ヒカリVSコーネル2
パァッと光が弾けると大きな三つ編みと共にふわふわと宙に浮いていた。
ヒカリの背後には幾つもの魔法陣が浮かび上がっていた。
「これをやるとすっごーく疲れちゃうからあまりやりたくはなかったの。でも負けちゃったら意味ないもんね」
ヒカリが右手をサッとかざすと魔法陣が眩い光を放った。光は辛うじて矢の形をしているのを見て捉えることができたが、その瞬間には無数の矢がコーネルに向かって放たれていた。
「さすがに⋯⋯避けられない、ですね」
コーネルは誰にも聞こえない声で呟くと、剣を盾にする様に身体の前へと構える。
光の矢がコーネルに届く前に剣との間の障壁で全ていなされていた。
光が不自然な形となり目標を失ったかのように弾かれて上空へと飛ばされていく。
容赦なく二の矢、三の矢が放たれる。コーネルは直撃は避けているものの障壁で無数の光を弾くことに耐えきれず徐々に体力が奪われていく。
「ハァッ!!!」
光の矢を押し出す様に剣を前に突き出すと、障壁の力と矢の威力が重なり周りに衝撃波を産み出す。
すると絶えずコーネルに向かって注いでいた光が突然消滅した。
何事かと思いカイト陣営がヒカリの方へと目をやると、魔法陣が消え右腕を前に伸ばしたまま気絶していた。
「ヒカリーー!!」
カイトが叫んでもピクリとも動かない。一方それを機に攻撃に転ずるコーネルであったが、こちらも微動だにせず動かなかった。
(力を使いすぎた⋯⋯。辛うじて意識はあるが動けるか、、、?)
すると剣を突き出したまま固まったコーネルはその硬直が解けてヒカリの方へと走り剣を振り上げた。
「ヒカリー!目を覚ませー!」
シェイナも舞台の外側から叫ぶがその声に反応することはない。棒立ちのままだ――そしてコーネルが舞台を駆ける姿がスローに見える。
――――っ!!
その場にいる全員がもうダメだと思ったその時、コーネルの動きがピタリと止まっていた。剣を振り上げたまま静止しており、剣の重量を全く感じさせない、二人だけの時が止まったように固まっている。
「⋯⋯一体どうしたんだ?」
カイトは吹けば消し飛ぶ様な安心と不安で会場を見つめる。観客からも声はなく、みな息を呑んでいた。
「おぉーっと! ヒカリ、コーネル共に戦闘不能! よって一回戦は引き分けとしまぁす!」
「ひき⋯⋯わけ?」
緊張の糸が切れたのかその場に座り込むカイト。ほとんど静観していたであろう身体がいうことをきかない。大量の汗が吹き出し、意識を遮るほどうるさい鼓動を鎮まらせる。
カイトがヘタれている内にシェイナは舞台へと上がりヒカリの元へと駆け出した。
恐らく限界までMP値を絞り、枯渇したのである。こういった時の為にエリーナとの修行で何度も疑似体験はしているが、流石に一度の消費量が大きく無茶なエネルギーの使い方をしたためと思われる。
「ヒカリ大丈夫か!? 今マジックポーション飲ませてやるからな!」
シェイナは手に持った小瓶の様なマジックポーションの蓋を開け、ヒカリの身体にサッとふりかけた。液体が瓶から放たれると細かい粒子になりヒカリを包み込む。
すると身体から淡い光を帯び始める。
「はっ!! シェイナちゃん!? そこにいたら危ないよ! 魔法が当たっちゃう」
「もう勝負は終わったよ! ヒカリはMPの使いすぎでそのまま気絶してたんだよ」
「へ? 私負けちゃったの⋯⋯?」
状況が飲み込めないヒカリは、勝負が終わったとシェイナに伝えられほっと胸を撫で下ろした。勝負ごとがあまり好きではないヒカリにとっては勝ち負けはさほど重要ではない。
むしろありったけの魔法をぶつけたコーネルのことが心配になったヒカリは――
「えと⋯⋯コーネルさんは?」
「ん? 二人とも仲良く気絶してたからマジックポーションを使ってほら⋯⋯」
先程まで剣を振りかぶったまま静止していたコーネルにもマジックポーションを振りかけていた。コーネルはシェイナとヒカリに敬意を表した一礼を施した。
「あれだけの力の魔法を扱えるとは驚きです! とはいえ、私も力を使いきってしまったのでまだまだ未熟です。貴重なマジックポーションまで使っていただきありがとうございました」
「あ、いえ、その⋯⋯凄くカッコ良かったです!」
整った顔立ちの好青年に見つめられ、お礼を言われるなんて経験のないシェイナは顔を赤らめて下を向く。
「コーネルさん凄く強かったです! いっぱい修行したのに全然当たらなかった」
「これから私達は導きの船に乗る仲間として安心です! 必ず『闇』を晴らしにいきましょう!」
「はい!これからもよろしくお願いします」
「とはいえ引き分けってどうなるんだ?」
シェイナが一つの疑問を口にすると不快な声が会場に響く
「いやぁ、素晴らしい戦いだったね! 引き分けは両方とも負けと同じ扱いになるよ! 2回戦で勝った方は次不戦勝になるわけだ。なんともラッキーだね。さて、時間も惜しいから次の2回戦へと進もう。次はカイトVSネクロだ! 二人とも舞台に上がってくれ」
ご都合主義が否めない司会者は反論を受け付けるわけでもなく、ただ次の戦いへの宣言を行う。
「今回の大会は何か違和感を感じる⋯⋯」
舞台を降りる際にコーネルは一人呟いた。




