異星人の嘆き
巨大な円盤型の宇宙船は、ゆっくりと下降し、まもなく地球に着陸した。ウィーンという音とともに宇宙船のドアが開くと、待ち構えていた群衆たちの歓声が響き渡る。ドアから伸びた階段を異星人たちはゆっくりと降り、ついに地球の地に足を着けた。
昨日はお疲れ。大変だったね。緊張したわ。もう心臓バクバクよ。え、そんなふうには見えなかった。本当。それなら良かった。
あの最新の翻訳機良いね。言い間違えても、正しく言い換えてくれるし、噛んでも修正してくれるし。本当翻訳機に助けられたよ。
かなり集まってたんじゃない。友好の表れだろうね。地道に通信を重ねて、敵意がないことを訴え続けたおかげだよ。電波の違いがあって、声だけの通信だったけど、やっていて良かったよ。凄い歓迎ムードだったもん。だけどガッカリしてたね、結構あからさまに。
われわれの姿を見た瞬間、ポカ~ンってなってたもん。目が点とはまさにあの事。歓声が止まったよね。正直、そんな重たい中での挨拶って地獄よ。最初の方、何言っても聞いてないんだもん。本当、逃げ出したかった。
われわれに会うの凄く楽しみにしてたんだろうね。そりゃあそうだよ。地球人にとっては初めてだもん、異星人と会うの。初の未知との遭遇だもん。そりゃあ期待するよ。それで、出て来たのが、われわれじゃね。ガッカリするのも無理ないよ。だって、地球人とほぼ見た目変わらないんだもん。「地球人じゃん」って声聞こえてきたからね。「普通じゃん」ってのもあったな。ファーストコンタクトの感想が普通ってのは、ちょっと応えるよね。
われわれはさ、前もって送り込んだ調査隊からの報告で、地球人の姿を知ってたから驚かなかったけどさ、彼らからしたら想像してたのと違ってたんだろうね。
地球人が抱いていた異星人のイメージって知ってる?あ、知らない。調査隊から聞いたんだけど、ちょっと紙ある。あ、ありがとう。体のわりに、頭部が大きくて、目が大きく吊り上がっていて、肌が灰色で、こんな感じなの。凄くない。肌、灰色よ。この吊り上がった目、怖すぎでしょう。そう、服着てないの。裸よ、裸。ありえなくない?そう、毛もないの。これは失礼だよね。絶対いじってるよね。ふざけすぎ。よくこんなの思いついたと思わない。感心しちゃう。
こんな異星人が現れると思っていたところに、ほぼ見た目が同じ、われわれが登場した。そりゃあ盛り下がるよね。せめて裸で登場したら、もうちょっと盛り上がったかもね。いや、冗談だよ、冗談。あんな大勢の前でフルチンを晒すなんて、変態じゃん。忘年会のお前じゃないんだから。それは言わないで下さいよ、じゃないよ。酔うと脱ぐくせ直した方がいいぞ。でも宇宙服も、よくなかったかもね。より地球人感が増したんだと思う。地球人が帰還してきた、みたいに見えるもんね。
あの司会者もよくないよ。「遥か遠い銀河の果てから、はるばるやって来た、メトロム星人の方々です」とか言って、期待値をあげまくったところで、登場だもんな。銀河の果てとか言うとさ、スゲェ遠い惑星感が出て、ああいう異星人を想像しちゃうもんな。はるばるって言う言い回しも、遠さアピールしてるよ。宇宙の事なんにも知らないくせに、果てとか、はるばるとか言うなよなぁ。全然果てじゃねぇし、地球から18光年しか離れてないし、二週間で着いたし。ハードル上げすぎなんだよ。出づらかったよなぁ。
でもさ、今思い出したけど、一番勘弁してほしかったのって、あれじゃない。歓迎式典の終盤での握手。あれは辛かった。地球人の代表が出てきて、これは地球での友好を示す挨拶ですとか言って、握手を交わしたじゃん。そうなんだよ。握手って割と何処の惑星でもやってる事じゃん。まさか、あんなに丁寧に握手やり方を説明されるとは思わなかったよ。握手を地球だけのものと思わないで欲しいよね。
そうそう、その後だよ。まさかあんな展開が待ち受けているとは思わなかった。メトロム星の友好を示す方法を教えて下さい、ときたんだよ。肝を冷やしたよ。メトロム星でも友好を示す方法って、もちろん握手じゃん。だから、仕方ないからもう一度握手したらさ、翻訳機が故障したのかと思ったんだろうね。なんか苦笑いされて、こっちだって苦笑いじゃん。二人して苦笑いしてて、あれ何の時間よ。
それで終わってくれれば良かったんだけど、何か取り繕わないといけないと思ったんだろうね。地球人の代表が「地球の文化である握手を気に入ってくれて嬉しいです」みたいな事言うからさ、俺、誤解したままだと駄目だと思って「メトロム星でも友好を示す方法は握手なんです」って言ったらさ、スゲェ変な空気になったじゃん。あれ何なの。こっちが悪いの。そのまま放っといた方が良かったって事。地球人って案外、厄介な生物かもね。
でもさ、色々言ったけど、われわれにとっては、地球人と見た目が変わらなくて良かったと思うよ。これも調査隊から聞いたんだけど、地球人って肌の色が違うだけで、差別するらしいから。宇宙規模で言うと、地球って随分遅れてるよね。まだそういう段階みたい。だから、もしわれわれが、地球人が抱いていたような異星人みたいだったら、式典では盛り上がったかもしれないけど、後々差別を受けていたと思うよ。肌の色が灰色だし、裸だし、見るから違うわけなんだから。見た目が変わらなくて良かったんだよ。われわれにとっては有利に働くんじゃないかな。もしかしたら、計画していたよりも早く、目的は達成するんじゃない。
いまや、人口減少社会に突入して久しいメトロム星において、人口減を食い止める最終手段として、他星に頼るほかないわけだかね。出来るだけ早く、メトロム星に嫁いでくれる地球人を探さないとね。人口が減少すると経済成長率が低下してしまうからね。
これからパレードだよね。その後はホテルでの歓迎会か。パレードに人が集まるか不安だなぁ。パレードって沿道に人が集まってこそじゃない。閑散としてたら嫌だな。ああ、なるほどね。そうかも。実行委員が無理やりにでも集めるか。体裁ってのがあるもんね。でも、盛り上がらないだろうな。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。まぁそうだね。メトロム星を救うため、もうひと踏ん張り頑張らないとね。
終