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3.第601特務小隊誕生

更新は不定期です。


...時は「木彫魔女の薬屋」開店前まで遡ります。



ソフィアは魔法が使え、さらにポーションも作る事が出来ます。

 でも、これを公言するつもりは全くありません。

 しかし、いざ、という時それらを使わずにいられるだろうか…と悩んでいました。

 この国にも事故や犯罪はもちろん、反社会勢力もあります。

 ソフィアの行使する魔法は強力で、魔女ルイーザが住んでいる異世界の宮廷魔術師団、師団長以上の実力があると言われています。

 身体強化魔法を使えば、軽く10メートルは飛び上がる事ができ、車より速く走る事も出来ます。

 魔眼で見れば、飛んでくる銃弾も見えます。

 身体強化を併用すれば、発射された銃弾を手で掴む事さえ可能です。

(他にアイテムボックス、転移魔法、全属性魔法、高速処理、並列思考など…完全にチートです)

 もし、何らかの事態でこれらを使用する事が起きてしまった時どうなるか考えていました。

 落ち着いている時なら、適度に調整して対処出来ると思われます。

 しかし、例えば襲われそうになった人を助ける為に、犯人を捕らえたとして、身体強化魔法を慌てて使ったが為に、犯人に大怪我をさせてしまう(過剰防衛)という事が十分に考えられます。

 しかし、ソフィアの性格からしても、目の前で窮地に陥った人を、自分の能力を隠すという理由で、見過ごすことは出来ないでしょう。

 そこで、大統領にこの事を相談しました。

 もちろん魔法の事は伏せて、制御が難しいスキルのようなものがあるという事にしました。

 試しに大統領の一番強い護衛と模擬戦をして、一瞬で勝利して驚かせました。

 しかし、スピードと力に頼った戦い方、という事が直ぐにバレました。

 大統領にこの能力を訓練などをして非常時でもコントロールしたい事。

 しかし、この能力と特にポーションの事は秘匿したい事。非常時は能力もポーションも使用する可能性がある事を進言して、何か良い方法がないか、検討をお願いしました。(ポーションの事は大統領しか知りません)


『この国は内陸部にあり、四方全てが国境線になります。

 そのような環境で、小さなこの国(小さいといっても面積は日本より広い)が独立を保っていられる理由の1つが強力な軍隊です。

 国民皆兵制度をとっており、徴兵制により男性は義務、女性は志願制となっています。

 組織としては参謀本部の下に軍があります。

 軍は二軍。陸軍と空軍で、国が内陸部にあるため、海軍はありません』


 数日後、大統領から連絡があり、官邸に赴きました。

 そして軍の総司令長官を紹介されました。

 最高指揮官は大統領ですが、軍の実質のTOPがこの総司令長官という事でした。

 先日の私のお願いについて、検討した結果につて説明がありました。

 この国の陸軍には5つの軍があり、部隊の呼称は「101…102…〜501…502…」のようになっているそうです。

 そこで、軍内部にも秘匿された第6軍として小隊規模の少数精鋭部隊を設立し、薬学や応急処置の知識、経験があるソフィアをその部隊の医官(階級は准尉)として小隊では仮の副官の任に就いて比較的自由度のある立場でソフィアを訓練するのはどうか。という事でした。(通常の入隊訓練では、階級も役職もありません。あくまで特例です)

 そして、ソフィアはその小隊で入隊訓練を実施、試験に合格した後は予備役として非常時以外は薬屋で待機する(一般の予備役と同じ扱い)というものでした。

 第6軍はこの小隊のみで、総司令長官の直属の秘匿部隊です。つまり、この軍の存在を知っているのも、命令出来るのも大統領と総司令長官のみになります。

 その為、この小隊に与えたられる任務は、秘匿性が高いものある事は当然で、通常の部隊より困難な任務となる事が予想されるため、各部隊から優秀な人材を厳選するとの事でした。

 この小隊は、中佐を隊長とし、9名の兵士(3名の分隊が3つ)ソフィアは副官、計11名の小隊で、非常時のみ召集されるという事でした。

 普通の小隊は、40〜60名で、隊長は通常少尉、稀に中尉が務めます。

 どうして小隊長が中佐かというと、基本的にこの部隊は秘匿性の高い任務を単独で行う為、もしも他の部隊との接触があった場合、佐官クラスでないとトラブルを誘発しかねないからです。

 もちろん、ソフィアの能力などは秘匿であり、隊員も含め、信用できる人材を選抜するとの事でした。

 ただし、秘匿された特例の予備役とはいえ、軍に所属するため、非常時には他の予備役と同様に軍務に就かなくてはならない、という事でした。

 ただしソフィアはあくまで後方で、戦闘に直接関わる事はほとんど無いだろうとの事でした。

 この時のソフィアは、「木彫魔女の薬屋」の開店準備中であり、店の改装工事、各種認可や資格の取得待ちだったため、軍の規約、戦略、戦術などは高速処理と並列思考で早々に習得出来ます。また、護身術、格闘術、射撃なども、身体強化や魔眼で訓練すれば訓練期間も大幅に短縮出来るであろう事を瞬時に考慮し結論を出しました。

