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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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戦闘狂の戯言

「にいちゃん! 次は僕たちの番だね! この前手合わせした時は油断しちゃったけど今回はそうはいかないよ?』


 ネクロは少年らしい笑みを浮かべて構える。隻腕の少年はその不利とも思える状況に泣き言一つ言わず、寧ろ今の境遇を楽しんでいるのではないかと思える程活力が漲っていた。


「自信ないけど、とりあえず頑張るよ」


「まったく! 相変わらず頼りないなぁ⋯⋯」


「さあ! 次はネクロVSカイトだ! 張り切っていってみよう」


 カイトは短剣を構えた。その短いリーチながらも、ネクロとの距離をはかっている。

 一方ネクロはククリ刀のような特殊な形をした武器を器用にも片手でくるくると回している。ネクロの強さは未だ未知数である。モルテプローヴァの山で見たときには圧倒的な力の差があった。

 いくら修行して強くなったとはいえ、あのエリーナの元で付き添いながら戦ってきた実績もある。修行を終えたカイトと手合わせをした時でさえ、余力は十分に残っていたはず。


「いやぁ、にいちゃんとは何度目の手合わせかなぁ。すぐに強くなっちゃうなんて嫉妬しちゃうよ」


「僕はまだまだ弱いよ。強くならなきゃ誰も守れないんだ」


「にいちゃんには守るものがあってそれすらも羨ましいよ。僕には何も残らない。だからこそ戦って存在感を示している時が好きなんだ」


 ネクロは虚な表情で刀をくるくると回している。その姿には殺意も、生きる気力も感じられないような悲しさもあった。



「ッ――!」


 カイトの左頬から生暖かく、生臭い血がしたたる。ネクロが動いた形跡はなかった。


「にいちゃんは優しすぎるよ。戦いは始まってるんだ。そんなだから誰も守れないんだ」


 ぎりっと歯を食い縛る。何も言い返せない。正論を論破しようとしたところで虚しさが増すだけ。自分の守りたい気持ちが浅薄だということが言葉を放つだけ上乗せされていく。


「ありがとう。少し頭が冷えたよ! 手合わせよろしくっ!」


――――!!


 一瞬で間合いを詰めたカイトがネクロに切りかかる。

 しかしその短剣は空を切った。


「分かってる!」


 金属の擦れ焦げた臭いが鼻を刺す。

 カイトは振り抜いた体制から振り向くことなく短剣を逆手にもち後ろからの不意打ちを防ぐ。


 背後に姿を表したネクロはチッと軽い舌打ちをしながら再度距離をとる。


「じゃあ少し本気で戦おうかなぁ」


 相変わらずくるくると回している刀をほいっと宙に浮かせて両の手で取ると2本に分裂した。


――いや、そんなことより気になることが


「ネクロ!? その腕は⋯⋯」


 ネクロは失ったはずの右腕にも刀をもちヒュンヒュンと音を立てながら回している。しかし腕と言うには少し違う。腕に何かを纏っているような感じだ。


「まあ、詳しくは言えないけど僕のスキルということで! まあにいちゃんが相手だからこそ使えるスキルでもあるんだけどね」


 ふぅと一息つくと、刀の回転がぴたっと止まり再度両の手で構え直す。


「じゃ、改めまして」


 そういうとカイトの前からフッと姿を消した。ネクロの姿は見えないが、様々な角度から斬撃が飛んでくる。

 カイトは冷静に短剣一本で捌いていく。防戦一方で均衡が崩れるのも時間の問題であった。


(くっ⋯⋯刀の斬撃を捌くのに手一杯でオーラを練る暇がない)


 カイトのオーラソードは無から有を作り出し、形を留めておくには相当な集中力とMPが必要である。

 まだ実戦不足ということもあり、苦戦を強いられる。そして数回の手合わせでそのことを理解していたネクロはカイトにその時間を与えない。


「にいちゃんのオーラは厄介だからね! 出させなければ僕にも勝ち目はあるよ」


 カイトは斬撃を予測しつつ躱しているものの、全ては防ぎきれていない。一撃一撃の威力は小さいが確実にダメージは蓄積されている。


「それならば⋯⋯」


 カイトの全身が蒸気のようなものに包まれている。今まで右手にオーラを溜めて剣の形に留めていたものを身体全身に纏い、防御力を上げた。


「これなら少しはまともに戦える」


 ネクロの細かい斬撃はカイトのオーラを貫通することはできなかった。致命傷になりうる太刀筋は見事に捌かれネクロは一度連撃の手を止める。


「久しぶりの両手だからやっぱりバランスが難しいね」


 オーラに包まれている右肩を回し、今ひとつの様な感触を示している。余裕の表情のネクロは心底戦いを楽しんでいる印象があった。


「ネクロの強さは底なしだね⋯⋯」


 そんなネクロを見て到底自分には持ち合わせていない感情に少しだけ嫉妬のようなものも感じる。強い人には皆余裕があるからだ。

 ネクロはもちろんのこと、クライヴにも強さ故の自信があった。


「さあさあ、もっと遊ぼうよ。にいちゃんとの戦いは心が躍るね」


 ご飯前に待ち切れない子供がフォークとナイフでカチカチとするように、二本の刀の音を鳴らした。

 準備万端でカイトに突進しようとしたその時

 

(ま⋯⋯だ、闇⋯⋯カラを)


 この世の不安を具現化した様な声が脳内に響く。何か懐かしい様な、そしてとても恐ろしい様な⋯⋯


「ぐ、うわあぁぁあ!! うぅ⋯⋯、があぁぁぁ」


「ネ、ネクロ!? 大丈夫か!?」


 突然悲鳴をあげ、ネクロが苦しみ出した。刀を落とし、膝から崩れ頭をかかえる。

 先程までの余裕さとは程遠く、尋常ではない汗が滝のように流れている。


「ヤ、ヤメロオォォォォ」


 苦しみに耐え切れなかったのか、ネクロはふっと意識が途絶えた。あまりに突然の出来事にカイトは動かなかった。

 

 否、カイトにも聞こえた不思議な声を聞いた途端動けなくなった。


「そこまでーー! カイトの勝ちいぃぃ」


 不愉快な声によってカイトの勝利宣言が出された。


「ネクロちゃーーん」


 心配になったヒカリ達はネクロの元へと駆け寄る。すかさずヒーリングで回復するが、意識は戻りそうにない。


「大丈夫か? 一体どうしたんだ!?」

 

 シェイナが唖然としているカイトに声をかけるが、カイト自身も何が起きたか理解できない。


「みんなにも聞こえただろ!? あの声を聞いておかしくなったんだ! 司会者! もういい! 船に乗る人は決まったんだ。このトーナメントは中止にするんだ」


「⋯⋯⋯⋯」


 司会者からの反応はない。姿も見せず、カイトの虚しい声だけが響く。



 ギイィィィィ、


 カイト達が入ってきた大きな扉が開く。




「無駄だよ」



 

 一度話したら忘れることのないであろう憎たらしい声が舞台に響いた。



 

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