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2.後編

 ヨハンが新しく「木彫魔女の薬屋」で働くことになったので、財務は全て丸投げしました。

 入金額がものすごいのでとても驚いていました。

 ソフィアは一応複式帳簿らしきものを作っていましたが、プロが見れば杜撰だったので、一からやり直してもらいました。

 もともと潤沢な資金があったのでソフィアは全く気にしていませんでした。

 店の備品や運搬に使ったトラックも自費から出しており、残っている領収書などを全部渡して整理してもらいました。給料も計上していませんでした。

 交際費、接待費及び福利厚生費などはほとんど使っていないので、これも要検討となりました。


「従業員増やすかなぁ」


 ソフィアはもう少し開発に時間をかけたかったので、店は任せる人を雇った方がいいと思ったのです。

 ヨハンがいるため店や給料等の諸経費は任せられるのです。

 しかし、従業員募集は大失敗したので、少し悩むところです。


「オーナー、これだけの入金があるのですから、税金にばかり使わずに他にも考えたらどうですか」


 ヨハンから指摘されました。

 テキトパ製薬に提出したレシピの技術提供料が物凄い事になっていました。


「それなら社会貢献でもするかなぁ」


 この国は治安もいいし、住みにくい事は無いのですが、以前見た週刊誌に書いてあることを思い出しました。

 この国にも貧民街やスラムがあります。

 その記事には、そこに住む孤児たちのことが書かれていました。

 国営や民間の児童養護施設はあるのですが、予算の関係で全ての孤児が利用することができません。貧民街にはボランティアで孤児たちを集めているところがあるようです。

 しかし、その環境は酷いもので、その週刊誌で大きく取り上げられていました。


「見に行ってみるか」


 週刊誌だけを鵜呑みにできないので、実際に見に行くことにしました。


「ヨハンさん、少し出かけてきます」

「いってらっしゃいお気をつけて」




 車に乗ったソフィアは貧民街に着きました。

 日本に居た頃、車は3台所有していたのですが、国交の無い国で日本車が走るのはおかしいので、こちらで買った車です。


「思っていたより綺麗ね」


 この国は先進国とは言えませんが、街並みは先進国と変わりません。

 貧民街も少しゴミが多い、閑散としいるなどの状態ではありますが、不潔というわけではありません。

 ソフィアはボランティアの方で運営しているらしい児童養護施設(以降「孤児院」と表記します)を探しながら、辺りを散策しました。

 いろいろ人に聞きながらやっと到着しました。


「ここか」


 コンコン


「こんにちはどなたかいらっしゃいませんか?」


 しばらくすると中から声が聞こえてきました。


「はーい」

「ここの方ですか?」

「いえ、手伝いです」


 中から年配の女性が出てきて対応してもらえました。


「ここのことを少し聞きたいのですが」

「あ、はい」


 女性の話をまとめるとこういう事です。

 ここは昔老夫婦が住んでいる家でした。

 そして、身寄りのない子供たちが集まって遊んでいました。

 老夫婦が面倒を見ていたんだろうとの事でした。

 その老夫婦がなくなり、この家の持ち主は居なくなりました。

 しかし子供たちはその後も集まって来るとの事でした。

 おおよそ10人〜20人、子供たちが生活しているようです。

 そのうち周りの大人たちがボランティアで食事作ったり、掃除をしたりするようになったらしいです。

 しかし、それは誰がどうするとか決まってるわけではなく、毎日来れるわけでもないので誰もここの状況を把握していません。

 子供達は学校にも通っていなくて、ボランティアや上の子が教えていたとの事でした。

 この辺りは週刊誌通りです。

 この家の持ち主は、おそらく国の物となったらしいです。

 管轄は地域課だと思う、との事でした。

 ソフィアの見た感じでは、週刊誌に書かれているような酷い状態では無いようでした。

 最近少し変わったことといえば、17〜8歳の女性がこの家の周りをウロウロするようになったらしいです。


「ありがとうございました」


 そう言ってソフィアはその場を後にしました。



 その後地域課に寄って話を聞きました。

 確かにあの場所は国のものとなってましたが、予算の都合で担当を付ける事ができないこと、子供たちを不必要に排除することはしないしたくない、との事でした。

 そこで大統領に福祉の担当の方を聞いて話をしに行き、お会いして現状を説明しました。


「予算なら私が出しますよ」


 ソフィアはそう言いましたが、「とんでもない、直ぐ私どもで対処します」と言われ任せることにしました。

 大統領が話をしたのか、もう既に対策は決定している様でした。

 恐らくこういった事は氷山の一角だと思います。

 まだこの国は、福祉に関しては先進国には及びません。こういう事は口出しせずに専門家に任せた方が良いとソフィアは考えています。しかし、現状を見た以上、他の事例の対策もお願いしておきました。