 そして、了承の旨を大統領に伝えました。

 総司令長官は困難な任務な上、秘匿性が最高レベルの隊になるので、早速隊の編成に取り掛かりました。


 ーーーーーー


 ソフィアの入隊試験は驚くべき速さで終了、合格しました。

 もちろん、最大の目標である緊急時での身体強化魔法のコントロールも、精神系の魔法を併用する事により完璧に出来るようになりました。

「魔女の薬屋」の準備も整い、あとは開店するのみとなっていました。

 訓練はソフィアの能力の秘匿性を重視して、キース隊長と(のち)に第一分隊となる隊員3名、計4名のみで実施されました。

 筆記試験は全く問題無く合格。護身術、格闘術も最初はぎこちなさも感じられましたが、高速処理、並列思考、身体強化、魔眼、そして新しく精神系の魔法を会得して、それらの合わせ技であっという間に習得しました。

 また、魔眼の新しい能力も発見しました。

 拳銃はもちろんマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフルも抜群の命中率で、狙撃では800メートルを命中させました(これはライフルの射程の問題で、もっと長い射程のものでも命中する事が可能だと思われます)スコープも必要ありません。

 さらに実戦訓練では、暗視スコープも必要なく、建物の中も赤外線熱探知機を使用した様に把握出来ます。

 さらに戦略、戦術を習得しているので、小隊の動きを実際に見て(全員の動きを同時に確認できます)的確な判断をします。

 この報告書を見た総司令長官、大統領はもちろん驚愕し、医官ではなく作戦参謀として、少佐に昇進させ、副長に任命しました。もちろん医官も兼任していますが後方任務であることには変わりません。

 将校(少尉以上)は逮捕権、捜査権もあります。つまり警察官の権限も有する事になります。(この国では准尉は上級下士官扱いで将校ではありません)

 なお、ポーションの存在は大統領だけが知っており、総司令長官も含めてやむを得ない事態が起きるまで秘匿する事となりました。

 これはソフィアが強く求めたもので、過去自分が国を捨てた原因がポーションの存在が漏れた事に起因した事を伝えた為です(ポーションの存在の危険性や国を捨てた経緯を事実に少し脚色して説明し、どんな高官や大統領の信頼する人でも、もし他の人に漏れる様な事があれば直ぐ国を去ると宣言しました)

 そして、隊長としてゲオルグ・キース特務中佐、副長ソフィア・シルバータニア特務少佐、以下9名(1分隊3名×3分隊)計11名の「第601特務小隊」が誕生しました。


 入隊式終了後ソフィアは、小隊全員に挨拶を済ますと、キース特務中佐、一緒に訓練をした第一分隊(3名)に丁寧にお礼をしてから、予備役として、薬屋へ帰って行きました。

 ソフィア以外の隊員達は、しばらく実戦訓練などの分隊の連携訓練をしたのち、元の部隊へと戻るとの事でした。

(この小隊の隊員は、各々別の中隊より選抜された隊員で構成されていて、通常は各々の中隊に勤務し、非常時のみ第601特務小隊として召集されます)



 ※特務中佐と中佐では、違う階級で、権限が全く違います(この軍には存在する階級ではありませんが、上級中佐、下級中佐の様なものです)。他の階級(少佐や軍曹など)でも「特務」が付くという事は、大統領直属を意味し、所属する部隊の作戦行動中でも、召集される事が許されています。もちろん同じ階級でも「特務」が付いた方が立場、権限は上です。



 ☆☆☆☆☆☆



「突入!」


 キース特務中佐(以下訓練中は隊長と表記します)がインカムで命令を出しました。

 隊員たちはハンドサインを出しながら、慎重に建物に入って行きました。

「プシュ」っというサプレッサー付きの LVAW(低視認性突撃銃)の音が数発聞こえてきました。

 ソフィアはキース隊長の横で、その光景をじっと見ていました。

(今日は特務小隊の実戦訓練の状況を作戦参謀としてソフィアの意見が聞きたい、という隊長の要望で、見学に来ています)


『クリア』

『クリア』

『クリア、任務完了』


 3つの分隊長の声がインカム越しに聞こえました。


 今、実戦訓練の最中です。

 反社会勢力の拠点の制圧を想定した訓練をしています。


「シルバータニア特務少佐、どう思う?」


 ソフィアはキース隊長の質問の答えに悩みました。

 日本人だからなのか、言いにくいことはぼかして話したい、と思ってしまっているからです。

 しかし、ここは軍隊です。

 言わなければならない事をハッキリ言わないと、隊員が危険に晒され、命の危険もあります。

「仕方ない、鬼軍曹になるか…少佐だけど…」と呟き、「鬼軍曹」を発動しました。

(ソフィアは精神系の魔法として「鬼軍曹」を習得しています。容赦のない性格になります)

