ヒカリと光
村に向かうまでに何匹かのスライムや亜人のゴブリンを倒してきた。結界のおかげでそこまで魔物は強くない。カイトの短剣で撫で斬りすればほとんど一撃で倒せるほどの強さである。
「さすがカイトね! もう敵が出てきても大丈夫ね」
ヒカリはそう言って大きな三つ編みを揺らしながらも、えへんという格好で自慢げである。
「結界で今のところ弱い敵しか出てこないからなんとかなってるけど、強い敵が出てきたら戦えるか不安だなぁ⋯⋯」
「きっと記憶が戻ったら戦い方も思いだすよ! 少なくともこの世界で生き残ってこれたんだから」
「そうだね⋯⋯記憶がないって不思議な感じだよ。でもとりあえず不安でも前に進むしかないし、ヒカリが一緒なら安心だよ」
「えへへ。カイトは優しいね! 早く記憶が戻るように私も頑張る」
「ありがとう。今は少しでも強くならなきゃ」
「そういえばカイトのレベルはいくつなの? 記憶は無くなっていてもレベルはそのままかもしれないよ」
少なくともスライムやゴブリン相手に苦戦はしていないものの、自分のレベルは知っている。出会いと別れの丘で確認したときはレベルは1だった。なのでこの戦闘でちょっと上がっていればと期待した。
「じゃあちょっとみてみる⋯⋯」
とカイトがコマンドを開こうとした時に
「えっと、あの⋯⋯ごめんね? でも私もいるから大丈夫」
ヒカリがバツの悪そうな感じで吃っていると思ったら急に小さな手をぐっと握って、えへへと作った様な笑顔になる。
「実は今レベル見ちゃった」
ヒカリからてへぺろと言わんばかりの可愛らしいウインクが飛び出した
「えぇぇ!? レベルって他の人にも見れるの? じゃあ特技とか属性とかなんとかいろいろな⋯⋯えぇ!?」
カイトは一人で焦っていた。カイトの職業はダークダガー。恐らく闇属性でありクライヴとは正反対。闇属性が受け入れられるかも分からないし、ヒカリがそれを知ったら、どう思うだろうとあたふたしている。
「あ、でも見れるのはレベルだけだよ」
「え? あ、そーなんだ。そりゃそうだよねぇ。あはは⋯⋯」
と何がそりゃそうなのかとごまかすのが下手なのか、正直ものなのか分からないが、カイトは一先ず安心した。カイトは自分が小心者だということがこの数時間で良く分かった。
「じゃあ僕もヒカリのレベルを見れるの?」
「うん! 見れるよ! 私の目をじーっと見つめてみて」
「うん⋯⋯!分かったよ」
カイトはヒカリの目をじーっと見つめた。そのまま吸い込まれてしまいそうな青い瞳に見惚れてしまい、カイトは我にかえると顔を赤くし、目を逸らしてしまった。
「あはは。カイトって素直なんだね! 私はカイトのこと見つめなくてもレベル見れたじゃない」
そう言われると確かにそうだと思い、信じてヒカリを見つめてしまったことが、凄く恥ずかしくなってきた。
「からかわないでよ⋯⋯」
「レベルはね、相手の目じゃなくても少し止まって眺めるだけで表示されるのよ」
「あ、ほんとだ! ヒカリのレベル12って出てる! まだ僕のレベルは1のままなのに⋯⋯」
「初めのうちはレベルが上がりやすいからもう少し魔物を倒したらあがるかもしれないよ? それにカイトには秘めたる力があってレベルがあがると凄い能力が手に入るかも⋯⋯なんちゃって」
どこまでも明るく純粋そうなヒカリは記憶のないカイトの不安を拭ってくれる。何故ここまで優しくしてくれるのだろうか。何故こんなに可愛いのだろうか。何故。何故⋯⋯
村につくまでの道中ヒカリからこの世界のことを聞いていた。
急に闇に覆われたことや、それまでは魔物も少なく平和な世界であったこと。魔法は戦う為ではなく人々の生活の為に使われていたこと。ヒカリとクライヴが幼馴染という話⋯⋯はあまり聞きたくなかった。
クライヴは元々貴族の出身なのかと思っていた。あのあからさまな態度はそうでなければ説明つかないと思っていたが、まさか村の出身とは⋯⋯
そうこうしているとヒカリの村についたらしい。
村というよりはこれから少しずつ繁栄されるであろう街並みであった。道もしっかりとレンガ調で整備され、道の傍にはランプや外灯が付いていた。建物は木造から石調のものまで様々。
