黒の宝石
遅くなりましてすいません。
いよいよ武闘会編スタート致しますので是非楽しんでいってください♫
ヒカリが手を払う動作をすると同時にサーッと闇が晴れていく。ヒカリの手がぼんやりとオーラに包まれ、その動作もまるで聖母の様な柔らかい動きで闇を払う。
「この程度の暗闇ぐらいじゃ怖くなんてないんだからね」
発言が動作とちょっと合っていない所がヒカリらしいが、確実に強くなっていることが分かる。そして晴れた暗闇の中から、真っ黒なスライムが焦ったかの様な動きで逃げて行くのが見えた。
「あ! 逃げるなぁ!」
シェイナが掌底波を打ち込むが、的が小さい上に素早い動きで躱していく。草原が衝撃と砂埃で満たされる。
「シェイナちゃん。私に任せて! もう逃がさないんだからね! プチ・シャイニング」
右手をゆっくりと上に動かすと、砂埃から薄く光る泡に包まれたスライムがふわふわと宙に浮かんだ。そして左の掌には豆粒のような光の粒が数十個程が不規則に並んでいた。
そして左手をスライムに向けてさっと放ると、小さな粒子はスライムの身体を次々と貫いていく。
その全てが通り過ぎたあとには、黒い液体の塊は蒸発していた。
そしてパァっと光った後に何かがコトンと地面に落ちる音がした。
「ドロップ⋯⋯アイテム?」
そこには漆黒の闇に染まった掌程の綺麗な宝石が落ちていた。
「わぁ⋯⋯キレイ! でもなんだか少し怖いオーラも感じる」
「高く売れそうだな! 絶対レアアイテムだよ」
金目に眩んだシェイナは目を輝かせながら、宝石を見ている。そんなシェイナを横目にカイトは宝石を手に取った。
「確かに凄くキレイだね! 大切に取って⋯⋯っ!!」
黒い宝石はカイトの手の上で強く輝きを放ち、スーッと顔の前まで浮かんだ。
その場にいる全員がその妖艶な輝きに見惚れていた。まるで時が止まった様な感覚であり、寧ろ意図的な何かに動きを止められている様にも思えた。
そして黒い宝石は更に暗く、黒く、強い輝きを放ちながらカイトの脳に吸い込まれていった。感情までも黒いモノに支配されてしまいそうだ。
「うわあぁぁぁあ⋯⋯。頭が⋯⋯頭が割れるうぅぅぅう」
急にカイトは苦しみだし、全身から黒いオーラが吹き出す。近づけないほど恐ろしい程の力を感じる。
「「カイト!?」」
「兄ちゃん!?」
「うぐうぅぅあぁぁぁ⋯⋯⋯⋯。はぁ、はぁ⋯⋯」
大量の汗が地面に落ちる。しかし、禍々しいまでの黒いオーラは落ち着き、特に変化は見られなかった。
「だ、大丈夫? すぐに回復してあげるから」
ヒカリはカイトの腕に優しく触れると温かく仄かな光が全体を包み込む。どうやらヒーリングのようだが、ヒカリは辛い修行の中詠唱なしでの回復を身につけていた。
「ありがとう⋯⋯。今のは一体⋯⋯」
落ち着きを取り戻したカイトは、改めて宝石のことが気になった。身体に違和感はなく、頭に何か埋め込まれた様な感じもしない。
では先程までの頭蓋骨にまでめり込んでいるような激しい痛みはなんだったのか、妙に気持ち悪い気分であった。
パラメーターに目をやるが特に変化もない。まあ何もなければ取り敢えずは大丈夫だろうと楽観視していた。
「本当に大丈夫か? 暗闇の洞窟の時みたいに気を失ったりしないでくれよ」
「う、うん。とにかく何ともないみたい! それより急がないと武闘会に間に合わなくなっちゃう」
「お! それならあっと言う間に着く方法があるぜ!」
ドンっと胸を叩き、私に任せろと言わんばかりのシェイナであったが、ネクロとヒカリは同時に青白い顔をしていた。
「あ、あの⋯⋯大丈夫! まだ歩いても間に合うから。全然大丈夫だよ」
「そ、そうそう! ヒーラーのお姉ちゃんの言う通りだよ」
ヒカリは両手を突き出し、大きな三つ編みも嫌々と揺れていた。そんな二人の様子にカイトは何の事か分からない顔をしていた。
以前モルテプローヴァの山に行った時に、フェムトとクイックステップで激しい「シェイナ酔い」にあったことを思い出した。
楽しい雰囲気を取り戻した御一行は、黒いスライムと宝石の事を気にしつつもアージェルイス王国へと急いだ。
その後は特に目立った敵も出現せず、アージェルイスへと繋がる大きい道をひたすらに歩いた。
王国に近づくに連れて、荷物を乗せた馬車や御大層な鎧を着けて歩いている人、魔道士の様なローブを羽織った怪しい人など多くの人達を見かけた。
そして、道もいつの間にか舗装された道に繋がり石畳の様な道になっていた。
「見えてきたわ! あれがアージェルイス王国よ」
ヒカリが指をさしたその先には、大きな城門が見えた。そして手前には如何にもという巨大な吊り橋が掛かっていて、武闘会がある事を聞きつけた猛者達が集っているのが見えた。




