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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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聖騎士様の影

 何故そこまで憎しみを抱くのか、その理解をしようとすると脳が激しく拒絶する。それは本能なのか奥底の深層心理がそうさせるのかは分からない。

 何も分からない世界で命を救ってくれた恩人でもあり、その甘い美声を聞かされると恋敵とでもいうわけではないが嫉妬の様な黒い感情が不思議と芽生えてくる。


「クライヴ!?」


「一体これはどういうことなの⋯⋯」


 クライヴは無言のままゆっくりと舞台へと歩いてくる。騎士の鎧の可動域が擦れ、ガシャガシャと歩いてくる姿にはその場にいる誰もが振り向く存在感を放っていた。


「おめでとう! まさかあの臆病者が短期間でここまで強くなるとは思わなかったよ」


「これはどういうことだ? いい加減説明してくれ」


 カイトは現状を理解できない事態とクライヴのどこか余裕のある姿に苛立ちを隠せない。それすらも掌で転がされているような気がして千思万考する。


「どうもこうもないさ。当初の予定通り。弱い者は『闇』に立ち向かったところで犬死にするだけさ。ならばここで死ぬことと何か変わりがあるのかい?」


「クライヴ⋯⋯! 貴方はそんな人じゃない」


「これが、冷徹騎士と呼ばれる所以というわけだ。悪いけど噂通りのようだね」


 動揺を隠せないヒカリとは対称的にシェイナはクライヴを睨みつけ、今まで聞いていた評価が正しかったことを確信した。

 

 シェイナは今ほどではないが、トレジャーハンターとして各地を巡っていた。シェイナはいつも一人で行動していた。その強さから街のギルドみたいなものに入っていたことももちろんある。

 レベルやステータス、特殊スキルを持ったものなら加入をすることができるが天真爛漫な性格に合わせ、特攻隊長には向いているのだ。


 しかし、ギルドパーティーを組む者には皆目標があった。

 誰よりも成果をあげ、国の聖騎士に任命されることだ。お国の為と命を張る者もいれば名声や富の為に動く者など理由は様々であったがシェイナには興味がなかった。

 せっかくのお宝を国に献上するなんて馬鹿らしいし、ましてや誰かに指図されることも好まない。ギルドではそういった利権を目指した派閥争いや足の引っ張り合いが横行していた。


 故にシェイナは自由に行動し、気が向くままに生きているのである。そして、ギルドで一緒に活動していた仲間は聖騎士として引き抜かれていくのだが、どうにもいい噂は聞かない。

 その後シェイナが仲間と会うこともないし、連絡も途絶え一体どこで何をしているかもわからない。もしかしたら『闇』の討伐隊に選ばれているのかもしれない。


 そんな中、クライヴが担当しているアージェルイス王国の城下町ではあらぬ噂が立っていた。


「ねぇ、クライヴ様ってみんなに優しい顔しているけど裏では他の騎士に酷い扱いをしてるって知ってる?」


「聞いたことあるわ。なんでも命からがら騎士隊を離脱して満身創痍で戻ってきた一人がクライヴめ⋯⋯とうなされた様にベッドに横たわりそのまま死んでしまったとか」


 街ではこの騎士が病院でクライヴを恨みながら息を引き取ったことや、騎士隊に志願して入ったものが一向に連絡が途絶えたことから「冷徹騎士のクライヴ」と二つ名がついた。


 ギルドではそういった噂が広まるのに時間はかからなかった。

 ギルドの人間がそんなことを聞いたくらいで震え上がる様な者などいるはずもなく、寧ろ自分の目で確かめるだのクライヴを倒して俺が目立つだの血の気が多かったからだ。

 

