再会
少年たちは無表情のままで、殺意などなく無機質に刃を出す。殺戮マシーンたる所以だろうか。
そして刹那の瞬間――――
生暖かい鉄の匂いが部屋に充満し、緑色の液体と混ざり吐き気を催すほど酷いものになる。
――――――
ブシューと激しい噴出音とともに、目の前が真っ赤に染まる。
カイトは戦慄した。――否、死を覚悟していたが生きていることによる混乱、目まぐるしく変わりゆく目の前の現実と思考の剥離が恐怖として変換されていた。
――目の前の少年たちは互いに首を切り落とし、赤黒い血を撒き散らしながら次々と倒れていく。
「うっ⋯⋯」
目の前の惨状に胃からこみ上げてくるものに耐えきれず緑色の胃液を吐き出した。培養液に浸かっていたからか、そんなことはどうでも良くなるほど嗚咽は止まらなかった。
カイトは返り血を浴び、呆然とした。また意識を失いそうになるが、ここで意識を失ってはまずいと本能的に察知し何とか意識を保つ。
「一体なんなんだ⋯⋯。とりあえずここから逃げなきゃ⋯⋯」
よろよろと立ち上がり、少年たちの首無し死体を踏まないようおぼつかない足取りで歩き出す。
もはやBGMの様に感じているエマージェンシーコールは逆に安心感をもたらしていた。
無音でそのまま進む方が途中で心が壊れてしまうかもしれない。非現実感が増して都合が良い。
どこに向かえば良いのか分からないまま、広い空洞を歩いていく。とにかく少しでもあの気持ち悪い場所から離れたかった。
今まで仲間たちに支えられてきた。理不尽なことも、ヒカリやシェイナと共に歩んできたから耐えられた。記憶を失っても歩き続けられた。
始めて支えがなくなり、孤独感に襲われた。自分が必要とされる存在がどれだけありがたいことなのか噛み締めている。
ぐっと拳を握り込み気合を入れたいところだがそれも叶わない。
「なんで⋯⋯なんでこんなことに⋯⋯一体僕は、、お前は誰なんだぁ」
絞り出す様に発した声は掠れていて、己への不信感が溢れ出す。今まで我慢していたが、あまりに理不尽な出来事に、視界が涙で霞んでいる。
カイトは涙が溢れないよう目を擦りぐっと前を向いた。
「こんなところで泣いてる場合じゃない⋯⋯。僕がみんなを守るんだ⋯⋯」
再び闇雲に歩き出した。すると空洞には似つかない、大理石の様なもので規則正しく作られていた階段を発見した。
恐る恐る近づき、上の階層が見えるか覗き込んでみるがだいぶ深い場所にあるのか階段の上の方は暗くて見えない。
ここだけしか出入口が無いとすればかなり厳しい現状になる。敵が上からやってきたらひとたまりもない。階段の先が安全な保証はどこにもなく、寧ろ危険だと思っていた方がいいだろう。
(このまま行って大丈夫だろうか⋯⋯、かといって他の場所を探すのも難しい)
しばらく悩んでいたが、カイトはとりあえず先に進むことにした。こういう時に回復魔法やアイテムがあると便利なのだが、常備品はヒカリに任せていた。
アイテム無し、瀕死、初見。初めてのソロダンジョンデビューは高難易度すぎる条件だ。
ここにきてカイトは思いだしたことがある。それが気配を消すスキルである。
戦闘中でしか使ったことのないスキルだったが、本来こういった状況の時に使うべきスキルなのだ。
とはいえ一方通行の階段であれば見つかる可能性も高い。某透明マントの様な完全に姿を消せるわけではないので、敵も違和感は感じる。石ころの様な存在感に近いものだろう。
(とにかく少しでも見つかるリスクを減らそう⋯⋯)
カイトは極力足音をたてない様に、一段一段ゆっくりと階段を上っていく。
それにしてもあれだけ派手に暴れ、エマージェンシーコールが鳴っていたのに誰も来ないのはおかしい。
通常であれば見張りがいるのではないか、気を失ってからどれだけの時間が経ったか分からないが、道化の仮面男もいたはず⋯⋯
少し冷静さを取り戻したカイトは遅くも違和感を感じた。本当に出入り口が一つだとしたら待ち伏せされて蜂の巣にされてもおかしくはない。
ただあの少年たちの意味が全く分からない。殺戮マシーンとは言っていたが、各々が殺し合い自滅してしまった。
会話をしていた一人が監視役にしても、会話もたどたどしく戦闘能力も未知数。だとすると少年が言っていた仮面の人たちというのが見回り役として何人もいるのだろう。
地頭が良ければ色んな事へと結びつき、閃きそうなものだが相変わらずあまり良くないらしい。
記憶が戻ったなら愚痴の一つでも溢してやろうと思いながら、先の見えない階段を上っていくとやっと一番上にたどり着いた。
運良く敵との遭遇はなく、小さな踊り場があり目の前には赤錆の混じった大きな鉄製の扉があった。
「この先はどうなっているんだろう⋯⋯」
観音開きになっているドアの片側に聞き耳を立ててみるが、向こう側から特に音は聞こえてこない。ここまでくると警告音も消えていたため、欠陥構造なのではないかと思ってしまう。
ゆっくりと扉を開けた。鉄の擦れる音と共にカイトの心臓も擦られているようだった。
すると向こうの明かりが少しずつカイトを照らす。
(なんだ⋯⋯これ⋯⋯)
中を覗き込むように見てみると、下の階層とは違い綺麗な石造によってフロアが作られており強化ガラスでできた大量のカプセルが規則正しく並べられていた。
そのカプセルには先程目の前で自害した少年が目を瞑り、入っている。
「うっ⋯⋯⋯⋯」
治ったはずの嗚咽が再びカイトを襲った。先程の血生臭いな状況が脳裏に焼き付いてしまっている。
しかもその数は先程の倍ではきかない数である。フロアの奥までカプセルで埋まっており、その全てに少年が入っている。
研究室のイメージが近いだろうか。こぽこぽと音を立てている。
一番懸念していた仮面の人物がいないことが唯一の救いであった。
人の気配もなく、逆に不気味な気もするがカイトは吐き気を抑えつつフロアを進んでいった。
「あら、本当にこんな所にいたのね」
決して油断はしていなかったが、急に背後から声をかけられたことに驚き剣を構えた。




