お岩さんの恋
「あ~、よく眠ったぁ~。」
お岩は目を覚ますと、当たりを見回しました。何やら騒々しく激しい物音がします。
突然鉄砲の玉がお岩の肩をすり抜け1人の男性に当たり、男性はうめき声と共にバッタリ倒れました。
「いくさ(戦)だ!
でも…どうして私は戦場になんかいるんだろう?
まずは逃げなくちゃ…。火縄銃に当たったら大変だ。」
お岩が永い眠りから目覚めた場所は、熱帯植物が生い茂っている南の島でした。
そして、時は…
お岩の生きていた時代より遥かに後の
《第二次世界大戦》の真っ直中でした。
お岩は林の方に逃げて行きました。途中で何かにつまずいたので振り返ると、そこには1人の若者が横たわっていました。
「うう~っ、く…苦しい。」
若者は大怪我をしていました。苦しそうに顔を歪め、荒い息づかいで意識も朦朧としているようでした。
何て素敵な殿方かしら。
お岩はその若者に恋をしてしまったようです。
美しい顔立ちをした若者が苦しみに耐えている姿をみて、お岩はどうして良いのかわからず、彼の手を握りしめました。
「神様お願いします。この人を助けて下さい。私はどうなったって構いません。
この人の命を救えるのなら、私の命を捧げます。」
お岩は一生懸命祈りました。
「う…ん。」
若者は生死をさ迷う意識の中で、薄目を開けました。
「あっ、気がついた? お願い…私の為に生きて欲しいの。」
「き…きみ…は?」
「私はお岩です。」
「お岩…さん? 僕の名前は…武だ。
だけど、女性の…あなたが…何故ここに…?」
「それは私にも…気づいたらここにいたの。」
「こんな…戦地で、君のような…優しい女性に出会えるとは…思わなかった。
でも、僕は…もう…駄目だ。もうすぐ…死ぬ。こ…今度生まれ変わったら、君の…ような…す…素敵な女性と…出会いたいな。
そ…その時は、僕とけ…結婚してくれる?」
「もちろん、その時は喜んであなたと夫婦になるわ。」
お岩がそう言うと、安心したように武と名のる若者は息を引き取りました。
お岩は死んだ武の胸の上で泣き崩れました。
すると、武の体から魂が抜けていくのが見えました。
そしてその魂がお岩の前に来ると、一瞬ギクリとして後ずさりしました。それから気を取り直したように言いました。
「一緒にあの世に行こう。」
「それは無理よ。あなたの事は好きだけど、あなたはもう死んでしまっているんですもの。」
お岩は悲しげに言いました。
「そうだね。それじゃ、先に行って待ってるから…。」
そう言うと、武は天国へと旅立って行きました。
「ごめんなさい、武さん。あなたの事がどんなに好きでも、生きている私はあなたについていくことは出来ないのよ。
でも、もし私が死んだらあなたのお嫁さんになってあげるわ。」
お岩は呟きました。その後とても眠くなり、深い眠りに落ちていきました。