アージェルイスの騎士様
「ディスペル!」
その声と共にカイトの目の前の闇が消えていく。
「今のうちに逃げるぞ。俺のディスペルじゃ闇を防ぎきる力はない」
「クライヴ!? なぜ貴方がここに?」
「今は説明している暇はない。ディスペルを広域魔法にしているおかげで、体力が根こそぎ持っていかれる。そこの木偶の坊を置いていったっていいんだ」
「そんな言い方⋯⋯分かった。とりあえず村まで行きましょう。カイト急いで逃げよう」
「あ、ああ⋯⋯ごめんよ。こんな時に。とりあえず村まで急ごう。」
カイトは途切れた意識を戻し、現実か定かではない現実へと引き戻される。
3人は出会いと別れの丘から村へと走り出した。闇はディスペルが切れれば今にでも襲いかかってくるであろう脅威を保っている。
「もう少しだ。あの祠まで行けば闇の力は及ばなくなる。」
「はぁ、はぁ⋯⋯」
「カイト! もう少しだから頑張って」
カイトは何故か身体に力が入らず、体力も奪われていた。おそらく『闇』の効力なのだろうか。なんとか祠まで辿りつき、先程話していた結界とやらの効力でそこから先ははっきりと明るい景色が広がっていた。
「はぁ、はぁ⋯⋯助かったよ。ええと、クライヴさん」
「闇に呑まれたらどうなるかぐらい知っているだろう! それともただビビって動けなかっただけか?」
「クライヴ! そんな言い方しないでよ! カイトは記憶を無くしているの。今この世界のことが分からないの」
「⋯⋯⋯⋯」
「ふん。今記憶をなくす事自体が愚の骨頂だ。同情の余地がない。カイトとやら今回は命拾いしたな」
疲弊の顔が見えるカイトを冷たく遇らうとクライヴは村の方へと歩き出した。
「昔からクライヴはそういう人なの。気にしないで。でも根はいい人なの」
「うん。実際助けて貰ったことには変わりないよ」
「村へ行って少し休みましょう。私を引き取ってくれたおばあちゃんが宿屋をやっているの」
クライヴの後を追うように村へと歩き出した。
『闇』のせいで多少薄暗く感じる世界を歩く。日に照らされてさえいればキレイな花が所々にさき散歩に最適な草原である。
――――ガサガサ
何やら草から物音が聞こえる。カイトはその音が気になり振り向いた。
そして赤い液体上の物体が姿をあらわす。
「カイト! それは魔物よ! 結界の中で弱い魔物しかいないけど、人を襲う魔物。私に任せて」
「ふん。戦闘もヒカリにやらせるのか? その腰に付いている剣は飾りか? 人に頼らなければ生きられないならこの世界ではお荷物だ」
「⋯⋯分かった! ヒカリ。大丈夫だよ! 僕がやってみる」
「無理はしないでね⋯⋯」
ヒカリの心配を他所にカイトはそう言って左手で腰から短剣を抜く。
するとスライムはそれを見てカイトに襲いかかってきた。スライムは身体を液体状から固体になり勢いよく体当たりしてきた。
「くっ⋯⋯!」
右手でガードするも意外と攻撃が重く痺れるほどの衝撃を受ける。
スライムが体当たりの衝撃で跳ね返り地面に着地する瞬間にカイトは短剣でなぎ払うようにスライムを切り裂いた。
すると真っ二つになったスライムは自然と消えていった。
「ふぅ⋯⋯倒せて良かった」
「大丈夫? 怪我してない?」
ヒカリがカイトの右手に優しく触れると
「ヒーリング」
そう言うとカイトの右手が優しい光に包まれて痺れがなくなっていく。
「凄い! ヒカリは傷を治す魔法が使えるの?」
「そうなの。人には得意な属性があってその力を強く望む時に宿すと言われているの。カイトの属性はなんだろう」
「えっと、僕は⋯⋯」
おそらくパラメーターからは闇属性ということが伺えそうだが、なんだか伝えにくいこともあり吃っていると
「ちなみにクライヴは光属性よ。さっきのディスペルも光魔法の一つ。『闇』と相性がよくてこの世界において重宝されているの」
「そういうことだ。スライム一匹に苦戦しているようじゃとても闇には立ち向かえないお荷物ということだ」
「クライヴったらまたそういう言い方して! 素直じゃないんだから」
「何せ俺はアージェルイス王国の騎士だからな。一般人とは格が違う。今回もアージェルイス国王から闇の力が強くなってきているから様子を見てきてくれと仰せ使ってのことだ」
「アージェルイス王国⋯⋯」
「この大陸にある王国の一つよ。光の魔法の使い手が多く存在して『闇』からみんなを守ってくれているの」
「そういうことだ。カイトとやら今回は運が良かったが次はこうはいかないぞ。生き残るためにもせいぜい腕を磨くんだな」
「はい⋯⋯記憶を取り戻すためにも強くなります」
「俺は王国に戻って報告をする。段々『闇』は強く強大になってきている。光の魔法を強化する様に伝えねばならない。ヒカリも気をつけてくれ」
「ありがとう。私は大丈夫。クライヴも気をつけてね」
「ここならば使えるか⋯⋯はぁっ!」
クライヴから強い光を放たれ、眩しさに目を閉じ、開いた時にその姿は見えなかった。瞬間移動の一種みたいだ。
「ふぅ⋯⋯なんか色んな意味で疲れちゃったよ」
「クライヴはプライドが高くて、誰よりも強くありたいと思っているの。気にしないで」
「僕ももっと強くならなきゃ⋯⋯」
カイトは短剣を握りしめ、自分の弱さと危機感を胸に秘めた。