MISSION:08 エルヴン
ご飯と魔法問題で悲しみのモヤモヤに浸っている間に、おっぱい用の僕を抱き枕にしたフーちゃんはもう寝ていた。
おっぱい用の僕。不思議な言葉ダナー。
そういえば僕って眠れるんだろうか? 今のところ眠たくはないけど、レイス時代の僕とは違って、今は身体があるし疲労も感じるから睡眠は取れる、かな?
<あー、目を瞑ってれば眠れそう。オヤスミ~>
おっぱい用の僕から返信が来る。そっか、目を瞑るんだね。
確かにこの身体はちっちゃい僕の集まりなんだし不透明だから、よくよく考えてみれば表面以外や、地面に接する僕は自然と視覚をカットしていたのかもしれない。視界が真黄色とか地面とかっていう悲しい感じになるはずだし。
ということは、鼻を塞ぐことも可能? あ、可能だ。可能だけど無味無臭の世界って寂しすぎる。派手に転んだ味とか纏わり付く放屁味でも、ないよりマシな人生になってしまったヨ?
しかし……目を瞑るとか鼻を塞ぐとか、そんな考え方で情報をカットするってことは、息を止めるとかもできるのかあ。ってアレ? 僕、息してないじゃん。息してないのに臭いを感じるってことは、スラボディって鼻の粘膜みたいなのでできてんのか。
スライム、なんてシュールなボディなんだ。
そんなことを考えている内に眠っていたのか、フーちゃんにベッチンベッチン叩かれて目が覚めた。
「朝。ご飯食べる。王都、行くする」
≪今日も飛んで?≫
「うん」
≪じゃあ今日は僕も飛ぼう≫
「……ポーちゃん、減るする」
≪鼻を塞げば美味いも不味いもないことが分かったから、増えるのもカンタン!≫
『鼻があるんだべか!?』
≪心の中に≫
「心……」
≪目もあるよ! 心の中に!≫
『カッコイイべ! オラも……オラは、オラの……オラの心の中には精霊さんがいるんだべ!』
≪それは良いことだね!≫
「うん!」
カッコイイ要素がどこにあるのか分からないけど、フーちゃんがゴキゲンになったので良しとする。
僕達は1階の食道で朝食を取り、いざ王都へフライアウェーイ──しようとしたところで、プロペラ機の開発を頼んだ僕のことを思い出したので連絡する。会話ログっぽく表示すればフーちゃんにも伝わるし面倒もないかな。
ってことで、別動隊の僕の会話もメッセージウィンドウに表示しよう。
≪!≫
「ンー?」
≪チョット別働隊に連絡するね。──こちらイエローベース。これより王都へ向かう。PG2、北門前に来られたし。オーバー≫
「ポーちゃん、喋る、変する、んふふ」
<こちらPG2、了解ー。しばらく待ってて。ちなみに飛べるほど揚力を得られなかったから、プロペラ機は無理っぽい。回転力が足りないよ、回転力が。魔法に期待するしかなさそう>
≪あー、ソコら辺は王都に着いてからになりそうだよ。僕等が使えるのって法陣術ってのだけっぽいし。フーちゃんは勉強してないみたいだし≫
『ポーちゃん、飛んでくれたら迎えに行くべさ』
しかめっ面で会話ログを読んでいたフーちゃんが、エルフ語でそう提案してくれたので、ヨロシクお願い申し上げ奉り候する、した。
◆
そんなわけで、いざ王都へフライアウェーイ──しようとしたところでフーちゃんに遅いと文句を言われ、屈辱の抱っこ移動と相成りました。
ジェットエンジンだ。ジェットエンジンをなんとかしなければ……僕はバブみライズされてしまう。されないために、移動時間を有効に使わなければ。
ジェットエンジンはともかく、高い推進力が必要なんだから……法陣術でベラボーな風を送れたら、空気を圧縮して推進力にできるかな?
圧縮した空気を熱したら、さらに噴射力を得られるかもしれない?
