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異世界の三つ編みはほどけない  作者: カイ
第一章 ヒカリと『闇』
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導きの船

最近仕事が忙しくて筆が止まっております。

頑張って更新しますので是非感想お待ちしております!

 小屋は夜になると静かだった――。森に囲われていて、もちろん人が訪れることなどあるわけがない。


 夜になれば『闇』に覆われてしまう世界。カイトは一体自分が何者なのか、知れば知るほど自分ではない様な不思議な感覚に襲われていた。


 ベッドに座り小屋の窓から外を眺めるが、暗いというより漆黒であり月明かり的な物もない。ただ見ているだけで不安に駆られる様な闇である。


「あ、それ私のー! まだ食べてないのにー」


「食事を分けて貰えるだけありがたいと思いなよ! 食事担当は大変なんだぞ」


 狭い小屋の中では、これまた小さな小さな小競り合いが行われていた。

 シェイナがよそ見している隙にネクロがパンを食べてしまったらしい。


「私のあげるからそんなに怒らないで? こうして助けて貰って修行までつけてくれてるんだし⋯⋯」


「そうだ、そうだ! ヒーラー姉ちゃんの言う通りだ」


「くっ⋯⋯。反論できないのが悔しい⋯⋯」


「⋯⋯エリーナさんは食べないんですか?」


 シェイナが大人しくなり、ヒカリはふと何も食べてないエリーナが気になった。

 初日に会った時も、ネクロは背中いっぱいキノコを抱えてスープを作ったがエリーナは口にしていなかった。


「私はいいのよ⋯⋯。私ほどの強者になると、何も食べなくても生きていけるわ。何があっても⋯⋯ね」


 バツの悪そうな顔をしてエリーナは答える。


「何かあったんですか?」


 窓の外で思い耽っていたカイトは、テーブルへと身体を向け質問した。エリーナが戦争等に自分を利用する人々が好きではないということを、意識を失っていたカイトは知らなかった。


「私は人間が嫌いなのよ。自分勝手で救いを求める時だけは諂って、必要が無くなれば力を恐怖と思い退ける。好きになる道理がないわ」


「⋯⋯⋯⋯」


 カイトは何も言えなかった。そんな人ばかりじゃないと詭弁を振るいたかった訳ではない。僕たちはそんな事ない――なんて言えた義理もない。ただただ失われた記憶の中に人間という概念が無数に存在しては心を揺さぶっていく。

 

 ゴーレム戦の時に意識を失っていた、否、黒い感情に奪われていた時の感覚に似ていた。何も人間が嫌いという訳ではない。

 人間という生き物がワカラナイ。記憶を失ったせいなのか、元々の記憶がカイトを蝕んでいるのか――


「気を使わせちゃったかしら? 貴方達を助けたことも、こうして手合わせすることも全ては運命よ。私は運命に従うだけ」


「エリーナさん⋯⋯」


「そして坊やの記憶には恐らく『闇』が関わっているわ」


「⋯⋯!!」


 そこにいる全員に緊張が走る。まだ何も解明されていない『闇』がカイトの記憶に関わると聞かされれば当たり前の事であり、ここが小屋の中でなく街中であれば戦争を引き起こす可能性もある一言だ。


「僕の記憶が『闇』に⋯⋯?」


「あら、深い意味はないわ。長年生きている女の『勘』ってやつね。何となく手合わせして思っただけよ」


「絶対『闇』について知ってるだろ! 何でもいいから教えてくれよ」


 シェイナは熱くなり、机を両手で叩き立ち上がる。急な物音に周囲は驚き、ハッとなったシェイナは小さくごめんと謝り静かにイスに座った。


「貴方も知っている通り『闇』が現れたのは約一年程前。突然世界の中心に現れた。その侵攻は早く、夜になると中心の柱は大きくなり漆黒の闇で覆うようになった」


「だから戦争が――」


「そう。闇は恐怖で世界を支配した。ある者は闇と闘い、ある者は闇の力を求め、力なき者は怯えて身を隠した」


「でも僕にどんな関係が⋯⋯?」


「以前貴方が気を失っていた時、ヒーラーのお姉さんに聞いたわ。貴方が突如現れたのは数日前。そして『闇』の力が強くなってきたのがちょうどその頃⋯⋯。偶然とは思えないわね」


 エリーナは淡々と話しを進めるが、カイトは話しについていけない。困惑した表情をするカイト。

 だが、確かに最初『闇』に飲み込まれそうになった時には意識を奪われたかのように動けなかった。そしてカイトを『闇』が欲していたかの様にも見えた。


「僕が⋯⋯『闇』と⋯⋯」


「だ、大丈夫だよカイト! 『闇』なんかウチらが吹っ飛ばせばいいんだろ?」


 シェイナは戸惑うカイトを励まそうと気丈に振る舞う。カイトは俯いたまま、ありがとうとお礼を言うと目を瞑り、ベッドに寝転がった。


「そうよ! 私達が『闇』を振り払えばきっとカイトの記憶も戻るし、世界も平和になる! 頑張って強くなりましょう!」


「二人ともありがとう。こんな頼りない僕の為に⋯⋯」


「因みにいい事を教えてあげるわ。貴方達では『闇』を払うどころか、近づく事さえできないわ」


 これから頑張ろうという、三人の希望を打ち砕く様な一言に、全員がエリーナの方へと顔を向けた。


「それはどういう意味だ?」


 珍しくカイトの声には怒りが混じっている。いつものエリーナの冗談だとしてもタイミングが悪すぎた。


「最後まで聞きなさい。貴方達の力不足を嘆いているわけではないわ。『闇』の力が強すぎて私ですら近づくことは厳しいのよ」


「エリーナさんでも!?」


「だとしたらどうすれば⋯⋯」


「焦りすぎよ。貴方達は私が助けたこともそうだけど、本当に運がいいわ。この大陸は『光』の大陸。『闇』と戦う人々は此処を拠点にしているのよ」


 三人がエリーナの話を真剣に聞いていたが、ネクロは退屈になってしまったのかそのまま眠りこけていた。

 シェイナから奪ったパンをフォークで突き刺したまま食卓にうつ伏せになっていた。

 エリーナはそのまま話を続けた。


「アージェルイス王国では『闇』に立ち向かう為の強者を集うため定期的に武闘大会が開かれているわ。そして選ばれた者は――」


「導きの船⋯⋯」


「そう。ヒーラーちゃんの言う通り導きの船に乗って『闇』に挑むのだけれど、無事に戻ってきた者は数少ないわ」


 エリーナの話によれば導きの船には強力な光の加護が付いているとのこと。

 生身の身体で行こうものなら『闇』に飲み込まれてしまい、行方不明のまま生きているのか死んでいるのかも分からない状態になるらしい。


「そういえばその武闘大会は、一ヶ月後に行われるらしいわ。貴方達も参加してきたらどうかしら」


「一ヶ月後⋯⋯。それまでしっかり修行して強くなろう。そして導きの船に乗って僕達が『闇』を晴らしにいこう!」


「うん! 私はカイトについていくよ! たとえどんな事があっても」


 一ヶ月後に控えたアージェルイスの武闘大会に向けてエリーナの修行は続く。

 

 



 そして『闇』は少しずつ、確実に近づいていた。

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