159話「ハンバーガーと有名人」
何故か白崎もまじえて駅前のハンバーガーショップへとやってきた俺達。
何故ここに白崎がいるのかは相変わらず不明だが、それでも都内から遥々この町へやってきている白崎に帰れだなんて流石に言えないし、それ以前にここへ来るまでずっとマシンガントークをする白崎にそんな事を言う隙すら無かったのであった。
しーちゃんはずっと不満そうな表情を浮かべているが、まぁそこは俺が上手く間に入りつつやり過ごすしか無さそうだなと思いつつ、俺はしーちゃんの次に並んで注文の順番を待っていた。
「ご注文をどうぞ!」
「えっと、このBLTバーガーセットで」
「かしこまりました。サイドメニューをお選び下さい!」
「んー、じゃあポテトとコーラで」
最初は一人で注文出来なかったけど、今ではすっかり慣れた様子で注文をこなすしーちゃんの後ろ姿を、俺は見守った。
「かしこまりました。クーポンか何かお持ちでしょうか?」
「クーポン?」
「はい」
「えっと――た、多分無いです」
「は、はい、かしこまりました!ではこちらの番号でお呼び致しますので少々お待ちくださいませ」
しかし、順調だったしーちゃんだけど残念ながら最後のクーポンの下りだけは分からなかったようだ。
こうして不意を突かれたしーちゃんは、少ししょげた顔をしながら振り返ると小さく「たっくぅん……」と呟きながら何かを訴えてくるのであった。
――うん、今度クーポンサイト教えてあげよう……。
「ハハハ、なんだ紫音ちゃん?注文苦手か?」
しかし、そんなしーちゃんの様子を見た白崎は面白そうに笑いだすのであった。
全く空気が読めないというか、本当に良いところは顔だけだなと思っていると、しーちゃんもそれが気に障ったのか珍しく怒ったような表情を浮かべていた。
ちなみにしーちゃんは縁の大きい伊達メガネ、そして白崎はフレームの大きいサングラスをしているおかげで正体こそバレてはいないようだが、それでも二人の放つ圧倒的とも言える美男美女オーラに周囲の注目は集まってしまっているのであった。
「――三枝さんね」
「あーすまんすまん、三枝さん?んー、やっぱりしっくりこないけど仕方ないかな」
「早く慣れて下さい」
ハンバーガーを受け取ったしーちゃんは、冷たく一言そう言って先に孝之達が待つ席へと向かって行ってしまった。
「――これは嫌われちゃってるなぁ。やっぱり前のはやりすぎちゃったかな。ごめんね一条くん」
「いや、まぁ。あの頃は俺も情けない所とかあったし」
「うん、まぁそこはそうだよね!僕が悪役になった甲斐があったってもんだよね!」
ハッハッハと笑う白崎。
全く、この空気の読めなさというか土足さというか何と言うか、そりゃYUIちゃんもあれだけ塩対応になるよなという感じだった。
「じゃ、俺も席行くから」
そこへ丁度注文していたハンバーガーを渡されたため、そんな白崎を置いて俺もさっさと席へ向かう事にしたのであった。
◇
テーブル席に、清水さんと孝之が並んで座り、その向かいにしーちゃんと俺が並んで座っていると、トレイを持ってやってきた白崎は迷わずに俺の隣にドカッと座ってきた。
そして席へ着くと、鬱陶しそうにかけていたサングラスを外す白崎。
「おい、サングラス外して平気なのか?」
「ん?まぁ大丈夫でしょ。だってご飯食べるときにサングラスなんて、普通しないでしょ?」
そう言って笑う白崎。
確かにそうかもしれないけど、そのサングラスはファッションとかそういう意味でしてるわけじゃないんだからと思っていると、案の定向かいの丁度白崎の顔がバッチリ見える席に座る女性が白崎の存在に気が付くと、驚いて飲んでいたドリンクを吹き出していた。
そして程なくして、店内にいる女子高生や女子大生達の注目が一気に俺達の席へと集まる。
それは勿論、こんな地方の町に突然人気若手俳優が現れたからに他ならない。