「よろしくお願いします」


 と、ソフィアは帰りました。


 数日後。

 ソフィアは再び孤児院に行きました。


「おお、やってるなぁ」


 孤児院には国の役人と思われる方が出入りしていました。

 福祉の担当の方は、早急に動いてくれたようです。


「おや…」


 孤児院の横には17〜8歳の女性が座り込んでいました。

 確か以前来た時に、年配の女性が「17〜8歳の女性がこの家の周りをウロウロしている」と言っていたことを思い出しました。

 ソフィアは車を降りてその女性のほうに歩いていきました。


「すみません」

「…………」


 その女性は何も言いません。

 何度か声をかけてやっとソフィアの方を向きました。


「ここのご出身の方ですか?」

「帰るところがなくなった」


 どうやらここの出身者のようです。


「帰るところは無いのですか?」

「もう…ここしか…うわあぁん」


 泣き出してしまいました。

 泣き終わるのを待って、ソフィアはゆっくり話を聞きました。


 彼女の話はこうでした。

 彼女の名前はリサ。おそらく18歳。

「おそらく」と言うのは、はっきりとした年齢がよくわからないそうです。

 リサと言う名前も当時孤児院のお兄さんやお姉さんがつけたようです。


 物心ついた頃から、スラムでゴミを漁って生活したらしいです。

 その時の仲間にここのことを聞き、それから時々この孤児院に来てたようです。

 年齢はボランティアの方が、この孤児院に来たときに8歳くらいと言われたところから数えたらしいです。

 この孤児院には特に年齢制限は無いようですが、他の児童養護施設と同じように15歳で仕事を見つけ、それぞれその場所に行くような慣習になっていたようです。

 リサもまた15歳になった頃、仕事を見つけて住み込みで働くようになったのです。

 しかしその仕事も長続きせず、すぐに解雇されまたここに戻ってくるような生活が続いたようです。

 仕事は何度も解雇されたようです。

 何故かと言うとリサは、計算がとても苦手らしいです。

 他の事は人並みに、体力に関しては他の人以上に優れているようですが、なぜか計算だけがとても苦手らしいです。

 そのことが原因で勤められなくなったようです。

 色々と質問してみましたがどうやら本当の事のようです。

 他の難しいことも質問してみましたが、正しく答えられるかは別にして、内容についてはよく理解してるようでした。

 計算については、足し算や引き算はそこそこできるようですが、掛け算や割り算になると途端に答えられなくなりました。


「なるほど、それで仕事でミスをしてクビになると言うことですね」

「はい…」


 ボランティアの方が近くにいたので、リサのことを聞いてみました。

 彼女の言っている事は本当みたいでした。


「私は薬屋をやっているのだけど、よければそこで働いてみる?」

「え?」


 はしばらく考えて。


「お願いします」


 とリサは力なく返事をしました。恐らくまた解雇されることを恐れているのでしょう。

 そしてリサを連れて薬屋に戻りました。

 部屋はたくさんあるので、その一室をリサの部屋としました。

 念のため、警察や役所などに捜索願等が出てないか、また調査員を使ってリサの過去について調べてもらいました。

 報告書を見ると間違いなく、幼い頃からあの孤児院で生活していることがわかりました。

「計算が苦手」という事はかなり印象に残っていたらしく、複数の証言が得られたそうです。捜索願や出生届も出ていないようでした。


