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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第二章 武闘会
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武闘会予選

 流石に大陸一の王国とあってその大きさは巨大であった。マイトの村でも村とは思えない程立派ではあったが、その財力の凄まじさを感じられた。


 キレイな川でお城が囲まれており、橋の入り口には何やら台座の上に丸い玉がぼんやりと光って乗っている不思議なオブジェが置いてある。


「あ、それはただの飾りじゃないのよ。そこから光のドームを常に作っていて『闇』に備えているの」


「へぇ⋯⋯これがそんなに力があるのかぁ」


「うん! 大陸の祠と合わせて二重に光のバリアをしてあるの。だからみんな安心してこの国に住めるのよ」


 私いっぱい知ってて凄いでしょと言わんばかりに得意気な顔をしている。三つ編みちゃんも自信満々。本当に可愛いというか愛くるしい人だなぁと改めて思ったカイトである。


――バァン、バァン――


 そんな話をしている最中、花火が打ち上がった。おそらく武闘会を開催する記念すべき日なのだろうか、橋を渡る多くの人達も上を見上げていた。


「早く行こうぜ! どれだけ強い人がいるのか楽しみー」


 痺れを切らしたシェイナは走り出し、城門へと向かった。


「あ、ちょっとシェイナちゃん! 待ってー」


 後を追って城門へと向かう。五メートルはありそうな巨大な扉が開いており、これどうやって開けるんだろうと野暮なことを考えてしまう。

 城門の両脇には屈強そうな兵士が二人立っている。全身鎧で覆われているが、そのガタイの大きさで分かる様にカイトの倍くらいはありそうだった。そして槍を突き立て仁王立ち。攻撃されたらひとたまりもないだろう。


 田舎者丸出しの様にカイトはキョロキョロしながら門を潜ると、そこには華やかな城下町が広がっていた。

 街はお祭りムード一色。屋台の様なもお店がずらっと並んでいて、活気に溢れている。中にはうさぎの様な着ぐるみを着て風船を配っていたり、強そうな若者達もいれば親子連れで楽しんでいる人達など様々だ。


「よぉ! そこの可愛い姉ちゃん達! そんな貧弱そうな奴といないで俺達とデートしようぜ」


 祭りに見惚れながら歩いていると、お約束のナンパ師に出会った。確かにヒカリもシェイナもかなり可愛いと思うが、カイトは記憶もなく、度胸もないのでどうしたらいいのかと少しおどおどしていた。


「私達をナンパするぐらいならモチロン私達より強いんだろ?」


 ちびっ娘シェイナは啖呵を切ったが、明らかに怪力自慢の様な二人組がケタケタと笑っていた。


「俺達がお姉ちゃん、いやお嬢ちゃんにか? 負けるわけないだろ! これからメインイベントの武闘会に出るんだぜ」


「そっか⋯⋯。 じゃあ『願い手』を申し出てやるよ」


 それを聞いていた周囲の人間や、ナンパ師の二人は一瞬固まった。


「ちょ、ちょっとシェイナちゃん! 願い手なんてダメだよ! すいません。この子が勢いで変なことを⋯⋯」


「いいや! 俺たちはしっかりと聞いたぜ? なぁガンズ!」


「おうよ、ゴンズ! 願ったり叶ったりとはこの事だぜ! 今日はツイてやがるな」


「お、おい⋯⋯あの子達まさかのゴンガン兄弟に『願い手』してるぞ! あのヒョロヒョロの弱っちそうな男が闘うのか?」

 

 気付くと周りには大勢の人だかりが出来ていた。それもそのハズ。ゴンズ、ガンズ兄弟略してゴンガン兄弟はアージェルイス王国で有名なナンパ師。

 ゴツいハゲの髭面が二人並んでいると女の子は近寄ってはいかない為、何も知らない田舎者の女の子が捕まるという仕組みになっている。

 腕っ節が強いのをいいことに、好き放題やっていて町の人達は困り果てていたのだ。


「ねぇ『願い手』って一体⋯⋯」


 一人状況についていけないカイト。ヒカリはシェイナちゃんを止めなきゃ! としている中ネクロが説明してくれた。


「兄ちゃんに教えてあげよう! 『願い手』は実はナンパに対応した国のちょっと変わった法律なんだ。ナンパで声をかけた人は、この『願い手』を言われたら断れないんだ。そしてその場で手合わせをしなきゃいけない上にナンパ師が負けたら国外追放!」


