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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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幻想英雄

 その場にいる全員の時が止まった。シェイナの胸当てを黒いオーラが貫いている。

 

「かはっ⋯⋯」


 シェイナは吐血し、意識を失った――


「シェイナちゃん! どうしてこんなことに⋯⋯どうしてなの!?」


 ヒカリはシェイナの元へと駆け寄り、ヒーリングをかける。

 脈はあり一安心した。

 しかし意識は戻らず、虚しくも淡い光に包まれている姿――あまりにも凄惨な状況である。

 カイトは何処かに消え、ネクロも意識を失いシェイナまでもが倒れている。


「⋯⋯鬱陶しい⋯⋯次は全員、、」


 シェイナには見向きもせずクライヴは剣を再び構えた。

 しかしクライヴは力を使い果たしたのか、黒いオーラも消え息が上がっている。

 いつものクールな顔ではなく、髪は乱れ、冷や汗が地面に垂れる。


「すまない。私も動けていれば⋯⋯」


 ヒカリとの戦いで力を使い切ってしまったコーネルは己の無力さを恥じた。

 恐らくこれはクライヴの計算だ。理由は明らかではないが、カイトが目的なのであればなるべく厄介者は減らした方が良い。


 決勝トーナメントの表も恐らく仕込まれている。ブラッドという仮面の男の対戦相手、グリムという者もいつの間にか武闘会から姿を消していた。


「コーネルさんのせいじゃないです。クライヴはもっと優しくて⋯⋯みんなを守って⋯⋯」


「その期待が重いんだ! 幻想英雄なんだよ」


 クライヴの目は希望を失っていた。どこか虚の様であり、瞳は薄暗い『闇』に覆われている。

 

「ほんとにくだらねーです。お前の勝手な感情に巻き込むなって感じです! ワタシの歌で昇天して、今までの人に地獄で詫び続けろです」 


 ユイはマイクを再びマイクを手にした。


「待って! ほんとうのクライヴは違うの。今はきっと辛いことがあって、こうなってしまっいるだけ⋯⋯」


「そんな甘いこと言ってたら世界を救えねーです。目の前の現実を見てみろです。今ここで倒さなければ被害が大きくなるだけです!」


 弱っているクライヴを倒すため、歌うことをやめようとしないユイを必死でヒカリが止めている。

 シェイナにヒーリングをかけ続けている為、言葉でしか制止することはできないが、初対面のヒカリに説得力もあるはずもなくBGMが流れ出す。


「⋯⋯⋯⋯今だ、やれ」


 クライヴが呟くが二人の耳には届いていない。その合図と同時に観客席にいた大勢の人たちが舞台に乗り込んできた。

 観客の様子もずっとおかしかった。人が殺し合う現場に居合わせれば、通常怖くて逃げ出す筈である。


 わあぁぁと歓声をあげ、全員がヒカリ達を取り囲む。多勢に無勢ではあるが、観客全員が戦闘力が高いわけではない。

 寧ろほとんどの人がステータスを表示もされない様な人である。


「ヒカリさん。戦ってはダメです。きっとこの人たち操られています⋯⋯」


「でも、どうしよう。カイトも捕まっちゃったし」


「大丈夫です。殺すなら幾らでも機会はあったはず。ここは奴らに従い、なんとか抜け出すきっかけを伺いましょう」


 コーネルは冷静に状況を見ていた。仮に観客達を倒しても、恐らく王国の兵士たちも操られているはず。


 状況は劣勢――


 今は相手の出方を伺うしかないと考え、アージェルイス王国の現状を知ることが優先だと結論付けた。


 観客達はコーネル、ヒカリ、シェイナ、ユイ、ネクロを押さえつけ身動きができない様に縛り上げた。


「そいつらを地下牢に幽閉しろ! もう後は用済みだ。二度と会うこともないだろう」


 観客達に指示を出すと、クライヴは眩い光を放ちその場から消えた。

 手足を縛られ、呪文を唱えられない様猿轡をされたまま全員が地下牢へと入れられた。



――――――――


 





 地下牢に行くと次に手錠の様なものを腕につけられた。どうやら呪文やスキルなどを発動できなくする特殊な加工がされている。


 地下牢は生臭い臭いが充満していた。かつて王国で悪さをした様な人が捉えられている。

 5人はさらにその下の階層の特別頑丈な牢に入れられていた。


「おー。新入りか。可愛い姉ちゃんがいっぱいいるぜ」


「楽しいことしようぜ、なぁ!?」


 外の世界に飢えた囚人達の歓迎を受けながら牢へと収容される。こいつ達が悪臭の原因なのは間違いない。

 さらにその奥には階段があり、壁にかけてある松明がぼんやりと灯っている。

 

 下の階層はより薄暗く、寒気がする場所であった。とても不気味で気が狂いそうな場所――



 

「さぁ、入れ! 気を失っている奴はこちらで預かる。お前たち三人はここで死ぬまで入っていろ」


 荒々しく蹴飛ばされて牢に入れられた。ギィィという音と共に鉄格子が閉じられた。

 女性二人とイケメン一人というなんとも羨ましい状態での囚人生活である。


「さて、これからどうしましょうか」


「シェイナちゃん⋯⋯大丈夫かしら」


「こんな時に人の心配してる場合じゃねーです。完全に詰んでる状況なんじゃねーですか?」


 ユイの言う通り手詰まりの状況は否めない。スキルは封じられ、武器も取り上げられている。

 

 そんな時暗くてあまり良く見えないが鉄格子の向かい、そこには廊下を挟んでもう一つの牢からか細い声が聞こえた。


「お⋯⋯おお、誰か来たのか。こんな何もない所に⋯⋯。老ぼれの話し相手にはなって⋯⋯くれぬか」


 三人は声の方へと近づき、先程来る時には意識していなかったが薄暗さに目が慣れてきて、松明の明かりがその声の主をぼんやり照らしていた。


「あなたは、いえ、あなた様は!?」


 そこには痩せ細り、余りにも変わり映えしたアージェルイス国王が座り込んでいた。

 


 

 


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