ジョブチェンジ
(坊やの正体はまさか⋯⋯。いや、でもそうするとあの方は⋯⋯)
実はカイトが気を失い、小屋で介抱していた時から感じていた懸念。それが少しずつ期待と不安に変わっていく。
レベルの上がらない理由。そして記憶を無くし、この世界においては珍しい闇属性。
「なるほど⋯⋯。確かに今まで僕は危険を犯して懐に飛び込むしか出来ませんでした」
「え? あ、そうね⋯⋯。坊やは短所であるリーチの短かさを活かすといいわ。動きの幅が広がってフェイントや、立ち回りにつかえるから」
「ありがとうございます! でも⋯⋯僕のレベルがずっと上がらないのですが、それは経験不足なのですか?」
唐突な質問に驚いたエリーナ。正に今その事について考えを巡らせていたところだった。
グランドマスターともなる手練れが、レベル10ちょっとの頼りない青年について考えている。
ある種、誰にも興味を惹かれないエリーナにとっては異例のことなのだ――
「そうねぇ。坊やにとっての『経験』とは何かを考えるしかないわね」
「僕にとっての⋯⋯経験」
「まあ、そう気にする事ではないわ。この世界において、強さを推し量れるのがレベルというだけで他にも強くなる方法は幾らでもあるの。現に坊やは修行してから強くなっていると思うのだけれど」
「実感はあまりないですが、確かに前より戦える様になった気はします」
「もう一つ戦っていて分かったことがあるわ。坊やには私の様に、オーラを使って武器を出す事ができるはずよ」
カイトは覚えていないが、暗闇の洞窟で大剣を抜き高くまで禍々しいオーラを纏っていたのは事実である。
「でも⋯⋯どうすればいいのですか?」
「まずは目をつぶってイメージしなさい。坊やの身体を流れる気を感じ取るのよ」
カイトは言われたままに目を閉じる。エリーナから話しを聞くまでは何も感じていなかったが、全神経を集中させ身体の中を巡る気の流れが感じ取れる。
一度理解してしまうと、何だか身体がムズムズして気持ち悪いような感じもする。
「何だか、陽だまりの様な温かい気と、流れる度に背筋が凍る様な気を感じます」
「それが光と闇の属性よ。それを掌に集中させて剣をイメージしてご覧なさい」
「あ、見てみて! カイトの手が光ってる!」
ヒカリの言うようにカイトの手は微かな光を纏っていて、少しずつ掌にオーラが集まっていく。それも両手同時に――
――ブゥゥゥン――
カイトの両手から、オーラの剣が出現した。左手からは闇を纏った青黒い剣が、右手には眩い光を放つオレンジ色の剣が出現した。
「凄い! 重さも感じないし、力が漲るような気もします」
(両手剣⋯⋯。やっぱりそうなのね。だとすると『闇』の秘密は坊やにあり⋯⋯か)
「カッコイイ! 短剣よりこっちの方が素敵!」
「うわぁ、兄ちゃん見た目だけ強くなった!」
「うーん⋯⋯気を武器に⋯⋯。うわぁ!!」
カイトがあまりにも簡単そうにやってのけたので、元々気を放出させて戦う形のシェイナが真似てやってみたが、どうも暴発して気が放出され遠くの木が一本見事に破壊されていた。
「これは実は凄く難しいことなのよ。おそらく坊やの職業もこれで変わっていると思うわ」
カイトは端にあるコマンドを開いてみる。レベルが上がっていない事が気になっていてあまり使ってはいないコマンドを見てみると――
――カオスナイト――
レベル15
力 58
素早さ 62
体力 95
HP 130
MP 90
「カオス⋯⋯ナイト? パラメーターが大幅に上がってます!」
「すげー! 兄ちゃん強くなったのか? 戦ってみたいーー!」
ネクロが目を輝かせながら、カイトとの手合わせを希望する。さすが戦闘狂。とてもそんな風には見えないが、強い人を見るといてもたってもいられないらしい。
「私は次の二人の為に余力を残しておくから、ネクロ、手合わせしてみなさい!」
エリーナがあれ程の動きで疲れる訳はないだろうが、余りにもネクロが興味深々だった為委ねることにした。
「やったー! じゃあ兄ちゃん構えてー!」
「え⋯⋯ちょ、ちょっと待って!」
カイトとネクロは一度間合いをとり、構える。隻腕のネクロはナイフ一本で構え、カイトは慣れない両手剣を前に出す。森の中で光と闇のコントラストが映えている。
「じゃあいっくよーー!」
ネクロは素早さを活かし、右へ左へと素早く動き回りカイトを惑わせるよう動く。きっと今まではそれすらも捉える事ができず、姿が消えたように錯覚するだろう。
それだけでも大きな進歩であるが、カイトはそれに気付いてはいない。
一方カイトは、両手剣の様子が分からず受けの姿勢で待ち構える。
ネクロはカイトから見て左側から胸元を目掛けて、飛び込む様にナイフを突き出してきた。
カイトは闇の剣の腹でそれを受けて、すかさず光の剣でネクロ目掛けて斬り下ろすが、ネクロの姿は既にそこにはなかった。
――背後に回り込んだネクロは、短いナイフの利点を活かし右肩を斬り付ける。傷は浅いが、何度もくらえば集中力も落ち、オーラの剣はいずれ消えるという事を知っていた。
「くっ⋯⋯。中々上手く動きが捉えられない」
ネクロの狙い通り、光の剣のオーラが少し小さくなっていた。
「兄ちゃんは分かりやすいね! 確かに強くなったけどまだまだだね」
正面から突っ込んでくるネクロ――が、顔のすぐ横を鋭い光の短剣が通り過ぎ、勢いよくネクロの服ごと後ろの木へと突き刺さる。
そしてカイトが一瞬で距離を詰め、闇の剣を喉元に突きつけた。
「すごーい! ネクロちゃんに勝った!?」
「くっそーー! 悔しいーー! 今のは認めないぞ。油断しただけだーー」
「あらあら、分かってないのね。坊やは斬り付けられた時、わざと油断させる様にオーラを小さくしておいたのよ。そうでしょ?」
「はい。さっきオーラの量を調節して、それを短剣に見たてて投げてみました。上手くいくとは思わなかったですが⋯⋯」
「早速教えを活かしたわけね。坊やは充分強くなったわ。さて、時間もないことだしあと二人は纏めて修行しようかしら」
「まだやるー! 僕は負けてないぞー!」
駄々をこねるネクロを余所に淡々とエリーナは話しを進めた。
この修行で見事カイトは主人公らしからぬダークダガーからカオスナイトへとジョブチェンジを果たした。
全員の修行前と後のパラメーターは後ほど別で表記致します!




