MISSION:32 ダンジョン開店
騎士の案内に従って、執務室へ。書類の山に埋もれている老人がいた。
「しばしお待ちくだされ姉上」
ご老人、なんのことかね? みんなの頭の上に「?」マークが出てるよ。案内してくれた騎士も訝しげな表情。
「むぅっ? 陛下の仰る通り、本当に変わっておられぬのですなあ」
区切りがついたのか、顔を上げて言葉を発する老人。この人が領主の辺境伯だね。
コレはアレだ。アノ感じのヤツだ。
「御無沙汰しておりますな、姉上。ラーハルトでございます」
「ルト!? えぇぇ……また、お爺ちゃん、なるするぅ」
僕とワワンパァは、ああ、そういう、って感じで納得したけど……騎士のかたは「いよいよか?」みたいな感じの表情を浮かべちゃったよ。
まあ急に上司が幼女に向かって姉上とか言っちゃってるもんね。しかもフーちゃんの耳は、偽装されてて今エルフじゃないしさ。
「バカモン、ワシはまだまだ現役じゃ!」
ラーハルト伯は部下に、まだボケとらんと説明を始めた。まあ、早い話が幼少の頃に王様と一緒に、フーちゃんちに行って修行したってことだね。護衛としての動きとか、単純に強さアップとか。
「おおっ、森の方々でしたか。是非とも手合わせして頂きたい」
「やめておけ。1本角に苦戦する程度では話にならんわ。そんなことよりも姉上に頼みがあるんじゃ」
「分かるした。聞く、する」
戦闘狂臭い騎士……騎士団長かな? そのお願いをバッサリ切ってラーハルト伯が話始める。なんでも、このリドゥリーから西に500kmくらいの場所にあるチヒっていう山の中腹辺り。切り立った崖に唐突に開いた人工的な入り口。うーむ、なんとなく先を越された気分。
「ダンジョンの討伐を頼みたい」
ってことらしい。こんな出入りし辛い場所に入り口があるということは、ダンジョンマスターは人型ではないだろうと。もし人型だったとしても、契約ダンジョンにはならないと、辺境伯は言い切った。人が入らないということは、氾濫するということだそうだ。
「飛行型の魔物が多いダンジョンであると、我々は考えておる」
「ウチもそう思います」
「うむ。ゆえに氾濫を起こさせるわけにはいかん」
「すぐ、向かうする」
地図を見せてもらって場所を確認。麓には鉱山街があるとのことで、宿泊なんかはそこで解決できるだろう。現役の鉱山の街だから観光地じゃなさそうだし、宿とかじゃなくて町長んちとかになるのかなあ。できれば1軒屋を借りたいところだけど。そこら辺を伝えると、宿はあるから大丈夫らしい。
「すまぬな、姉上」
到着したばかりなのに、ダンジョン討伐を頼むことに思うところがあるのか、謝る辺境伯だけど……フーちゃんだからねえ。
「魔物倒す、好き、あるする。邪人ない、残念したぁ」
「す、すまん姉上」
≪王様とも喧嘩してましたよ……魔物全部よこせって≫
「フハハハ! そうか、そうか、変わらぬのだなあ。ではよろしく頼む!」
「うん、行くするー!」
ウッキウキなんだよなあ、フーちゃんは。まあ、洋上の旅も僕たちには退屈だったし、対邪人みたいに街中じゃないから暴れん坊になってもいいしさ。
僕的にもこの依頼はチョット嬉しいかもしんない。
今にも飛び出しそうなフーちゃんを制して、昼くらいは食って行けと用意してくれた。さすが幼馴染。フーちゃん好みの肉料理多めだったよ。
食事中の話の中で、空飛んで行くから向こうには「1時間半程度で着く」ってことを知ったラーハルト伯が同行することになった。護衛3人と文官ふたりも一緒だそうだ。
空の旅を楽しみたい辺境伯と騎士団長は、フーちゃんが足場のない空中輸送。他の4人は怖いということで、エアタンカーに運ばせる。空気穴開けても無理やり飛べるし、フィルター状になった僕を何度も重ねたら、中を流れる風も和らぐからね。
目立ちたがり屋らしい辺境伯。せっかくなのでと、準備中に先触れを出してメインストリートから離陸するとのこと。
