MISSION:99 スタンピード前
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一方、王都には問題が発生していた──
「国軍及びダンジョン街支部へ連絡してくれ。陛下とワワンパァ殿に協力を仰ぎなさい」
「かしこまりました!」
──スタンピードの前兆がラウファルダ冒険者ギルドから、齎されていたのである。
「間に合いますかね? ギルマス」
「本来であれば無理だと思うが……」
「スラちゃんがいますからねえ。でもどうして王都の本部には、常駐してくれないんでしょうか」
「うむ。頼んでみるか」
ポーが冒険者ギルド本部にいない理由は、至って単純なこと。
忘れているからだ。
南大陸のギルド本部に用事がないため、フィアフィアパーティが訪れることがないというのも、忘れている原因の1つだった。
なお、AWACSで上空から警戒していたポーが、スタンピードの前兆を察知できなかったのは、冒険者としての技量がなかったため。戦闘力の都合上、高ランクパーティに属してはいるものの、冒険者としては新米。経験が不足しているので、魔物の動きや行動範囲が普段とは違うことに、気付くことができていなかった。
◆
時を同じくして城内の一角。
<スタンピードが起きるそうなので出撃します!>
「待て、待たんかポーよ! 落ち着け」
逸る心を表現するかのように、奇妙な伸縮を繰り返すポーを諫める王。
<ええ?>
「やれやれ。姉上の戦闘好きがうつっておるではないか」
<でも早いほうがいいですよね?>
その問いに答える王は、諭すようにポーへと伝える。
現在の状況がスタンピードの兆しであることを。少々ではあるものの、準備のために時間が取れるのだ。アッツェーリオ王は情報を精査したのち、国軍と冒険者を派遣するためにポーを使うつもりだった。
王都近隣に展開しているポーの残機は、ダンジョン内部に待機しているものを含め大型旅客機2機分。さらに近海を探索中のものも加えると、総数は6機分ほどに増えていた。移送先は複数であるが、緊急輸送に耐えうる残機が存在している。
<なるほど、了解です。あーあ、フーちゃんいないのに戦闘イベント起きちゃってぇ。絶対あとでブーたれますよ>
「やむを得まい」
<一応ワワンパァには伝えておきます。弐式の準備をしてもらったほうがいい気もしますしね>
「新型らしいがすでに使えるのか?」
<ワワンパァですしぃ?>
「ふっふ、そうであったな。頼もしい限り」
ダンジョン内の冒険者に伝えるのか確認したのち、ポーはワワンパァに連絡を入れる。合わせて海中探査のりゅうぐう隊、りゅうおう隊も呼び寄せ、国軍と連携を取りながら輸送の準備を始めた。
そしてワワンパァダンジョンでは、報告を受けたワワンパァが館内放送を行う。
『ボ・ヤウダージア山脈でスタンピードの兆しありじゃ。詳しゅうは冒険者ギルドの発表を待ちんさい』
冒険者たちも動き始める。
◆
「今は暇な時間みたいじゃけえフーちゃんには言えんねぇ」
<言えないねえ>
「可哀想じゃけどあとで報告じゃね」
<うん。帰るするーとか言い始めちゃうしね、絶対>
皮肉なことに時の魔神からの攻撃を受けている本隊は、永遠とも思える無為の時を過ごしている。あまりの暇具合に、フィアフィアが暇の創作ダンスを踊るほどに。
知らせるべきではないと、判断するに足る状況だったのだ。
「弐式のことも合わせてゴメンじゃわー」
<そっちは僕がブーたれそう>
会話の流れで開発が決定した弐式は、大型敵性体に通用する火力を目指した機体となっている。ガーゴイルを素体とし、常闇ことブルードラゴンの廃棄物である鱗を装甲にしたドラゴン型の新型機である。
当然パーティメンバーからは完成を待ち望まれていたため、こちらも報告すべきではないと判断するしかない。大型であるがゆえに、パーティに同行しての実戦投入は機会が少ないだろう。
<しかし今回はルァッコルォがオイシイ匂い検知してから早かったなあ>
「じゃよね。スタンピードと入金じゃろ? どっちもなんかねえ」
<小粒のオイシイがあったせいで、よく分かんないけど……>
「色々と稼げそうじゃわ」
<だね!>