どうやら光属性の強い国なので、闇の勢力に対抗できる力もあり、外交も上手くいっているらしい。
「ここが私が育ったマイトの村よ」
「凄く賑やかな村だね。とても明るいし」
「そうなの。この大陸は比較的どこの場所も発展しているの。光魔法のおかげよ」
何度もヒカリの口から属性の話が出てくる。しかも光属性の話が多い。カイトは恐れてはいたが、聞くタイミングを逃すまいと小心者を今だけは捨てて尋ねてみた。
「ちなみに属性って全部でどのくらいあるの?」
如何にもな質問だ。光属性があり潤っているのなら他の属性もいるだろうと考える方が普通だ。それが真反対属性の『闇』属性であろうと⋯⋯
「うーん⋯⋯話すとちょこっと長くなるから宿屋に行ってからにしましょう」
カイトの必死の決意も虚しくモヤモヤしたままの気持ちで宿屋まで向かうことになった。
「ここが私を引き取ってくれたおばあちゃんがいる宿屋よ」
ヒカリが案内してくれたのはお世辞にも豪華とは言えないが、普通の木造の宿屋だった。この村で頼りにされているであろうことは隅々まで手が行き届いていることはキレイなロビーを見れば誰にでも想像がつく。
「おばあちゃんただいま!」
ヒカリが元気よく話しかけるとカウンターには白髪の優しそうな感じのおばあちゃんがいた。
「おかえり。おや? そちらの方は?」
「この人はカイト。出会いと別れの丘で出会ったのよ」
「こんにちは。カイトと申します」
「おやおや、とても優しそうな男の人じゃの」
「うん。でもカイトは今記憶を無くしていて凄く大変なの。だから今日はここで休ませてあげようと思って」
「そうかい⋯⋯それだったらゆっくり休んでおいき」
「あ、ありがとうございます」
ヒカリは良かったとホッとした表情をするとカイトの方を向いて
「今日は疲れたでしょ? ゆっくり休んでお話しは明日にする?」
今のカイトはモヤモヤした気持ちを早く解消させたかった。属性について知れば、少しでも自分のことが分かるかもしれない。
「ううん。僕は大丈夫! ヒカリが良ければこの世界のこともっと詳しく聞きたい! 少しでも早く記憶を取り戻したいんだ!」
「私は大丈夫よ! じゃあ食事をしながら一緒にお話ししましょう」
宿屋のレストランでヒカリと向かい合いながら食事をとる。まるでデートのようでカイトは村とは思えないような豪華な食事が出てくるも、うわの空であった。
帰り道は戦闘で精一杯だったが、改めてヒカリを前にするとあまりの可愛らしさに緊張してしまうほどだった。
「あ、あの、それで⋯⋯色々聞きたいんだけど」
「うん。どこまで話したっけ? えーっと⋯⋯」
「属性! 他の属性のことが聞きたいんだ」
緊張とモヤモヤが弾けてつい身体が前に乗り出してしまった。
ヒカリと顔の距離が息のかかるところまで近づいていた。
「きゃっ⋯⋯もう落ち着いて。焦る気持ちも分かるから」
「あ、ごめん⋯⋯」
カイトは落ち着いてまた椅子に座るとヒカリは何事もなかったように話し始めた
「それでね。この世界には大きく分けて4つの属性があるの。それぞれ大陸ごとに得意な属性に別れているのよ」
ヒカリはそう言って各属性の大陸と属性のことを話してくれた。概要としては大きく分けて
・アージェルイス王国・・・光属性
・ディバイド王国・・・・・火属性
・アークディノ王国・・・・水属性
・グラウディ王国・・・・・木属性
の4つらしい。
「他にも大陸はいくつかあるけど、今の4つの王国は特に強い属性をもっているの。グラウディ王国はこの『闇』のせいで勢力が落ちているという噂があるわ」
「ちなみに属性はそれだけ?」
「そういえば最近『闇』を慕う信者が出始めて光属性に対抗する力を研究している国があるみたい⋯⋯」
「いったいなんのために!?」
「確かにこの世界バダイモーゼは平和だったけど、各国の戦争は起きていたの。限りある資源や優秀な人材を引き抜いて力を持つためと言われているわ」
カイトは益々自分が闇属性かもしれないという事が話せなくなった。一体自分が何者なのか、ヒカリに知られたら嫌われてしまうのではないかという小心者のカイトはより深いモヤモヤを抱えたまま旅に出ることになった。