滑走路代わりのメインストリートに到着したら、もうたくさんの人たちが見物に来てた。
「ポーちゃん、先、飛ぶする」
<アイアイマム。POY-エアタンカー、タキシングを開始>
目立つ場所まで移動したら、ワザと音を立てる。キュイィィイイン、シュゴーって。
<テイクオフ>
陽の光を浴びて黄金に輝く航空機が、順次離陸していく。
≪ジアッロ1 出る!≫
ラプターも無意味に4機編制。2~4番機は先に飛ばして最後に僕が離陸する。ワワンパァ、フーちゃんたちも続いて上昇。
せっかくなのでラプター隊は編隊を組んで、街の上空で航空ショーもどきな飛行をしてみた。
ラーハルト伯、すっごい笑ってるよ。楽しんでもらえて幸いでーす。
「ポーちゃん、遊ぶない。行くする」
≪アイアイー≫
「チヒ鉱山街はワワンパァの同胞が多数暮らしておるぞ。鉄がよく取れるのでな」
「良え物が揃っちょりそうですね」
「うむ」
あれ? ということは観光じゃじゃなくても、装備品を揃えに冒険者とか結構集まる感じなのかもしれないね。
河沿いに飛んでると、やがて山脈が見えてきた。手前にある森と一緒に、河に写り込んでてとても幻想的。なんか鉱山にある川って、赤茶けた感じで汚れてるイメージなんだけどな? フーちゃんとワワンパァの服みたいに、浄化の魔法とかでどうにでもなるなかもしれないね。
「なあフーちゃん、手前に降りたほうがええんじゃないん?」
「ルト? どうする、ある?」
「街の入り口に降りてくれ」
「分かるしたー」
「翁へ先触れを頼む」
護衛のひとりへ伝言と書状を渡してる。走って行こうとしてるので、僕に乗って行ってもらったほうがいいかと思い進言。50㏄の小型バギーっぽくなる。
「不思議な乗り物ですな」
≪異世界科学の力です。まあ……丸くないのでフーちゃんには不評ですけど≫
領主一行なので入り口で待たされることなく、街に入ることができた。門番が馬車を用意しようとしてたけど、バギーを見た伯爵は僕に乗りたいそうなのでビルドマインする。しかしコッチにはフーちゃんがいる!
つまり彼女お勧めのテントウ虫1号2号である。2台に分かれて僕らは街中の人に見られながら、宿へと向かうことになった。人通りもソコソコあるし、コッチはのんびり走ることになるんだよねえ。
恥ずかしいのですが。
車体幅があるからどうしようもないし、フーちゃんと伯爵は喜んでるしで、これはもう諦めるしかないんだけどさ。
「ここじゃ。今日はここに泊まる」
洒落た高級ホテル前で伯爵が言った。僕らは別にどんな部屋でもいいんだけど、結構グレードの高い部屋を取ってくれたみたい。ワワンパァの装備を解除して、伯爵の部屋に集合。ゲストルームはもちろん、会議室なんかも付いてるセレブリティあふれる部屋だったよ。先触れに出た騎士の人も合流して報告してる。
「工房に籠っておられるそうですので、明日にして欲しいとのことです」
僕らのほうをチラチラ見ながら。
<フィギュアが飾ってあった>
≪ええっ!? 王都から結構離れてるよね?≫
<椅子部隊が届けたらしい。僕らのこと知ってた。そして自分でも作りたくなって、工房に籠ったんだってさ>
「ポーちゃんのせいじゃ!」
「ポーちゃん、ダメ!」
≪いやいや、意識の同調は塊ごとに違うから、ここにいる僕のせいじゃないんだよー≫
椅子部隊に連絡してみたら、最初期からフィギュア制作に携わってるドワーフが、故郷のチヒにいる町長に渡してくれって依頼したんだそうな。
なんか……ホントに異世界にフィギュアが流行りそうになってきた。あと今回の件とは関係ないけど、フーちゃんとワワンパァの肖像画も完成して、お城のホールに飾られてるんだって。
それを伝えたら、ワワンパァが頭を抱えてうずくまってしまった。
「ポーちゃんと関わったら、ろくなことにならーん」
次回≪MISSION:33 楔≫に、ヘッドオン!
※タキシング
航空機が自走すること。滑走路に向かって走るタキシングという言葉以外は、特にカッチョイクないもの




