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MISSION:07 カナシイ味

 お婆ちゃんの魔乳みたいで可愛いから大事な存在だ。そう慰められた(?)僕は気を取り直して、スラコプターを完成形に持っていく。

 ブレードの角度をもう少し急にしたほうが揚力を得やすいかな?


 軍用ヘリみたいにしたいところだけど……本体が丸じゃないとフーちゃんがボヤくからなあ。饅頭に尻尾が生えた感じになるのは仕方のないことだろう。ジェットエンジンがスラボディで開発できたら、丸型は諦めてもらう方向でいくか。


 いざ、テストフラーイ。スラコプター、テイクオーフ。

 いや、待てよ? 陸戦部隊はポヨグランダーなんだから、ポヨコプターのほうがいいだろうか? となるとジェット機はポヨジェッターか。フーム……。


 ちなみにポヨジェッターはPJと略しまして、趣味はマロ。あの眉毛丸くするヤツ。まぁいいや、サァ行こ──


「ご飯、来るした。ポーちゃん、バタバタする、ない」


 AIR COMBATごっこしてたらご飯が到着していたようで、僕はフーちゃんの魔法により高級ホテルの床に掴まれるという、貴重な初体験をした。とはいっても特に嬉しみはない。ただ一点挙げるとすれば、それはとてもフカフカしていたと僕は伝えたい。


 不思議すぎるよね、精霊って。


 そんなことを考えている内に、お肉パーティの準備は着々と進んでいた。

 フーちゃんの喉がコクリと鳴る。


「蒸し鳥とリッチーナソースのデュエットにございます」


 照り焼きチキンに見える。しかも焼いていない。


「パンヌの衣を纏いしフライアの祝福、エッグソースの冠にございます」


 トンカツとタルタルソースに見えるのだが。なんか見慣れた肉料理がフランス料理っぽい名称で、白いお皿にチョコンと乗せられて次々とテーブルに並んでいく。フーちゃんはポワァと口を開けて、すっごいキラキラした目をシェフとお肉の間に行き来させていた。

 カワイイ。


 そしてニッコリ笑って、ためる(・・・)シェフ。

 椅子の上でお尻の力を利用して、座ったままピョンピョン跳ねるフーちゃん。ワックワクである。

 満を持して登場するのはーーっ!


「厳選地鳥のスパイシーチキン、辛い時は黄金とルビーのソースをかけてね、にございます」

「死ぬ、する!」

≪なにいってんの!?≫

『こ、こ、こんにゃの、絶対美味しくてオラ死んじまうだあ』

≪こ、こ、こんにゃの、絶対美味しくて私死んじゃう。だそうです≫


 僕と一緒にミョーンになってたシェフも、通訳されたメッセージを見て安心したのか一礼して去って行った。

 アレ? そういえばビックリした時は死なないんだな、僕。


『精霊に育まれた恵みに感謝を』


 真っ直ぐな胸の中心に右手を添えて、祈りの言葉を口にするフーちゃん。美形なエルフがそんなことをすると、とても様になってる。絵画になりそう。

 最もすぐに「いっただっきまーす」と子供らしく声を上げ、お肉パーティが開催されたんだけど。


「か、辛いぃするぅ」

≪辛い時はソースかけろって言ってたよ。甘口になるんじゃない?≫


 ハヒハヒ言いながら、口に入れたスパイシーチキンを咀嚼している彼女を横目に、僕は黄金とルビーのソースとやらを舐めてみた。匂いからするとハチミツとかワインとか、そんな感じだ。味覚がスライムになってるから表現するなら健康味……としか言いようがないんだけど。なんていうか、こう、健康って感じの味……って、同じか。ローヤルゼリー的なモノが入っているのかも?