その様子を見ていると、このひたすら空気が読めない土足な男でも、表ではちゃんと有名人なんだという事を改めて実感するのであった。
「もうっ!目立っちゃってるじゃん!」
「ん?まぁもバレちゃったもんは仕方ないしさ、三枝さんも眼鏡外したら?食べにくくない?」
「――まぁ、それはそうだけど」
そう言って、確かに鬱陶しく感じていたのかしーちゃんは溜め息と共に眼鏡を外した。
結果、白崎だけではなく俺を挟んでしおりんまでいる事が判明したこのテーブルは、今度は店内にいる男子高校生や大学生達の視線を集めてしまったのであった。
結局、そんな自分達が超の付く程の有名人である事の自覚がイマイチ足りていないこの二人により、店内は一気にざわついてしまうのであった。
「まぁまぁ、人の噂も七十五日ってね!さ、食べようよ」
しかし、慣れているのか考えなしなのかそんな周りの様子を大して気にしない様子の白崎は、そう言って美味しそうにハンバーガーを頬張り出すのであった。
全く、ここまで白崎には振り回されっぱなしな気がするし、七十五日じゃ遅すぎるだろというツッコミをするのもしんどくなった俺達は、移動するわけにもいかないし仕方なく言われた通りハンバーガーを食べる事にした。
「で、今日は何でここへ来たんだ?」
ハンバーガーを食べながら、俺は白崎に話しかける。
仕事でたまたまと言っていたが、何か他の理由があるようにしか思えなかったからだ。
「え?本当に近くに来たからだけど?」
「嘘つけ、顔に書いてあるよ」
「――怖いなぁ一条くんは。まぁそうだね、理由は他にもあるよ」
そう言って白崎は、ドリンクを一口飲み込むとその理由とやらを話し出した。
「――今、YUIと喧嘩中なんだよ」
「え?」
「ちょっと前にね、どうやら怒らせちゃったみたいでね」
失敗したよと力なく笑う白崎。
それから事情を説明する白崎の話を要約すると、どうやら本人も意図しないところでYUIちゃんを怒らせてしまったようで現在困っている真っ最中なようだ。
まぁこの性格だから、どうせ何か地雷を踏んだんだろうという感じなのだが、力なく笑う白崎を見ているとどうやら本気で落ち込んでいるみたいだし、変に茶化す事は出来なかった。
「どうせ白崎くんが悪いんでしょ。YUIちゃん可哀そう」
しかし、しーちゃんだけはそう言って白崎の事を冷めた目で見ているのであった。
「ええ、冷たいなー三枝さん」
「知らないよ。私はYUIちゃんの味方だもん」
「まぁそう言わずにさ、ちょっとYUIに連絡取ってみて貰えないかなぁ?」
そう言って、お願いとしーちゃんに手を合わせる白崎。
成る程、要するに共通の知人であるしーちゃんにこうして縋ろうと思って今日ここへやってきたというわけだ。
「無理」
「そこを何とか!お願いします!」
「――もう、じゃあ連絡とってみるだけね」
深いため息をついたしーちゃんは、仕方なくYUIちゃんへLimeを送るため鞄からスマホを取り出す。
「なんか、色々とすげーな……」
「そうね……」
そして、そんな二人のやり取りを目の前で聞いていた孝之と清水さんはというと、有名人同士のやり取りのスケールにただ驚いていた。
確かに、ちょっと友達に連絡するねの相手があのDDGのYUIちゃんなのだから、俺からしても全く付いていけない話だった。
「あ、ちょうどYUIちゃんからLimeだ」
「え?YUIから?」
「うん、ちょっと話聞いてくれって。ごめん、わたしちょっと電話してくるね」
そう言ってしーちゃんは、伊達メガネを装着して店内から足早に出て行ってしまった。
そして、YUIちゃんと電話という言葉にやっぱり気が気でない様子の白崎。
こうして、ただ学校終わりにハンバーガーを食べて帰ろうとしただけの俺達は、何故か有名人同士の色恋沙汰?に巻き揉まれているのであった。
何かあった二人。
YUIちゃんは何を思う?
白崎編続きます!
 




