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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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少年たちの嘆き

 声の先には見慣れた姿があった。童顔であり、中性的な印象を感じる少年。

 カイトは燃えさかる意識を探りながら、声を発する。息も熱く、声帯から音に変換しようとするも隙があれば焼け切られてしまいそうであった。


「ネ⋯⋯クロ⋯⋯!?」


 肩で息をしながら、詰まる様に声を出す。少年はキョトンとしたままカイトを見つめている。

 といっても今のカイトの姿は膨れ上がった筋肉でパワーはいいがスピードが殺されてしまうんだ。というありがたい助言がいただけそうな外観になっていた。


「ネクロってだれ? にいちゃんこんなところで何してるの?」


 首を傾げ、不思議そうに見つめている。しかし少年の声は意識の海に溺れているカイトには届かない。 

 獣の様な咆哮を上げ、力が解放されていく。黒い感情が溢れ出し体内の血が蒸発する。漆黒のオーラを纏い全てを破壊してしまいたい衝動と僅かに残った理性が闘争している。


「うがあぁぁぁあ!! あぁぁぁ!!」


 不本意に太く唸る腕で頭を抱え、耐えきれずに両手を広げ漆黒のオーラが散乱した。

 警報音が掻き消えたのと錯覚する様な風圧と威力は辺りを無差別に破壊する。

 

 特殊な強化ガラスでできた様なカプセルはビキビキと音を立てながらひびがはいる。

 そしてその威力に耐えきれず、緑色の培養液が不愉快な音と共に溢れた。一度割れてしまえば残りはなし崩しに割れていく。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」


 肩を上下に揺らし息を切らす。一度に大量のオーラを放っているのは同時に自分の命を削ることにも直結してくる。

 MPは限界値を超え、今の状態でいるだけでもオーラは次々と溢れ出ていた。エリーナとの修行でMPを限界まで使い、限界を超えた修行を行ってきたが意識がある状態では自ずと防衛本能が働き完全に空にすることなどできない。

 

 しかし、今はオーラや魔力の源となるMPが枯渇している。そんな中消費が続くとリミッターが外れてHPが削られていく。

 自分がやられそうになった時に自爆する種類の魔物が存在するが、HPを瞬間的な力に変えて周りを巻き添えにするのだ。


「が⋯⋯、あ、あぁ⋯⋯」


「なるほど。にいちゃんも僕たちと同じさつりくましーんってやつなんだね」


 少年は顔色一つ変えず淡々と話した。


「僕たちはそうやって言われていたよ。緑色の液に入っていて毎日一人だけなら外に出てもいいんだよ」


 今はそんなことに気を回す余裕がない。カイトはその場で両手をつき項垂れた。先程まで波打っていた筋肉は徐々に落ち着き、よだれを垂らしながらはぁはぁと荒い息を必死で整える。

 

「あ⋯⋯、ご、ごめんよ、でもどうしてこんなところにネクロが⋯⋯」


 力を使い果たし、興奮状態が解けてきたせいか今度は身体にその反動がきてあちこちが軋む様に痛い。

 かろうじて言葉を発することができるようになったので少年に話しかける。両手は緑色の培養液がまとわり付いてなんとも気持ち悪い。


「んー⋯⋯僕はネクロって名前なの?」


 再び少年は聞いたことの無い呼び名に首を傾げた。


「ネクロじゃ、、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯ないのか」


 霞んでいた視点が徐々に見え始め、再び少年の姿を見てみると確かにネクロそっくりの少年だが『両腕』が存在していた。

 話によるとモルテプローヴァの山で死闘にやり片腕を無くしたらしい。意識を失っていたことで多くの人に迷惑をかけたことを今更ながら後悔した。


 思えば記憶を失う旅を始めてから散々だった。早々に気を失ったと思えば可愛らしい女の子たちに助けられ、お伽話の王子様としては最低中の最低だ。

 地獄の修行によって強くなったかと思えば、またみんなを守ることができず気を失い飛ばされる始末。

 

 再び自信を無くしてしまいそうだが、今は落ち込んでいる暇はない。見知らぬ地から見知らぬ地に飛ばされ、仲間もいない。

 目の前のネクロ似の少年には期待できないだろう。しかし、少しでも戻る手がかりを探さなければならない。

 疲労感からによるものなのか、焦りも出始め早い鼓動と息苦しさが増している。


 少年から何か有益な情報を聞き出せないかと考えている最中、ピチャピチャと複数の足音がカイトの方へと向かってくる。

 エマージェンシーの警告音がより危険さと恐怖感を増長させてくれる。


「あ⋯⋯」


 乾いた声が出た。


 それは視界から得られる情報により脳が考えることを辞めた諦めに近い。

 それほどまでに今の状況は言葉にならなかった。


 複数の足音はカイトの周りを取り囲む様にしてピタリと止まった。

 そこには童顔の少年が数十人といて、みんなネクロとそっくりな顔をしていた。


 先程の少年と違い、複数の少年たちは言葉を発さない。それは自分の意思の問題なのか、何か力が働いているのか検討もつかない。


「にいちゃんはさつりくましーん? 僕たちと一緒?」

 

 最初の少年は初見で抱いていたた疑問をぶつける。


「僕は⋯⋯違う。殺戮マシーンなんかじゃない」


「じゃあなんで僕たちと同じところに入っていたの? いつも見に来る人たちにそう呼ばれてたよ」


「いつも見に来る人って⋯⋯誰なんだ?」


「仮面の人たち。僕たちが完成したらこの世界の全てを壊しちゃうんだって」

 

 少年の顔をして恐ろしいことを言っている。この子たちを使って世界征服を考えているのか。

 でも破壊して一体どうするつもりなのか。その思惑は見えてこない。


「そんなことはさせない! 一体誰がそんなひどいことを⋯⋯」


「じゃあにいちゃんは僕たちの敵なの?」


 カイトはしまったと顔をしかめた。馬鹿正直な点は良いところでもあり、悪いところでもあるが、このネクロそっくりの少年が仮に強さも似ていたら、MPとHPを激しく消耗してしまったカイトに勝機はない。


「ち、違う。敵じゃないよ。それについさっきまで君たちにそっくりの少年と一緒にいたんだ」


「⋯⋯⋯⋯」


 目の前の少年は沈黙した――

 これは賭けだった。ネクロに似た少年とはいえそれをこの子達が知っているとは思えないが、今は敵対しないため不器用な青年の必死な考えだ。


 少年の腕からシャキッと音をたてて、剣が出てくる。生えたとも言うべきか――腕からサメの背鰭の様に刃が出現した。

 周りを囲んでいる少年たちも次々に音を立てて剣をだす。


「⋯⋯そっか。じゃあやっぱり敵なんだね」


 ――カイトは賭けに失敗した

 

 


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