フーちゃんの精霊魔法で燃え死んだからダメか。いや……待てよ? 力を込めてキンピカ状態になったら熱に耐えられるだろうか? 金属っぽくはなってるんだけどなあ。金属かどうかは自分じゃ分からないし。
メタルボディだったとしたら色々と可能性は広がるね。
「ポーちゃん、モジモジする、ない」
≪ゴメンゴメン。素早く飛ぶ方法を考えてたんだけど動いてた? そうだ、チョット飛行形体を考えるから身体を伸ばすね≫
「ん。分かるした」
フーちゃんのデフォルト飛行形態であろう涅槃飛行。その全面辺りに、横向きに航空母艦の飛行甲板っぽいモノをニョーンと伸ばし、僕の塊を乗っける。
僕の塊。不思議な言葉ダナー。
スライムになったせいで、不思議な言葉が増えていくなあ。
≪僕塊!≫
『なん~?』
≪いや、特に意味はないけど変身する時に、掛け声があったほうが雰囲気あるかなーって思ったんだ≫
『ふーん』
フーちゃん的には僕塊にカッコイイ要素はナシ、と。まあ僕的にもないんだけど。
≪ビルドマイィィンッ! ならどう? 自分造り的な意味≫
「少しカッコイイ、ある~」
≪ビルドマイィィィィンッ!≫
満足したので僕を組み上げていくとしましょう。候補はタイフーンかラプターかなあ。
「不思議な形、あるする」
≪そういえばこの世界に空飛ぶ乗り物とかはないの?≫
「ない、する」
へえ、そうなんだ? 原因は飛ぶ魔獣とかかなあ。
僕をこねくり回しながら聞いたところによると、やはり飛ぶ魔獣がネックみたい。強力な遠距離攻撃の手段も必要だろうしねえ。
航空機みたいな形は見たことなくても仕方ないのかな。
≪どっちがいい?≫
まあ、そんなこんなでお披露目ー。
「お花? 形ある、する。三角、ダメする」
≪了解(`・ω・´)ゞ≫
「あ、カワイイ字? 書く、してる! カワイイ!!」
渾身のタイフーンとラプターはAAに敗れた(泣)
そんで三角っぽいタイフーンはダメで、お花の形と認識されたラプターなら、まあOKってことかなあ。
あとは……揚力を得る形に翼を作ってしまおう。紐付きグライダーみたいにしたらイケるかな?
風の影響を受ける所まで飛行甲板を上に伸ばす。
「危ない、する」
フーちゃんの精霊ちからでギュムってなった。
≪大丈夫だよー、落ちたら落ちたで別行動して見分を広げるから≫
「そう? 分かる、した」
≪飛んでった≫
紐の僕が千切れて渾身のラプター、飛んでった。
「落ちる、した」
≪そうとも言う≫
お前らだけフーちゃんと旅して、ズルイゾォ的なメッセージを受け取ったけど……仕方ないんです。色々と実験もできるし仕方ないんです!!
通話の距離も知りたいしよろしく。
最小単位にばらけたら落下ダメージはないだろうし、そっちはそっちで異世界の旅を楽しんで欲しい。
……掲示板専用僕みたいなのを作って、そこにメモればいいのかな?
分身ッ!
【生と】テンション上がったらアゲるスレ【死と】
1 名前:名無しのネームドさん
・死ねるのでテンションアゲ過ぎに注意
・ケモミミ見て死んだ奴もいる
・疲れても死ぬ
・ただし、びっくりでは死なない
・死ぬと光になって死体は残らない
※残機はすぐ増えるのでダイジョブ
2 名前:名無しのネームドさん
1乙?
わざわざこんなことするの?
僕一人で?
バカなの?死ぬの?
いや、まあ死んじゃうけどさ
3 名前:名無しのネームドさん
連絡に使えるかと思ってェ
掲示板風表示専用僕を作ってみた
各地の僕たち同期ヨロ
って思ったけどコレはなしかなあ
4 名前:名無しのネームドさん
なし
終
5 名前:名無しのネームドさん
終
「これ、なにする、してる?」
≪他の僕と連絡とり合うのに使おうかと思ったけど、全僕に不評だったんだぁ≫
「フーン」
恥ずかしいので興味ないなら聞かないで欲しい、あるする。
失敗は誰にだってあるんだよー。
でも……掲示板的なものはあったほうが便利な気がするなあ。名無しのネームドさんがアレなだけだし、やっぱり作っておこうと思い、さっき飛んでったラプターに連絡する。
≪やっぱ分散したボクと連絡し合うのに必要な気がするから、なにかメモ残すような、みんながソコ見たらやり取りできるような……。
AWACS的なのがいいか。カッコイイし。雰囲気が。そんなのになってくんろー≫
<了解。これよりヘヴンアイズと呼称する。
こちらAWACSヘヴンアイズ。当機はそちらにおよそ5000フィート(適当)遅れて追従中。オーバー>
いいね。盛り上がってくるじゃない?
じゃあ僕はジアッロ1にしよう!
≪ジアッロ1よりAWACS。そのまま上空に待機し、警戒に当たられたのわあっ!?≫
<たのわ?>
「分かる言葉、話す、する!」
ペシィペシィされながらフーちゃんに怒られた。
≪ゴメンゴメン。ちょっと気分が良かったから、雰囲気出すための話し方になっちゃった≫
「んっ、許す、した」
≪離れた僕と連絡とり合う用の僕を作ったんだー≫
「連絡大事。忘れる、怒る、される。凄く、される、した……」
そっかあ、と相槌を打つ。
報連相は大事だけど、森がハゲた場合は怒られないのか…………。
エルフゥ!!
あ、フーちゃんのTACネームはエルヴンにしよう。
っていう割とどうでもいいことを考えてるうちに王都に到着した。大きな河の側に、3つの城壁で囲まれた大都市だ。さす王都!
次回≪MISSION:09 王都≫に、ヘッドオン!