「もしシェイナが負けたら?」


「相手の言いなりにならなきゃいけない」


「え!? そんなのひどいよ! すぐに辞めさせないと」


 カイトも遅れてことの重大さに気づいたのか慌ててシェイナを止めようとする。


「まあ、普通はか弱い女の子じゃ太刀打ちできないから隠れて用心棒みたいな奴を雇うんだけどね! 保険屋さんみたいなもんだね」


 ネクロと話している内にもその場はヒートアップしている。周囲の人間は誰が戦うのか、ガンゴン兄弟に太刀打ちできる人がいるのかと大盛り上がり。中にはどっちが勝つのか賭けを始める者さえ出てきた。


「シェイナちゃん辞めようよ! ちゃんと謝って終わりにしましょう?」


「いや、こんな奴らに屈したくない! それに今の私達なら楽勝だよ! まぁとにかく任せといて」

 

 シェイナは自分が負けるはずがないと自信たっぷり。肩を回して準備運動までする始末だ。


「おいおい! 早くやろうぜ。そっちの弱っちそうな兄ちゃんが戦うのかい?」


「まっさか! 私が相手するに決まってんだろ! カイトが出るまでもないよ」


「マジかよ。女の子をいたぶる趣味はねぇがそう言うならしょうがねぇよなぁ。せいぜいこの後遊べる道具として使えるくらいには手加減はしてやるからよ」


 この二人には別の異名もある。赤い肩当てをしている方が血染めのゴンズ。青い肩当てをしている方が冷徹のガンズ。肩当ての色だけではなく、ゴンズはとにかく痛ぶる事が大好きでありガンズは相手をジワジワと追い詰める拷問的な事が大好きとどちらにしても悪趣味である。


「よく言うよ! ゴンズは思い切って相手を殺しちゃう時だってあるだろ。そうじゃなくてもっと手足を縛ってさぁ⋯⋯」


「あぁもう! そっちこそどっちでもいいから早くやろうぜ! 予選会までのウォーミングアップなんだから」


「ん? お前達も予選会出るのかよ! グワッハッハッハッ。そいつは無理だ。遊びじゃねぇって事をここで分からせてやるよ」


 そこにやっと現状を理解したカイトが割って入ろうとするが、既にシェイナは戦闘体制に入っていた。正直シェイナが負けるとは思っていないが、あまり目立ちたくもなかった。

 

「そんで、赤いのと青いのどっちからやるの?」


「じゃあ俺からやらせてもらうぜ! というよりガンズには回らねぇけどな」


 大勢の人が見守る中、『願い手』が町のど真ん中で開始される。相手は血染めのゴンズ。二人が構えると、それまで騒がしかった観衆が二人の戦いに注目しそこだけがまるで異空間の様に感じられた。


