中央区東京駅です』



 場内アナウンスが耳に入り、下山未来(しもやまみらい)は資料を片付け始める。つい隣の席が空席なのをいいことに、荷物や資料を広げてしまっていた。


『まもなく、中央区東京駅に到着いたします。お忘れ物のないようご注意ください』


「あぁ……もうっ!」


 終点なのだからそこまで急ぐ必要がないのは分かっているけれど、気が急いてしまい、資料をうまくしまえない。半分くらいはそのままカバンの中に突っ込んだ。


『──お待たせいたしました。ドアが開きます。ご注意ください』


 網棚に置いていた荷物を下ろし、隣席に立てていたキャリーバックをつかみ、未来は小走りで下車した。


 そのまま案内板に従って進み、改札前の申請受付ブースへと向かう。

 降車した人はそこまで多くないらしく、受付の順番はわりとすぐに回ってきた。


「申請書類と本人確認ができるものの提示をお願いします」


 定形型の受付嬢に、言われた通りの書類を差し出す。


「滞在期間は7日間。取材目的ですね……」

 書かれてある内容を読み上げる彼女に、未来は肯定の相づちをうつ。


「……ありがとうございました。問題ございません。滞在中はこちらの許可証の携帯をお願いします。お帰りの際に回収いたしますので、なくさないようご注意ください」

「ありがとう」


 受付嬢から返された書類と許可証を受け取り、そのまま改札を出る。


 改札を出ると、時間帯もあるのだろうか、サラリーマンや学生たちが駅構内を忙しなく通り過ぎていく。


「迷子になりそ……」


 初めての土地で、眼前を行き来する人の多さに圧倒される。

 未来は端末を取り出し、位置情報を同期してマップを表示させる。この7日間の宿は、新宿方面に取っているため、まずはそちらへ向かわなければならない。

 重い荷物を持ち直し、未来は端末に表示された道順に従って歩き始めた。




『ようこそ、中央区東京へ


 100年ほど前に日本国中を襲ったウイルス感染は、中央区を、そして日本国中を混乱の渦に巻き込みました。

 そのせいで、多くの変化がありました。日本の鎖国、区間の移動制限……など、あげればキリがありません。


 しかし、その危機はもう過ぎ去りました。我々は、以前のあり方に、さらにその先へと変わらなければなりません。


 日本国の都市、中央区は、今まさに、変わろうとしています。


 昨今、特に注力しようとしているのは、貧富の差──所得階級制度撤廃を進める動きです。

 大昔に実在していたという、平等な世界へ。

 それが、今まさに、この区の目指すべき目標となっています。


 しかしこの動きに対して、現状維持を求める声が多いことも事実です。この声はランク1と言われている富裕層だけにとどまらず、最底辺のランク5の方々からも上がっているようです。

 近づいている区長選挙は、この議題を中心に進められるだろうと推測され──』




 未来はそこまで読んで、端末の電源を落とした。

 ビジネスホテルに着くまでに、中央区関連の記事を読もうとネットサーフィンをしていたが、どこも似たような文章が連なっていた。


「所得階級制度ねぇ……」


 北区出身の未来にとって、あまり馴染みない言葉だ。


 言葉だけは立派に聞こえるが、要は金持ちと貧乏に区別をしているだけの制度だと、学校の授業で習った気がする。自分が中央区に住むことなんてないと思っていたため、この制度についての知識はそのくらいだ。


 それに今回は、仕事で来ているのだ。東京や中央区の歴史を知ったところで記事にするわけでもない。


 未来はこの話を頭の中から追い出し、明日行う取材の準備をすることにした。



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