6.「1人で闇組織を制圧せよ」と無茶振りされました①
「ふぁぁぁぁ…」
今、参謀本部で会議中です。
ソフィアは「座っているだけだから」と言われて会議に参加しています。気付かれないように欠伸をしながら……
「だから反社会勢力が…」
「警備局(日本でいう警察庁)は何をしてるんだ…」
「結局トカゲの尻尾切りか!」
(おうおうおう、責任の擦り合いだ。ったく)
ソフィアは心の中でボヤいていました。
こっくり…こっくり
(ん〜眠い)
「……少佐」
こっくり
「シルバータニア特務少佐!」
「ふぁっ?」
突然声をかけられたのでびっくりしてしまいました。
「特務少佐の意見が聞きたいのだが」
(ややヤバい、聞いてなかった)
「そ、そうですね。えっと、どの部分でしょうか?」
高速処理で考えて無難な返事をしました。
「反社会勢力の動向についてどう思う?」
何とか誤魔化せたようです。
「小官はあくまで作戦参謀将校です。広域戦略について言及する立場には無いと思うのですが」
「構わん、意見を聞かせて欲しい」
「ん〜」
(反社会勢力は、何故かあちこちに居る。人数はそんなに多くないはず…あちこち…あちこち…あ!)
「だから特務小隊が出来たのか!」
「え、シルバータニア特務少佐、どういう事だ?」
「あ、えっと…軍の作戦の最小単位は小隊です。分隊単位では斥候や陽動など作戦の支援をするだけです」
「それがどうした?」
「要するに、作戦の規模が大きい、という事です」
「小隊が大きいとは思わんが」
「小隊(40〜60名)だけではありません。司令部、その護衛、時には補給部隊、重火器部隊、装甲車など、ゾロゾロと作戦行動する訳です」
「ほう」
参謀次長は少し興味が出たようでした。
「反社会勢力の幹部など主要な者は、どう行動すると思いますか?」
逆にソフィアが質問しました。
「ふむ、先程から皆がボヤいていた「トカゲの尻尾切り」か」
「はい、軍が動いてるのを察知した瞬間に、さっさと何名かの捨て駒を残して拠点を移動していると考えます」
「それと、特務小隊とはどの様な関係がある?」
「特務小隊なら、こっそり侵入してこっそり拘束、つまりこっそり制圧出来ます。正規の軍の小隊ならまず気付かれるでしょう。もし、気が付かないのであれば、よほど呑気な敵か、重要な証拠など無い拠点とかでしょう」
「なるほど、それで特務小隊か」
「はい、現在隊長入れて11名。人数は通常小隊の1分隊分です。隊長と副長の私が司令部となって、残り9名で作戦を実行する事ができます。こっそりと」
「9名の実働部隊で、最大でどれだけの敵を制圧出来る?」
「拠点に籠もっている敵なら40〜50人くらいまででしょうか」
会議室内は「口では何とでも言える」「大げさだ」「5倍の敵だぞ、無理だ」などとざわざわと騒ぎ出しました。
ソフィアは慌てて言いました。
「ああ、申し訳ありません。あくまでシュミレーションの結果です。我々は実戦経験はありませんから」
「それなら50人という人数の根拠は?」
「拠点制圧任務のシュミレーションの作戦成功率です。敵が30人で99%、50人で92%、80人で18%、100人で3%。各48回のシュミレーション結果の平均値です」
「50人からぐんと成功率が下がるのだな」
「はい、我々は20人以上の敵を面制圧する事は出来ませんから。各個撃破か分断するだけです。包囲された場合はランダムに機動して敵を引っ掻き回すくらいしか出来ません」
「なるほど。しかし……それでもシュミレーションとはいえ90%以上とはな…」
し〜ん
(なななんだ、この沈黙は…)
「ありがとう、特務少佐」
「いえ」
それからしばらくして会議は終わりました。
ーーーーーー
ー会議終了後の会議室ー
数名の参謀が残っていました。
「特務小隊って…」
「5倍の相手を制圧する確率が92%…」
「それも48回の平均だってよ」
「普通は1%もないだろう」
「ランチェスターの法則、完全に無視だな」
「バケモノか!」
ソフィアは特務小隊の実力が物凄い。と、さらっと言ったとは全く気が付いていないのでした。