 リサの事は私が後見人となり、市民カードや保険証を取得しました。そして誕生日を決定して18歳ということにしました。

 この国では保護者が認めれば16歳から車の運転が可能です。

 今後のことも考えてリサには自動車教習所に通わせました。

 なんと一発で合格しました。

 この国の免許の取得は日本に比べて簡単で、算数の問題も無いからです。

 交通量も少ないです。

 こうしてリサは正式に「木彫魔女の薬屋」の従業員となったのです。


 孤児院の方は、その後福祉課の主導によって正式に児童養護施設として運営する事となりました。

 そして、他にもこのようなところがないか調査してもらう事とともに、この活動を維持してもらうことをお願いしました。

 この活動には、福祉課に新しい部署を設置して維持することが決定されたようです。

 そしてソフィアはこれらの資金として寄付をしました。

 その寄付金は一軒家を購入できるほどの額で、とても関係者を驚かせました(日本の一軒家よりはるかに安いです)

 このことを店に帰ってからヨハンに話しました。すると。


「その寄付金はソフィアさんの自費ですか?」

「そうですよ」

「それでは薬屋の社会貢献にはなりません」


 怒られてれてしまいました。


「寄付金については、薬屋から出します。それに定期的にその新設された部署に寄付は続けます。これも立派な社会貢献になりますから」


 ソフィアがポツリと「社会貢献でもするかなぁ」と言ったことをヨハンはちゃんと覚えていました。

 ソフィアは勘定科目は何になるんだろう?などと考えていましたが、専門家に任せた方が良いだろうと深く考えないようにしました。



 従業員が2人増え、3人となった「木彫魔女の薬屋」

 日本の薬店は商品がギッチリ積まれていて、ソフィアはそれがあまり好きではありませんでした。

 なのでソフィアの店は日本の薬店の数倍の広さがあるので、商品を効能別にゆったりと並べ、すべての商品が目に入るように配置しました。

 それでもスペースが余っていました。

 在庫はもともとソフィアがアイテムボックスに全て入れていたので、保管用の倉庫は無かったのですが、ヨハンが薬屋に入った事によって、空いている部屋を魔法でちょこちょこっと改造して倉庫を作りました。


「商品って薬だけなんですか?」


 突然リサが声を上げました。


「今までは私1人だったから、そこまで手が回らなかったのよ」


 と、ソフィアは言っていますが、実は薬以外の事はあまり興味が無いのでした。


「ここは薬店でもないですし、健康グッズや食品など置いてはどうでしょうか?」


 ヨハンが提案しました。


「そうですね、基礎化粧品とか置いてもいいですね。化粧水とか乳液、ファンデーションぐらいはいいかもしれませんね」


 ソフィアも負けずに提案しました。


「それなら以前私が化粧品の会社を担当したことありますので紹介しましょうか?」

「いえ、薬以外はヨハンさんとリサで担当していただけますか?」


 ヨハンの提案に対してソフィアが答えました。

 そしてソフィアは店の空いてるスペースを指差しながら言いました。


「あそこの空いてる場所を使って下さい、薬のスペースを多少縮めても構いません。でも窮屈になるのは嫌なのでそこは考えてください」

「分りました」

「了解したのです」


 ヨハンとリサが元気よく答えました。


 こうして「木彫魔女の薬屋」は3名となりました。



「木彫魔女の薬屋」の売り上げは、ソフィアが開発したレシピの提出による技術提供料が一番ですが、それを除けば店頭販売よりチェーン展開している大手薬店への卸売りの方が圧倒的に多いのです。