未来の報酬を想像して気分は上々のポーとワワンパァ。とはいえ、人里に魔物が迫る前に対処しなくてはならないため、気を引き締める2人。国王にはポーの旅客機で輸送すれば、十分間に合うと言われている。
ボ・ヤウダージア山脈麓の村が最前線になるので、陣地の構築のための資材や補給物資も、人員と合わせて運ぶ手はずとなっていた。
猶予は2日。
<……輸送だけで終わったらイヤだなあ>
「ポーちゃんは便利過ぎなんよ。諦めんさい」
そして2人は、暢気に惰眠をむさぼる常闇の元へと向かう。エルダークラスのドラゴンは戦力として申し分ない。
<ヤミちゃんが住んでた所でスタンピードが起きたんだよね>
「で、どうする? ヤミちゃん。ウチらと一緒に行くぅ?」
「んん~、行かないぃ。パァちゃんのドラゴンで十分だよぉー」
戦力が過剰だと判断した常闇は、同行を断る。しかしこれはただ単純に、惰眠をむさぼるための拒否だった。
「メンドクサイィ」
<おっけー>「了解じゃ」
毎度おなじみの回答だったため、2人は特に気にする様子もなく受け入れた。だが常闇が次に発した言葉に驚きの表情を浮かべる。
「後釜ぁ、争いだと思うのぉ。よろしくぅ、しといてぇ~」
「か、軽いんじゃけど!?」
<完全に僕らのせいじゃんっ!>
「お山のぉ支配域を~、半分こさせればいいと思うのぉ」
常闇から告げられた魔物の候補は、カテゴリーオーバーのヘラジカと、やんちゃな若いドラゴンとのこと。山のボスとして君臨していた当時も、小競り合いがあったので間違いないだろうとの言。
その2体が暴れたため、スタンピードが起きた可能性が高いと知ったポーとワワンパァは、相談したのち即座にアッツェーリア王へと連絡を入れた。
ナイショはマズイ。
<叱られはしなかったんだけどさあ……なにやっとんじゃボケェみたいな目で見られた>
「ウチでもそうなる思うわ」
<僕もなるかなー。でも僕らにカテゴリーオーバーとやんちゃドラゴンは、任せてもらう算段が付いたよ>
「どうせポーちゃんがワガママ言うたんじゃろ?」
バレたか、と身体を揺するポー。残機無限のせいもあり、戦闘にアグレッシブな性格になっていた。もはやゲーム感覚で異世界を謳歌している。残念ながら魔石の獲得はできないが、それでも強敵と戦えることに喜びを見出していた。
スー家の教育が行き届いているとも言える。
王都の作戦司令室では新たな情報に基づき、作戦の変更がなされていた。それは主にフィアフィアパーティの仕業であったため、当然のことながら後始末はポーとワワンパァに回ってくる。
戦闘力が高く、輸送も可能。便利に使われても仕方のないことだ。ポーの我まま発動で、カテゴリーオーバーとドラゴンは任せろと言われ、実のところは安堵している軍務卿だった。
<明日の輸送任務終わらせたら、エアタンカー1機だけ輸送に回せばあとは好きにしていいってことで決着したのです>
エアタンカー2機を王都とダンジョン街の守備に回し、4機とワワンパァ弐式で出撃することになる。戦闘時はAWACSスカイアイズ1機、エアタンカー1機、残りの大型旅客機分をラプター隊に編成し直し、戦闘開始である。
「了解じゃー!」
弐式の準備は整っていると伝えるワワンパァ。
コアルーム側にある深層のドックから、ダンジョン外へ出撃するための出入り口を明日までに仕上げるために、2人は作業を開始するのだった。
ダンジョン北西にある山の中腹に、隠蔽した出入り口を作成。往年の特撮のように、ハッチが開閉する機構を組み上げたのは完全にポーの趣味が出ている。
そして翌日。
資材と人員をたっぷり詰め込んだ黄金の機体が、青空に舞い上がった。
「頼んだぞ、ポーよ」
<お任せあれっ!>
町の住人へ周知させる時間はなかったため、ワワンパァ弐式は夜のうちに現場に向かっていた。すでにボ・ヤウダージア山脈の目ぼしい場所を探索している。
遅れること半日。部隊も山脈麓にあるそれぞれの村へと到着する。
エアタンカーから次々と現れる冒険者や国軍の兵士。危機的状況になるスタンピードではあるが──
「負ける気がしねえな」
──誰かが発したそんな声が風に乗り、村人の不安を和らげた。
次回≪MISSION:100 スタンピード中≫に、ヘッドオン!
※スタンピード前、中
前中後編というわけではなく。
3時まえ、とか、お食事ちゅう、の前中。