 やはり甘めのソースだったらしく、口いっぱいにスパチキを頬張りながらフスフス鼻を鳴らしてお肉の香りを楽しむフーちゃん。

 美味しさに興奮しているのか、彼女の頬は蒸気している。ああ、ああ、口元をソースでべちゃべちゃにしちゃって。

 それにしても羨ましい。


≪美味しい?≫

「んふー」


 一生懸命咀嚼しながらコクコク頷く様は、小動物みたいで庇護欲をかき立てた。でもこの乙女ちゃんは睾丸の話を一生懸命したり、お婆ちゃんのおっぱいの話に夢中になったりもするんだよね。強キャラだし。凄くファンタジーです。


「ポーちゃん、食べる、ない?」

≪食べるよー。美味しそうだもんね!≫

「うんっ!」


 そして食べてみた感想……を正直に言うと、フーちゃんの魔法が一番美味しかった。味というより充足感とかが。直接元気になるというか、そんな感じ。

 食感なんてないし、味覚が違い過ぎて残念すぎる。食べ物の匂いを感じるから落差が激しいのかもしれないな。


≪フーちゃん、僕はご飯を食べても美味しいって感じない身体になったみたい≫

「美味しい、ない、する?」

≪うん……なんか匂いが味になってると初めは思ったんだけど、全部混ぜて味を抜いた空気を飲んでるみたいな……カナシイ味だった≫


 しょんぼりさせてしまった。フーちゃんの優しさが目に沁みる。


≪フーちゃんの魔法力? それが一番美味しかったよ。フーちゃんは僕の希望!≫

「本当、する?」

≪うん。だから大丈夫さー≫

「食べるする!」


 にっこりフーちゃんは僕にギュムギュム魔法の力を押し付けた。

 これでもかと押し付けてくる。


 条件分岐で魔乳以下なら魔力放出というプログラムが彼女の中に組まれているのかもしれない。ちなみにエールは麦畑で転がる味だった。

 甘んじて魔乳を受け入れようじゃないか。


≪ところでさ、魔法って僕には使えないものなのかな? 元の世界には魔法なんてなかったし、せっかく転生したんだから僕もフーちゃんみたいに魔法無双してみたいんだけど≫


 ほら、魔力がご飯なんだし僕が魔法使えてもおかしくはないと思うんだ。なによりロマンが、ロマンが! 魔力とかマナとか、ロマニウムエーテルじゃん?


「精霊、見えるする? 声、聞こえるする?」

≪……見えないし聞こえない≫

「ポーちゃん、精霊魔法使う、ない。魔術、使う、ある、ない」

≪うん? 精霊魔法は使えない? 魔術は……あるない? 僕でも使えるかもってこと?≫

『すっごく仲良くならないと精霊は力を行使してくれないべ。だからポーちゃんには無理! 魔術は──』


 言葉に魔力を乗せて、世界が認識しないと結果が具現化しないらしい。無詠唱とかでイケるんじゃないかと思って聞いてみたら、そんなのはありえないんだってさ。幼児の妄想だって鼻で笑われてしまった。くっそぉ、ガンバレ僕の大人ちからッ。

 まあ、つまり……結局のところ僕に魔法は使えないみたいだ。喋れないしね。


≪じゃあ僕が使える魔法っていうのは結局なんなの?≫

『法陣術なら誰でも使えるべさ。理解すれば、だけんど』

≪はい、先生! 教えてください!≫

『オラは勉強してないんだべ~』

≪ありゃー……そっかぁ≫


 フーちゃんには精霊魔法があるから、法陣術には用がないんだろうなあ。

 誰にでも使えるってことは体系化されているってことなんだろうし、教えてもらえば僕にも使用可能な技術と覚えておこう。


 色々と聞いてみたところ、魔法っていうのは生まれ持った能力が必要っぽい。法陣術とか剣術みたいなのは才能の差はあれども、学習することで使える技術なんだろう。珠算3級とか簿記1級とか剣道初段、そんな感じの。法陣術検定試験とかあったりして。初段ならファイアボールまで使える、みたいな。


 ドレインした中の知識には魔法関連のものは無かった。つまりレアスキルっていうことなのかなあ。


 あーぁ、魔法……使いたかったなあ。生まれ持った能力とか。くぬぅ、ズルイ。まあ、どうしようもないか。

 今の僕は100回死んでも大丈夫なボディだし、それで満足しておこう。

 だって十分すぎるほどのズルボディだもんね。


 ご飯と魔法が問題だけど。

次回≪MISSION:08 エルヴン≫に、ヘッドオン!

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