 もちろんシェイナの耳にも入り、もともと興味がなかったシェイナはギルドの扉を潜ることは二度となかった。


 そんな記憶を思い出しながら、シェイナは苦笑いしていた。


「なるほど、私が感じていた違和感はそういうことだったのですね」


「こんなに分かりやすくしてあげたのに、誰も気付かないとはやはりどいつも使えない」


 コーネルが口を開く。クライヴと系統は似ているがこちらの方が鼻につく感じはしない。自尊心の高さが目立つところは互いに似ているが⋯⋯

 クライヴは皮肉混じりのセリフでコーネルを挑発し、ふふっと笑いカイトの方を見る。


「まあいいだろう。もう時間もないし、そこの木偶の坊の正体も知れたしな」


「僕の⋯⋯正体!?」


「カイトのことが分かったの!? ねぇ教えてクライヴ!」


 ヒカリは珍しく声を荒げた。カイトのことをもっと知りたかった。正体とかそういうことを知りたい訳ではないと頭では理解している。

 少しずつ旅をしていてもっと知りたくなった。そして同時に怖くもあった。カイトのことを理解してしまったら二度と会えなくなってしまう⋯⋯そんな気がしていた。


「お話しはここまでだ! ブラッド!!」


「全くほんと人使いが粗いですなぁ。言われなくてもちゃぁんとやりますよ。というか、大会の司会もやらせつつ武闘会に出させるのは流石に酷ですぜ?」


 先程まで会場に響き渡っていた声が、カイトの後方から聞こえた。不快さはそのままに、声は一人の仮面の男から発された。

 

 全員が声の方に振り向くとその姿はなく、気がつくとカイトの首に死神の鎌のようなものを当てると、その場の全員が凍りついた。


「カイト!?」


「おっと、騒ぐなよ! もうさ、司会をやらせるわプレイヤーとして参加するわ会場の観客や参加者を催眠にかけ挙句の果てには『闇』の力まで使ってるんだよ? もう僕ちんMPすっからかん。でもこの坊やの首を刎ねる事くらいは朝メシ前さぁ」


「良く喋る死神だ⋯⋯」


 クライヴが呆れた素振りを見せる。状況的には最悪だ。カイトが人質となれば誰もその場を動けない。唯一そんな時に頼りになりそうなネクロは気を失っている。


「じゃあ僕は一足先に行ってるよ。後はヨロシクね――」


 仮面の男はマントを広げるとそこには小さな漆黒の闇が広がっていた。

 しばらくすると二人を闇が包み込み、みるみるうちに飲み込まれていく。


「「カイト!!」」


「僕は大丈夫だ! 必ず戻る!」


 カイトは心配するヒカリ達にそう告げると、闇の中へと消え、仮面の男もろとも消えてしまった。


「さぁ、木偶の坊のことなど忘れて一緒に導きの船に乗ろう」








△▽△▽△▽△▽


 意識が朦朧とし、ふわふわとした浮遊感があり、ゴポゴポと不気味な音が意識の扉を叩いてくる。


(こ⋯⋯ここは⋯⋯? 手足の自由も効かない⋯⋯)


 どうやら緑の液体の様なものに入れられているようだ。目を開けても不思議と痛くはない。辺りが薄暗く見えるのは液体のせいなのか、元々そういった場所なのかは判断しづらいがおそらく後者である。

 口元には生命維持装置に似たもので覆われており、うまく声を出すことができない。

 そもそも身体に力が入らず、満足に手足を動かすこともできない虚無感に襲われている。


「ふふ、お目覚めかい? やはり闇の移動術は慣れていないとダメだね」


 目の前には仮面の男なのか、不快な声でおそらく間違いはないと感じていた。

 何やら仮面の雰囲気が違うようだが、夢うつつな状態のせいで意識が定まらない。目も半分開けるのがやっとなくらいである。

 

(オーラを形成しようとしても、すぐに吸い取られてしまう⋯⋯。このままだとマズイ⋯⋯。そんな事よりみんなは無事なのか?)


「そんな顔をしないでおくれよ。僕だって仕事なんだからさぁ⋯⋯まったく、この僕をコキ使うなんていい度胸だよ」


 仮面の男は不満げに愚痴を溢し、カイトの入っている謎の装置に近づく。

 するとカイトの目に映ったのは道化の仮面だった。この場所の薄暗さが道化の不気味さに拍車をかけている。


「なるほどなるほど⋯⋯ダークナイトとはまた、貴重な職業だね! それに⋯⋯なるほど納得だ」


(!? しまった⋯⋯この状況じゃパラメーターを隠すことができない)


「だけど、この程度の力じゃ僕の相手にもならないじゃないか。全く何考えてるか理解できないよねぇ。ま、人のこと言えるタチじゃないけど」


 道化の仮面男はカイトのパラメーターを見ながら再びぶつぶつと独り言を言っている。

 


 コツ⋯⋯コツ⋯⋯



「!?」


 

 何者かの足跡が聞こえ、仮面の男は分かりやすく肩を跳ね上げるとカイトの前から離れ、その足跡の方へ一礼する。


 コツ⋯⋯コツ⋯⋯


 何者かがゆっくりとこちらへと近づいてくる。その威圧感はカイトが一度感じた事のある気配。この世の不安と絶望を放ちどこか悲しげなものであった。



 

 


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