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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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ロードマスター

 薄暗い階段を降りていく二人。

 意外と長い階段の造りは今回の様に脱獄者がいることを想定しているのだろうか。

 挟み撃ちにされたら厳しい状況の為、シェイナは急いで階段を降りつつも、後ろを常に警戒している。


 石畳でできた階段を降りていくが、次第に空気が重くなっていくのを感じた。

 地下牢ともなれば危険な人物ほど、より強固な場所に閉じ込めておくのが鉄則だ。


 壁面の松明の灯りをもとに降りていくと、先には向こうの部屋の明かりが階段の終わりを示す様に照らしていた。

 二人は恐る恐る中に入ると先程までと違い、壁にはいくつもの松明があり部屋一面がはっきりと見える。


 割と大きい部屋には剣や盾、拷問に使うのかロープ跡や血の痕跡が残っている椅子などが物騒に置いてある。

 ――が一番気になるのはその奥にある扉ごありその前には腕を組んで寝ている甲冑姿の兵士がいた。


「先手必勝⋯⋯だよね?」


 シェイナはボソっと呟いた。

 器用にもいびきをかいて立ち寝をしている。これは絶好のチャンスと思い、シェイナとネクロは顔を合わせ静かに頷いた。


 二人は同時に気を溜めた。シェイナは青白く、ネクロは黒炎の様な気を。

 

「「はっ!!」」


 二つの気が交差し、速度と威力を増し甲冑の兵士へと放たれる。

 しかし次の瞬間――


「!?」


 ひゅっとシェイナの横を衝撃が走り、頬から血が流れる。

 そのことに気づく前に衝撃波は後方の壁に衝突した。相当頑丈な壁なのか壊れることはなく、立て掛けてある剣や盾が多少揺れるくらいの振動――


「えっと⋯⋯今どうなったの?」


 目の前の男は組んだ腕を解き、ふわぁと腕を回しながら怠そうにしている。


「あのさぁ、寝てる所を襲うってヤバくないっすか? 小さな侵入者さん達よ。仮にも王国の兵士っすよ!」


「あ⋯⋯」


 今更ながらシェイナは気づいた。カイトが攫われ、助けに行くことで此方側が正義だと思っていた。

 しかし、向こうからすればただの脱獄者であり反逆罪や賞金首になるのではないかと心配になった。


「まあしょうがないっすよね! 戦争って違いの正義がぶつかるんですから。事情がおありなんでしょう」


「そうなの⋯⋯あの、ここに私たちと武闘会に出ていた三つ編みの女の子とか見てない?」


「あー⋯⋯そういやこの先にいるっすね!」


 金属の兜をぽりぽりと掻くような仕草で受け答えする。

 全て顔を覆っている兜から調子の良い声は聞こえるが、どんな顔をしているのか把握できない。


 そのアンバランスさがやけに不気味にも感じる。


「良かった! じゃあここを通して――」


「だめっす!! そもそも人の寝ている所を攻撃しといてなんすかそれ」


 シェイナが都合よくヒカリ達のもとに行けると踏んだが、兜を被っていてもよく通る声でその願いは遮られた。


「うっ⋯⋯」


「うるさいなぁ。さっさとどいてよ」


 怯むシェイナとは対照的にネクロは強気だった。

 確かに今のネクロは相当に強い。その自信も頷ける実力を見せられたばかりだったということもあるが⋯⋯


「じゃあ話は早いっすね! 何故僕がここを任されているのか分からせてあげるっす。王国の専属六兵団の一人、ジェイル様が相手っす」

 

「ねえちゃんはそこで休んでて。さっきの攻撃を瞬時に弾くところをみるとかなり強いよ」


 ネクロは腰に携えていたククリ刀を出し警戒する。

 本気でなかったとはいえ、二人の衝撃波を寝ながら弾き返した。地下牢も下の階層に行くほど重罪の囚人が多いことから上の兵士達とは格が違うのは明白である。


「さて、こんな所にいたら暇に殺されるっすよ。楽しませてくれっすよ」


 兵士には珍しく剣も、盾も持っていない。重そうな鎧を全身に纏い、武道家のように身体を斜に構えた。

 違和感を覚える暇もなくジェイルは目の前から姿を消し、一瞬で距離を詰める。


 小さいネクロより更に低い姿勢で懐に潜り込み、右拳を振り上げたアッパーカットをククリ刀で受け止める。


 金属の鎧と刀が擦れ合い火花が散り、その威力に地面から浮き上がった隙を見逃さず、後ろ回し蹴りを腹部へと叩き込みネクロは壁に叩きつけられた。


「いてて⋯⋯おじさんもしかして武道家の上級職?」


 ジェイルは明らかに重装備の見た目であり、それとは裏腹に軽快な動きをしている。


「いやいや、顔も見えないのにおじさんとは失礼っすね! それに武道家なんてとっくに終えて今はロードマスターっていうカッコイイ職業っすよ」


「ロードマスター!? この短期間に貴重な職業にばかり⋯⋯」


 エリーナの職業グランドマスターは世界でもごく僅かな才能のある者にしかなることができない。

 その理由としては、戦士や、武道家、魔導士などなど多くの技を習得しているのだが、そもそも武術系が得意な人は魔術系が苦手でその逆も然りである。


 一方ロードマスターは武術系の基本職と上級職を各々三つマスターすればなることができるので、血の滲むような努力さえ惜しまなければ可能な域だ。

 

 しかし、まず基本職を極めた後、その人物が得意とするエレメンタルがついた職業が上級職となる。

 一つの基本職を極める前に人生を終える者もいることから如何にエリーナ達グランドマスターが規格外か分かる。


「僕が目指すのはグランドマスター! 悪いけど容赦はしないっすよ」


「お師匠様みたいに⋯⋯ね。おじさんには無理かなぁ。強さが全然違うもん」


「お師匠様!? グ、グランドマスターの弟子っすか!? 名前は! 誰の弟子なんすか」


 兜で顔は隠せても動揺は全く隠しきれていないジェイルである。

 グランドマスターに憧れているが、実際にその伝説の人物達を見たことがなかった。まさにお伽話の話ぐらいに思っていた。


 そのグランドマスターの弟子となれば期待せずにはいられない。ジェイルは任務を忘れつい夢中になった。


「お師匠様の名前はエリーナだよ。僕はグランドマスターのことは良く知らないけどそんなに驚くことなんだね」


「⋯⋯犯罪者の言うこと間に受けた僕が馬鹿だったっす。お前たちここで死ぬっす。嘘つきは嫌いっす」


「どこが嘘なんだよ! お師匠様の強さは本物だ! お前なんか瞬殺だぞ」


 まるで親を馬鹿にされたかの様な反応でジェイルを睨みつける。

 先程の熱量が無駄だったと言わんばかりに気を落とした甲冑の男は大きいため息をついた。


「だってエリーナなんてグランドマスター聞いたことないし。文献にも存在しない。偉大なグランドマスターを名乗るなど言語道断っす」


「いや、エリーナさんの規格外の強さは間違いないと思うよ」


 実際に修行を受けたシェイナもそこに嘘はないと思っている。でなければあの強さは納得がいかない。


「もういいっす! とにかく興醒めっす。お前たちを倒してこの先の牢にぶち込んでやるっす」


「こっちだって、おじさんのことなんて知らないよ。とっとと倒してその先に行かせてもらうね」


 そして今ロードマスターとダークシーフ&武道家の勝負が行われる。

 

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