シェイナの欠点
襲撃にでもあったかのような跡地から激しい光が溢れ出し、そこには薄いバリアの様な物に包まれているエリーナが立っていた。
「いいわぁ⋯⋯ゾクゾクする。貴方達が強くなっていくのが⋯⋯」
バリアの中からでも溢れんばかりのオーラが練り出されているのが分かる。側から見ると化け物だ。しかもとびきりの化け物。
グランドマスターとの実力差がここまで絶望的だとは思わなかった。ヒカリの強化魔法と奇襲を用いて、蹴り一撃のみがやっと与えたダメージである。
「さぁ、いくわよ!」
クレーターの中から姿は消えていた。咄嗟にシェイナは腕をクロスしてガードする。
エリーナは身長の低いシェイナよりさらに低い姿勢で屈み、天まで突き上げるようにその長い脚で蹴り上げた。
シェイナの身体は宙へと打ち上げられ、驚異的なジャンプ力で追いかける。地上にいるカイト達には顔が見えないくらい高い場所での空中戦が繰り広げられようとしていた。
「腕が痺れるー」
「あらあら、まだ余裕といった表情ね」
「何度も同じ手をくうかよ! 絶対狙ってくると思ったよ」
二人の姿は遥か上空であり、下からでは顔の認識が出来ないくらいに遠い。側から見ると異様な光景だ。
そして少しずつ落下しながらも激しい肉弾戦は続く。
「はっ! てやぁ!」
「空で動きを制限されてるのにいい動きね」
撃ち合いというよりは、シェイナの拳を全てガードしている。武闘家ならではのスピードと手数で翻弄しようと試みるが、フェイントすら通用せずがむしゃらに手を出すことしか出来ない。
「いいわ! 貴方の欠点を教えてあげる」
エリーナはシェイナの拳を受けとめ、腕ごと掴み地上に向けて背負い投げをする。その勢いは凄まじく、シェイナはなす術もなく地面に叩きつけられた。
「うぅ⋯⋯ヒカリの強化魔法込みでこの力量差か⋯⋯。果たしない強さだ」
「貴方の欠点は武闘家としても致命傷だわ。すぐにでも克服した方がいいわね」
空中からフワッと降りてきたエリーナ。目の前にはドレスから華奢な脚が見えている。どこにこれ程の力があるのか分からない見た目であり、そんな事を頭の片隅で考えながら立ち上がった。
「致命傷な欠点⋯⋯?」
「そうよ!貴方は気功波の類いに頼りすぎて接近戦がまるでダメね。近接スキルもないみたいだし、パーティの特攻隊長としては最悪ね」
確かにシェイナの一番得意な技といえば掌底波であり、大人シェイナの戦いから学んだ水龍翔蓮波もどちらかというとミドルレンジの技である。
「確かに⋯⋯。殴り合いになった時に使えるスキルがない」
「そして波動系はタメが長いから隙も生まれやすい。まずは、すぐに発動できるスキルを身につけることね」
「じゃあ私にもカイトみたいに教えてくれよ! 色んな技を使えるんでしょ?」
「甘えてもらったら困るわ。坊やは素質があって、すぐに実践できそうだったから教えたまでよ。そのくらい自分で考えて覚えなさい。少なくとも今回の手合わせで少しはレベルが上がった筈だから」
「わ⋯⋯分かったよ。ありがとうございました」
納得いかないシェイナだったが、ぺこっとお辞儀をしてぶつぶつと独り言を言っている。
シェイナは言葉遣いや態度こそ生意気だが、根は真面目で先程の手合わせを自分なりに分析していた。
「ところでヒーラーのお嬢ちゃん」
「は⋯⋯はいっ!?」
完全に戦闘についていけず、見守っていただけのヒカリは急な呼びかけに三つ編みが逆立ちするほどビクっとなった。
「貴方の役目は回復だけではないのよ? リ・ヒールを使えたことには驚いたけれども、強化魔法の維持や攻撃の種類、そこが完全に疎かなの」
「はい⋯⋯。私も頑張ります⋯⋯」
「闇と光の属性を持ち合わせたヒーラーなんて世界で数えても僅かしかいないわ。それを武器にしなさい」
「あ、ありがとうございます」
「とりあえず今ので各自の欠点は分かったわ! 明日からはその欠点を補う為の基礎修行を行う予定よ」
「「「お願いします」」」
三人ともお礼をし、これから頑張ることを誓った。そうしている内にいつの間にか日が沈み夕方になっていた。
小屋の周りは地面や森が激しく抉れていたが、エリーナの魔法で元へと戻っていた。
その底知れない強さと魔力に頼もしさと共に少し恐怖を覚えた。