ーーーーーー
「薬屋まで遠いな…転移魔法で帰るか?いや、たまには歩いて帰るか」
転移魔法で直ぐ帰れるソフィアですが、帰り道を見て帰るのもいいか、と歩き出しました。
ぶつぶつと独り言を呟きながら歩いていきます。
「やられた。会議に出るだけって言ってたのに…隊長め!」
「参謀次長って偉いのかな?…大佐くらいなのかな?」
「ん〜軍の組織もよく分からん」
『参謀本部の役職は、TOPが総参謀長で、階級は中将です。次席の総参謀次長が少将。軍の参謀次長が陸軍、空軍の2名が准将です。
ソフィアに話しかけたのは、陸軍参謀次長(陸軍の参謀のTOPです)つまり准将になります。
ちなみに大将は総司令長官で、1名のみです。各軍の司令長官は中将、副長として准将が務めています。
つまり、大将は1人で中将や准将は複数います』
「そしたら私が「鬼軍曹」を発動している時は軍曹なのかな?」
「ありゃ、サントスは特務曹長だ。「鬼軍曹」の時は敬語の方がいいのかな?」
どうでも良い事を考えているソフィアですが、上官命令違反は場合によっては厳しい処分が下されるため、気にするのもある意味仕方のない事ではありますが…
「鬼軍曹」は魔法なので、軍の組織とは全く関係ありません…あたり前ですが。
そんなどうでもいい事を考えていると…
「ん?誰かにつけられているな」
誰かにつけられている様です。ソフィアはそれとなく人気のない広い場所へ向かいました。
戦い易く、また他の人に迷惑がかからない様にするためです。
「2人か…私が逃げたり、男たちを逃がすと他の人が被害にあうな…よし!捕まえよう」
ソフィアは将校なので、逮捕権、捜査権、つまり警察官の権限を持っています。
(ソフィアはよく分かっていませんが、特務少佐は警察でいうと「警視長」の権限があります。とにかくとっても偉いのです)
「よう、ねーちゃん俺たちと遊ばねーか」
2人の男がニタニタとソフィアに近づいて来ました。
「あら嬉しい、最近おばさんって言われる事があるのよ」
「何だこいつふざけてんのか?」
「ふざけてないわよ、切実な問題なんだからね」
「何余裕かましてるんだ、遊ぼうって言ってるだろ」
「遊ぶって?」
「へへへ決まってるだろ」
ソフィアはちらっと近くの看板を見ました。
『不審者に注意』
「あら、不審者さん?警備隊呼ぶわよ」
「フン、ならこうだ」
男たちはソフィアに掴み掛かってきました。危険です。…男たちが。
バキ「ぎゃ」ゴキっ「がぁ」
男たちはたちまちソフィアに倒され、荷造り用の紐でぐるぐる巻きにされました。
「暴行未遂とあと…えっと何だっけ…あ、そうそう公務執行妨害で逮捕する…えへ、言ってみたかったセリフなのよね」
「んな、お前警備隊(警官)か?」
「まぁそんなとこよ」
「俺たちは組織の者だ、ただの警備隊くらいどうとでもなるんだぞ、放せ」
「あら、反社会勢力の人なの…」
ソフィアは「鬼軍曹」を発動しました。
「貴様ら!今の反社会勢力がどうなるか分かってるのか?国家反逆罪だぞ。ったく堂々と襲ってきやがって、組織の事全部喋れ、それともここで撃たれて死ぬか?」
ソフィアは拳銃を抜いて男たちに向けました。
(士官や将校は護身のため、常時拳銃の所持が義務付けられています…まぁソフィアはアイテムボックスにもっと強力な武器がたくさんあるのですが…)
男たちはソフィアの変貌ぶりに「ヤバい奴に手を出してしまった」と悟ったのでした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺たちは反社会勢力じゃねぇ」
「バカか、さっき組織の人間で警備隊くらいどうとでもなる、と言ったぞ。そういうのは反社会勢力しかいないだろ」
「ホントだ本当に違うんだ」
「まぁ、「はい」って言ったら死刑は確実だからな。では近くの警備隊事務所(留置所付き交番)でも行ってゆっくり話を聞こうか」
「…分かった」
男たちは意外と素直にソフィアに警備隊事務所へ連行されていきました。
ーーーーーー
ソフィアたちは、警備隊事務所に到着しました。