テキトパ製薬に許可を得て代理店の様な事をしています。

それは今までソフィア1人で営業していたので、店を閉める事が多かったからです。

今回、ヨハンとリサが入って、更に薬以外も販売する事となったので、開店日数や時間を増やす事になりました。

しかし。


「販売員が必要だなぁ」


ヨハンは財務を担当しているので販売まで任せられないし、リサは頭を使うより体を使う方が良い様です。

彼女の身体能力は物凄くて、ヨハンでさえ持つのが大変な物でも、軽々と担ぎ上げるのです。

ソフィアは営業と開発ですが、特に開発は店に居ない事が多いので、販売員が必要、という事です。


「むむむ」

「ソフィア様ぁ、どうされたのですか?」


リサは絶望している時に助けてくれたソフィアにとても感謝していて、様付けをやめないのでした。


「販売員が必要だなぁと思ってね」

「販売員と言うのは誰でもなれるのですか?」

「とりあえず読み書きと計算ができればね」

「私の友達というか孤児院で一緒だった子連れてきましょうか?」

「その子は仕事してないの?」

「今は住み込みでウェイトレスをやっているのですが、以前の私と同じで市民カードが無いので色々苦労していると思います」

「その子が良ければ一度連れてきてくれる?」

「はい分かりました」


数日後、リサが友達を連れて来ました。

リサには近くにもいても良いけど、口は出さないように言いました。


「は、初めまして。レ、レイナと言います。17歳です」

「初めまして私はソフィアよ」


ものすごく緊張しています。


「とりあえず緊張しないで」

「は、はい」

「今の仕事は問題があるの?」

「えっと…」


レイナの話によると…

元々レイナは地方で母親と二人で生活していました。

10歳の時母親が病気で亡くなり、叔父にあたる人に引き取られました。

その叔父が酷い人で、虐待されていたそうです。

12歳の時、ついに身の危険を感じたので、逃げ出しました。

都会に出れば何とかなると思い、この街に来たそうです。

12歳では仕事もなく、途方に暮れて貧民街を歩いていたそうです。

そこでリサと出会い、孤児院を紹介されて住むようになりました。

15歳になった時、ボランティアの人に今のレストランを紹介されたそうです。

住み込みで働かせてもらっていたのですが、身分を証明するものもなく、特別な技能もなかったので、給料も非常に安く、朝から晩まで働いても他の従業員に比べ、かなり冷遇されていたようです。

でも、将来のためにウェイトレスをしながら、こっそりと店の運営の事や、帳簿の付け方を勉強したりしていたとの事なので、ある程度の事は任せられそうです。

リサの話を聞いて、是非ここで働かせて欲しいとの事でした。


この話を聞いて放っておくわけにもいかず、当然身元の調査はしますが、雇う前提で話を進めることにしました。


しばらくしたある日、レストランを辞めたレイナは荷物をまとめて木彫魔女の薬屋にやってきました。

そして、店に住み込んで見習いも兼ねて店を手伝い始めました。

身元調査も終わり、調べてみるとその叔父と言うのは、正式に保護者として登録もしておらず、当然レイナの身元を証明するものも作っていませんでした。

ただ、外聞の為に学校には通わせていたようです。

そのため、失踪しても捜索願は出していない事も分かりました。

当然その様なところに返すわけにはいきません。

関係部署に事情を説明して了解をもらいました

そしてソフィアが後見人となり、レイナの市民カードと保険証を作り本人に手渡し、正式に従業員として雇いました。

レイナは基本的に販売員で、ウェイトレスをやっていたため接客も出来ますが、ある程度経理も出来るようにヨハンにいろいろと教えてもらいました。

車の免許も取得してもらいました。

レイナは真面目でもの覚えも良く、リサと同様よく働きます。


これで木彫魔女の薬屋も4人体制となり新しくスタートしました。


こうして4人で楽しく店を始めたのでした。


今日も元気な声が聞こえます。



「いらっしゃいませ」

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