「じゃあいくぜ! オラァ!!」


 ゴンズは巨体には似合わず鋭いパンチを繰り出す。武器も持たない事から元々拳での戦いが得意な様に感じる。

 そしてシェイナは巨大な拳を間一髪で避けていく。拳の風圧と風切り音だけが響き渡るが、その音を聞くだけで一発貰ったらかなり危険な事が分かる。


「ほっ! よっ! はっ」


 気の入らない声でヒラヒラとかわしているが、周りの観客は当たったらあのかわいい女の娘が一溜りもないと冷や汗ものである。


「避けるのは上手だなぁおい! これならどうよ?」


「!?」


 ゴンズは手を止め、何やら力を溜めている。

するとその巨大な身体がなんと二つになった。


「「グワッハッハッ! 手数が二倍になっても避けられるかな?」」


「くっ! このぉ⋯⋯。はっ。ほいっ」


 少しずつ避けるのが辛くなってきたシェイナ。パンチやキックがあらゆる角度から飛んでくる。


――ガンッ――


「あぁもう! 鬱陶しいわ!!」


 シェイナは左右同時に飛んで来た拳を、手甲で受け止めた。当たり前の様にする動作に多くの人が驚いていた。


「ゴンズの拳を受け止めた⋯⋯? あの細い腕のどこにそんな力が」


「なんか触れるのも生理的に嫌だから避けてたのに⋯⋯。もう色々限界! ハァッ!!」


「「うおぉっ!!」」


 シェイナが気合を入れると二人のゴンズは勢いよく吹っ飛ばされた。その衝撃でスキルが解除され一人に戻っていた。


「もう身体も温まったし準備運動にはなったよ!」


 ゴンズが起き上がろうと体勢を整えている隙にシェイナは猛スピードでその距離を詰めた。そして右の拳に僅かなオーラを纏いゴンズに向けて突き出した。

 すると身体に触れていないのに、ゴンズが城壁の方まで吹き飛ばされた。まるでお手玉のように何度もバウンドし、城壁に叩きつけられゴンズは気絶した。


「つ⋯⋯強い。あのゴンズを一撃で⋯⋯」


 野次馬だった観客はシェイナの強さに驚いた。用心棒でさえ太刀打ち出来ない場合もあり断ることもあるというゴンズとの手合いに、この小さな少女は勝ったのだ。


「さてと⋯⋯。これでアイツは国外追放決定っと! あとは青い方のおじさんだね。さぁ、いくよ!!」


「いや、ちょっと⋯⋯待っ、ぐはぁ!!」


 ガンズは先の戦いを見て、何が起こったのか分からなかった。ゴンズが一撃で気を失ったことなど無かったからである。

 頭の整理がつかないまま気が付けば目の前には自分より二回り程小さい女の子がいる。


 弁明する暇もなく、ガンズの鳩尾にボディーブローが炸裂する。その破壊力は一瞬で意識を刈り取るには充分であり、実は青いガンズの方がタフなんだということはパーティーの誰もが知る事は無かった。


「す⋯⋯すげぇ⋯⋯。あの二人を一瞬で倒すなんて」

「それに二人とも国外追放!? やったぜ! これで怯えなくて済むぜ!」


 何かと嫌われ者だった二人はナンパだけではなく、お店の人達にも横暴していたようだ。まさか一人の女の子により国外追放される事になるとは二人に取っても恥でしかない。


「さっすがシェイナちゃん! 私は心配なんかしてなかったんだからね」


 ヒカリは先程焦って止めに入った事を無かったかの様に振る舞っている。シェイナは若干呆れつつも、ありがとうと一言添えておいた。


「勝ったから良かったものの、目立つ行動は避けて貰えると助かるんだけど⋯⋯」


「ごめんね。ついついカッとなっちゃって」


 テヘペロと言わんばかりにウィンクしているが、なんとも言葉が出なかった。とりあえずシェイナは無事だし、町の人達にとったらいい事をしたのだから余り責めずにしておいた。


 ゴンガン兄弟は町の傭兵から城門へと追い出されていて、もう一度入れろとかあの女をぶっ潰すなど喚いていたが城門の兵士によって一蹴されていた。

 やはり国を守る門番恐るべし。


「シェイナか⋯⋯要注意だな⋯⋯」


 大勢の野次馬の中で男は一人そう呟いた。


「早く行かないと予選の受付終わっちゃう。急がないと」

 

「えー。まだお店で何も買ってないよぉ? 美味しそうな食べ物いっぱいあるのにぃ」


「ごめんねネクロちゃん。落ち着いたらみんなでお買い物しましょうね」


 ぶーっと膨れっ面をして不満そうなネクロであったが、予想外のトラブルにより時間も迫っている様なので予選の受付を優先する事にした。

 

 お店でキレイに道が作られた先には、大きなコロシアムがありそこに予選会が行われるらしい。

 遂に会場に辿り着くと、既に大勢の人が並んでいた。上から下まで武装している者や、受付を終えた者だろうか空いてる場所で剣の素振りをしている若者。余裕そうに大木の根っこに寄りかかって居眠りしている人、戦えるのか心配になるくらいの老人など多くの参加者が集まっている。


 数十分程でカイト達の受付が回ってきた。受付方法は簡単で水晶の様なものに手をかざすと手の甲にうっすらとアルファベットが浮かんできた。

 

「そちらに浮かんだアルファベットが貴方のグループになります! ご検討お祈り致します」


「なるほど⋯⋯僕は『C』って出てきた」


 カイトの手にはうっすらと文字が浮かんで来てそれをもって受付は完了らしい。名前などの記入がないのは参加者が多すぎて管理しきれないとの事。


 そして各々の受付が完了した。全員のブロックは


・カイト 『C』ブロック

・ヒカリ 『F』ブロック

・シェイナ『H』ブロック

・ネクロ 『A』ブロック


 に分かれた。ブロックはAからHまでの8ブロックに分けられているそうだ。


「良かった⋯⋯偶然にも全員違うブロックみたいだ」

「うん! 全員勝ち残りましょう」

「いやぁ修行の成果が楽しみだ」

「まあ僕は全員瞬殺しちゃうけどねー」


 それぞれ意気込みを持ち、導きの船の乗船をかけた闘いが始まる。


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