「すみませ〜ん」
奥の部屋から警備隊の人が出て来ました。
「何だ」
「襲われそうになったので、捕まえました」
と、2人を突き出しました。
「え、君が?」
「はい、反社会勢力の可能性があるので、牢屋に入れてもらえませんか?」
「何?反社会勢力だと!」
「はい、可能性の話ですが」
その時、警備隊の人が、男たちにアイコンタクトをとっているのをソフィアの魔眼が捕らえました。
(コイツら、グルだな)
「あぁ、その2人はこの辺りのチンピラだ、あとはこっちに任せて帰りなさい」
「そういう訳にはいきません。ああ、私は軍の者ですので」
「えっ軍?」
「そうです、だから反社会勢力の疑いがある人を警備隊に任せる訳にはいきません。もしかしてその規則知らない、とかですか?」
「知っているが、大丈夫と言っているだろう、軍にはこちらで引き渡す」
警備隊の人は2人の男性を拘束している事からソフィアを上等兵、もしくは下級士官くらいに思っていました。
「あなた、所属と名前、階級を教えて」
「何だと、何故そんなこと言わないといけない」
「私がこういう者だからだよ」
ソフィアは(たぶん私自分の方が階級は上だろうと勝手に思っていました。…鬼軍曹のせいですが…まぁ実際かなり上です)身分証を警備隊に見せました。
「ん、…少佐?…特務少佐!…えええええ」
「ま、そういう訳だから答えて」
「あ、あ、おれ…わ、私は南西地区17分隊、ギラド巡査部長です…であります」
「あっそ」と言いながら、ソフィアはさっとギラド巡査部長の後ろに周り、拳銃と手錠を奪い、そのまま締め上げて、奪った手錠をギラド巡査部長にかけ、床の鉄製のパイプに繋ぎました。
「な、何をす…」
「お前がコイツらの仲間って分かってるんだよ」
「そんな証拠がどこ……」
ソフィアはギラド巡査部長の言葉を無視して、電話をかけました。
「もしもし、シルバータニア特務少佐です。キース特務中佐お願いします……『何だ特務少佐』あ、すみません。今、南西地区の警備隊事務所にいるのですが、反社会勢力の構成員と思われる男2人と仲間と思われる警備隊17分隊のギラド巡査部長を拘束しているのですが、どうしましょう?……『ん?ちょっと待て……えっと…南西地区……あ、あった。特務少佐聞いているか?』はい、聞いています。『ギラド巡査部長の事はこちらでも把握している。反社会勢力ではないぞ』は?それでは何で変な男たちの仲間なのですか?『あ〜仲間って分かってるのか…闇組織だ』え、闇組織?何ですか?それ『んまぁ簡単に言うと、警備局とつるんで悪さしてる奴ら。かな』で、どうしますか?『闇組織はシルバータニア特務少佐で制圧してくれ。警備局はこちらで引き受ける』…は?」
ソフィアは何を言われたのか分かりませんでした。
「い、今何と…『だから、闇組織はシルバータニア特務少佐で制圧してくれ。10人くらいの組織だ、簡単だろ」はあぁぁぁ?私、1人でですか?『そうだ、ギラド巡査部長と男たちはそこに拘束しておいてくれ、こちらで対処する。特務少佐は、そいつらに尋問して、闇組織の情報を引き出してくれ。こちらで把握している情報は今送信した』えええちょちょ『頼んだぞ、こっそり制圧してくれ。こっそりとな』え、あの…『プツっ・ツー・ツー・ツー・ツー』ええええぇ」
ガチャン!ソフィアは乱暴に電話を切りました。
「こっそり制圧」がこっそりキース特務中佐に参謀本部から伝わっていました。
「くぅぅぅ…くうっそぉ〜おぉぉ。無茶振りだあぁぁぁぁ」
がっくり…
まさかの無茶振りに、テンションダダ下がりのソフィアでした。
当然怒りの矛先は……
「ふ、ふ、ふ、貴様ら、私の質問にきっちり答えてもらおうか…もし嘘を言ったり、答えなかったら…」
ソフィアは横にある鉄製の机を上からゲンコツを振り下ろしました。
ドガっしゃぁぁーーーーーーーん
鉄製の机はバラバラになりました。少しやり過ぎたようです。
「こうなるからな」
ニヤりとしたソフィアでした。
ーーーーいぎゃぁぁぁぁーーーー
警備隊事務所からの悲鳴はしばらく続くのでした。