 少し考えて、いつもと違う質問をしました。


「隊長はどう思われますか?」

「想定より15秒遅れだが及第点だ」


 ソフィアは「はぁ」とため息を吐きました。


「隊長はどうやら普通の小隊と同じにお考えの様ですね」


『この国の軍隊の歩兵小隊は、基本的に約40〜60名です。

 小隊長以下2人か3人の上級下士官、分隊長と隊員10名で1つの分隊。それが3〜5分隊あります』


 キース隊長は、ソフィアの能力は十分に知っているので、嫌味に聞こえる事はなかったのですが、いったい今の訓練のどこが悪かったのか、全く分からなかったのでした。


「シルバータニア特務少佐はどう思う?」

「全滅です」


 即答でした。


「すまない、理由を教えてくれ」


 少し考えて、意を決したソフィアは答えました。


「第2分隊の動きが遅いです。第1分隊がポイントE1に到着した時には、第2分隊は既にE3ポイントに到着していなければなりません。

 B2ポイントには数名の敵がいるので、第1分隊が攻撃した時にB2ポイントの敵が気が付いたなら、第2分隊は挟撃されていました。更に後ろの警戒もしていませんでした。

 それで第2分隊は全滅。それで戦線が崩壊して第1、第3分隊は敵の全力反撃を受けて全滅します」


「ちょっと待て、今回の訓練はBの敵は攻撃しない、という条件だぞ」

「本気で言っているのですか?」

「え」


 キース隊長はますます分かりません。

 ソフィアはかなり怒った表情で言いました。


「「攻撃をしない」という条件は、「攻撃を想定しない」という意味も含まれるのですか?それなら何故、Bという敵を配置しているのですか?」

「なるほど」


 キース隊長はソフィアの言いたい事を理解しました。

(このことは実戦経験の無いこの国の問題点でもあります)

「それに」と続けてソフィアはいいました。


「通常の分隊は10名で構成されています。1人の戦闘不能は10分の1の損害ですが、この分隊は3名です。1人の戦闘不能は3分の1の損害になります。

 作戦の終盤ならともかく、作戦開始直後の1分隊の3分の1の戦力消失は作戦継続に値するとは思えないのですが」


『一般的に兵士の30%程度の損耗を受けた場合、その部隊は戦力として数えることができなくなり、部隊は「全滅」とされます。

(今回の場合は第2分隊だけの話ですが)』


「第2分隊の隊員はB2ポイントの敵に警戒もせず背中を見せていましたから、最初に1人は確実にやられるでしょう。例え銃火器を持っていない敵であっても、ガラスの灰皿や、置き物、何でも武器になります。

 無防備な状態なら女性や子供でも隊員を無力化出来る可能性があると思います。

 今回は開始1分で作戦失敗です」


 むむむとキース隊長は自分の判断の甘さとソフィアの慧眼に感服していました。

(しかし、魔眼と高速処理がないと分からないレベルなので、仕方がないのですが…)



 ☆☆☆☆☆☆



 キース特務中佐は今回の実戦訓練結果を総司令長官に報告しました。


「あっははは…それにしても入隊して1ヶ月も経たずにこれほどとは…」

「入隊訓練は高い身体能力をコントロール出来るようにするのみ、という事でしたが、様々な能力がある事が分かり、さらに優秀な隊員を集めたにも関わらず、彼らを凌駕するもので、作戦の指示も私より的確でして…」

「キース隊長も作戦指示については立場がないのぉ」

「はぃ…どちらが隊長か分かりません」

「いや、シルバータニア特務少佐は作戦参謀だから仕方がないと思うぞ。隊をまとめるのとは違うからな」

「しかし、ここだけの話、あれほどの参謀は参謀本部にもいませんよ」

「そうだな」

「それに作戦の立案指示だけではなく、格闘技も手を抜いている感じでしたし、射撃もかなりの腕です」

「手練れの隊員でも敵わず、長距離射撃でも800mを命中させたらしいな」

「はい、正規軍に欲しい人材です」

「前にも言ったが表に出せない事情があってな」

「分かっております」

「しかしもったいない話だな、あれが町の薬屋とはな」

「全くです」

「まぁ、予備役扱いではあるので、非常時のみではあるが、使えない訳ではないがな」

「そうですね」

「それより、隊員はどうする?」

「しばらく特別訓練として各隊員の原隊(元々所属する隊)に通達して、数ヶ月ほど召集して鍛えます。今のままでは特務少佐についていけません。一緒に試験の訓練をした第一分隊でさえ厳しい状態です。他の2分隊は相手にもなりません」

「あははは…特務少佐を訓練するための小隊が、特務少佐のために訓練させられる立場になるとはな」

「皮肉な話です…」


 こうして、ソフィアを除いた第601特務小隊の地獄の日々が始まったのでした。

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